第3話 姫、旅に出る

私達が村に着く頃には鎮火され、怪我人が村の入口に並べられていた。


「じっちゃん!」

爺さんを見つけたアスタは彼に駆け寄り、言葉をかける。

痛む頭を抑えながら私も歩み寄る。

息をしていない.......。 

視界が揺らぐ。

たった一週間だったが、自分勝手で我儘な私に優しくしてくれた。 私の言動を温かく見守ってくれた。

「爺様....。爺様ぁ!」

爺さんの胸に泣きつく。 アスタも肩を震わせている。


「ゴホッ! ゴホゴホッ!」

彼の胸が大きく膨らみ、縮小する。

「え?」

「じっちゃん!! 生きてたのか!」

「ん? アスタにマリアじゃないか。 どうした?」

彼は起き上がり不思議そうな表情をしている。

爺さんに抱きつき、わんわん泣いてしまう。


彼は私達に何が起きたのか説明した。

「お前達が森に行って、時間が経った頃じゃたのお。 小さなゴブリンを引き連れたモンスターの集団がやって来たのじゃ。 わしらは老体に鞭を打ち迎撃したのじゃが、.......無駄じゃた。 村は燃やされ女、子供は連れていかれた。」


「モンスター? ゴブリン? 何それ?」

アスタは私に言う。

「この世界にはな。人間族、魔物族。 って大まかに二分することが出来るんだよ。 神に近い存在である人間族と悪魔から分岐した魔物族。で、今回攻めてきた奴らは魔物族に分類される奴ら。」

「.......?? よくわかんない。」

「馬鹿なのか!? 」

「馬鹿じゃない!!」

「いや、馬鹿だろ!!」

爺さんが止めに入る。

「要するに、悪い奴が攻めて来たのじゃ。」


「なるほどね! ならそいつ等全員倒せばいいのね!」

アスタはため息をつく。

「どーしてそーなる.......。」

「アスタ!行くわよ!モンスター討伐に!」

私は近くに有った斧を片手に飛びだそうとした。

が、アスタに腕を掴まれる。

「駄目だ。奴らとは魔法が無いと戦えない。」

「まほう?」

「いや、正確には魔法使いがいないと奴らを倒せないんだ。」


「この世界って、魔法あるの!?!?」

「元いた世界はないのかよ…」

「御伽話でしか知らないわよ! 空飛んだり、炎出したりするアレでしょ?」


私達を余所に爺さんは立ち上がる。

「じっちゃん大丈夫なのか?」

「回復魔法をかければ一発じゃ。」

「そんなのもあるの!? 凄い!!」

「マリア。じっちゃんは昔魔法使いだったんだよ。」

私はあることが閃いた。

「じゃあ! 爺様も我が隊に加えましょう!」

「おい! 俺は行くなんて言ってねぇぞ!」

アスタを無視し、爺さんを見つめる。 

(ふふん。この完璧美少女に見つめられたら、断るなんて選択肢あり得ないわよ。)


「すまんな。」

彼は頭を下げた。 

「えぇ!! なんで!?この私が......」

「おい!」

アスタに口を抑えられる。

「マリア。わしはもう隠居の身じゃ。行くならアスタと共に。」

「俺はまだ......!!」


なら仕方ない。 アスタと行動して、魔法使いを見つけよう。

「......わかったわ。 アスタ行きましょう。」

「気をつけるんじゃぞ。」

私は爺さんと抱擁を交わし、抵抗するアスタを引っ張って村を出た。



村を出て2時間程歩いた。 アスタは私に質問する。

「マリア。何処に向かっているんだ?」

「え? 魔法使いのいる所よ。」

「は?」

「え?」

暫しの沈黙。 

「お前なぁ。彼らが何処にいるか知ってるのか?」

小さな頃、母に読んで貰った絵本を思い出す。

「森の奥地?」

「居ねぇよ!」

彼の言葉にムッとする。

「じゃあ何処にいるのよ!」

「町だよ! でっかい町!」


その後も何度か言い争いをしたが、互いに疲れ果て、日も暮れ始めた。

アスタは私をお振り、町まで歩いてくれた。



彼の背中は、私の幼い頃の記憶を思い出させた。

宮殿の庭で迷子になったことがあった。

父は私を見つけ部屋までおんぶしてくれたのだ。

生まれ持った性質たちは変えられない。

この世界で、本当の私をぶつけられるのは、アスタしかいない。



いつしか、私は眠っていた。

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