006 QED!

「お久しぶりですね、王女様」


 とりあえず、軽く会釈。


「誰よあなた――いえ、お前はまさか、あの時の!?」


「そうです、王女様に夜這いを仕掛けたという濡れ衣を着せられて超級ダンジョンにぶちこまれた哀れな男、ルゥトです」


「その冴えない無精ひげは忘れないわ! その下劣で下賤で下品な目鼻立ちも、たった今記憶と一致しましてよ!」


「先に髭だけ覚えられてるって……髭だけにめちゃくちゃ卑下されてるし。なんちゃって」


「笑えませんわ!」


「ですよねー」


『ぶふっ』


 さて、不覚にも吹き出してしまったのであろう精霊様はさておき、この王女様に一体全体どんな方法で弁明しようか。


 口だけだと確実に信じてもらえないし、そもそも王女様側から見れば、いくら中身がインクスの野郎だったとしても見た目は完全に俺なのだ。


 ゆえに、立場は俺が圧倒的に不利。


 しかも、依然としてパンイチで、当の王女様はネグリジェ越しに黒い下着と豊満な身体を晒しているという非常に艶やかな状態。


 加えて、俺の隣にも絶世の美女。


 恐らく、裸体に対して直に羽織っている真っ白いローブを着こなす水色髪


 ――いやどうみても俺、変態じゃん。


『ルゥトさん、ルゥトさん』


「なんだね精霊さん」


 精霊様がルゥト様から「さん」呼びになったのを機に、俺も「さん」呼びで距離を近付ける。

 そういえば、名前聞いてなかった。


「そういえば、精霊さんの名前は何て言うの?」


『私は「ニブルヘイム」の管理精霊だったのでニヴルでお願いします』


「オケしたぜっ」


『そして本題です。実は私、「反映魔法」を使うことが出来るのです』


 クールなお顔に浮かぶドヤっとした表情。そしてなにより、身を乗り出す勢いで話しかけてきているので甘く湿った吐息が俺の鼻腔をくすぐる。


「反映?」


『はい、正確には、手っ取り早く事の真相をお伝えするための術です』


「よし、それやろう」


「ちょ、ちょっと! 何を勝手に通じ合っていますのっ!? わたくしは今から近衛兵の方々をここに呼びつけますわ! そして、あなたと精霊とかいう女もまとめて――」

 

 王女様の言葉は続かなかった。


 対峙する俺と女王様の真横に、巨大な光の画面が生じたからだ。

 画面は二分割されており、右側に俺、左側にイネクスが映っている。


 右:酒に酔ってふらつきながら夜の街中を歩く、見るからにろくでなしな奴。


 左:「キヒヒヒ」と笑ってすぐに俺と同じ姿に変貌し、木々を伝い壁を乗り越えてお女様の部屋に侵入したイネクス。


「おわかりいただけでしょうか」


「こ、これは一体どういうことですの?」


「つまり、ギルドで俺が拘束された時にあなたのお口添えをした、いかにも遊んでいそうなその金髪野郎ことイネクスが、俺に化けて罪を擦り付けるっていう悪戯をやらかしたってわけです」


「そんなことが……」


「別に俺は王女様を責めるなんてことはしませんよ。なにせ、相手が悪かったのですから。二重の意味で」


 呆然としている王女様に、俺は俺に掛けられた罪の払拭を申請しようとする。

 だが、


「しかし、この映像自体がブラフな可能性がありますわよね? そのイネクスという輩をこの場に拘束して提供でもしない限りは、わたくしはお前達を信じることは出来ませんわ」


 強情な女だった。

 

 しかし、間違ったことは言っていない。


 精霊さん――ニヴルがいかに真相を映したところで、俺とグルであるとみなされている限りは信頼に値しないのだから。


 実際に仲間なので否定も出来ない。


 さて、どうしたものか。


 と、思った時。


「あ、その点についても別に大丈夫そうですわ」


「ど、どういうことですの?」


「犯人は犯行現場に戻って来るってやつですわ」


「は……?」


 艶やかなお口をあんぐりと開けた王女様の背後、カーテン付きの寝台に、ズドォンッ! と何かが落ちて来たのだ。


 反動か、すっかりと痩せこけてしまっていたが、こいつは間違いなく、


「件の真犯人ことイネクスのご登場ですわ!」


 テンションの上がった俺は伝染した王女様の口癖でそう言って、瓦礫の山とふかふかベッドによるサンドウィッチ状態になっているイネクスを手で示して歓喜したのだった。


 これにて、証明完了☆

 

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