007 俺VS青春騎士
俺が蹴り上げたイネクスがまさかここに飛弾するとは、流石に俺も予想外だった。
「というわけで、俺イズノーギルティってことで……」
タタタタタッ! と足音が聞こえた。
やがて、扉が大きく開け放たれる。
「大丈夫ですか! 王女様! ――って、ああ、すみません! 僕はあなたのネグリジェ姿をみていませ――って、何だ、貴様は! 怪しい変態め! この僕が処断してやる!」
忙しい奴が来た。
団服を纏った灰髪の美少年。
というか、今確実に王女様のネグリジェ姿見たよね?
「もう、本当になんですの……っ!?」
王女様も、頬を赤らめて恥じらった様子で己の身を抱き隠している。
そんな乙女な部分に俺の胸が少々高鳴ったところで、
「もう一度言う! 貴様はこの僕が処断してやる!」
銀に光るレイピアの切っ先をこちらに向けて、怒りの形相を浮かべている美少年を俺も真っ向から射抜き、
「安心しろ。あんたの王女様をどうこうするつまりはねぇよ。というか、そんなことよりも新鮮な恋バナ聞かせてくれや」
何だかわくわくしながらそう返したのだった。
◇
騎士の名はグレイアというらしい。髪の色と相まって実に格好良い名だ。
そんな彼もまた、一人の恋する男子。
お相手は当然、今この瞬間、黒い下着と豊満で滑らかそうな白磁の素肌を纏うネグリジェ越しに抱いて、赤面を俯かせながら悶えている王女様だ。
二人の出会いは、麗らかな陽気に包まれた日、一面が花々に彩られた庭園で訪れた――らしい。
らしい、と言ったのは、馴れ初めのエピソードを明らかにしたのは当人である二人のどちらかではなく、「ひゅーひゅー」と冷やかしの声を上げている精霊・ニヴルだからだ。
彼女の『反映魔法』が、二人の間柄――殆どグレイアの恋慕の情だが――を晒してしまった。
俺は、恋バナを楽しむ予定が物凄い気まずさと罪悪感を覚えたことにより、口を噤むほかできなくなってしまった。
「その、王女様、これは――」
「本当なの、ここに示されたあなたの気持ちは……」
「――。本当で、ございます。僕はあなたのことを主以上に一人の女性として、誰よりも深く、熱く、心より慕っております」
「グレイア……!」
青春。実に、実によきかな。
さて、イネクスへの「ざまぁ」と俺の冤罪払拭も果たしたことだし、俺はこのままとんずらしてしまおう。
と思って、ニヴルにわざとらしいウインクをしてこの場を後にしようとした瞬間、王女様は「お待ちなさい」と申した。
「ど、どうしました?」
「あなたの夜這いの罪は、そこのベッドに着弾している不届き者にあることが分かったので晴れて無罪放免となりましたわ」
「おー、そりゃよかった」
「ですが」
と。
手放しで喜べなさそうな雰囲気だ。
「今ここに不法侵入した罪、なにより騎士グレイアの心情を勝手に反映した罪はどちらもプライバシーの侵害となることはお分かりですわね?」
「……後者についてはニヴルっちのせいなんだけど、確かに言われてみればそうだな」
「しかし、グレイアの気持ちが分かるきっかけを作ってくれたのも、また事実。よって――」
王女様が俺を指差して、声高らかに宣言した。
「御前試合を行ってもらいますわ。我が騎士グレイアとあなたで!」
とんでもないことになってしまった。
『えー』
ニヴルさんが露骨に面倒な表情をしている。
いや、大共感だけれども。
「承りました、王女様。このグレイア、必ずや、この変質者に打ち勝ってみせます」
「ええ、わたくしも信じていますわよ、グレイア」
何だか部屋一面がピンク色に染まって青い春が吹き始めたぞ。
まあ、でも、何にせよ。
俺もまた、俺の強さと若さと童貞の底力を証明してみたくなっちまった。
「知ってるか? グレイア君。この界隈はな。リア充は元陰キャによってざまぁ無双される宿命ってことをよぉ」
脱ぐ上着が無いので、一瞬パンツまでも脱ごうとして止めたことは、俺の盛大なドヤ顏で上書きする。
「陰キャ? ああ、陰属性キャスターのことか。よかろう。このグレイア、貴様がいかなる陰属性魔法を放とうともことごとく斬り裂いてくれる!」
剣を構えて口上を切ったグレイア。正直めちゃくちゃ格好良い。
だが、やるぜ、俺は。
この真のイケメンに勝ってみせる。
やがて、欠伸混じりのニヴルによって俺達は広大な庭園へと転移し、
『見合って見合ってー』
またもや少しずれた主審が合図する。
『はっきよーい、残った! って言ったら』
もはやお約束なのだろう。
精霊様の合図成功を待たずに、俺とグレイアは同時に飛び出した。
「グレイアァァッ!」
「変質者ァァァァッ!」
俺の『累乗』で威力を進化させた拳と、グレイアの鋼の剣が、交錯する。
本当の戦いが、始まる――!
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