第3話 狐嫁と風呂1

「こんなに雨が降るのならどこかで雨宿りでもすればよかったかな」

「そうだな、まあ濡れてしまったのは仕方ない」


その日は久々に雪と共に山下の町まで赴き買い物をしていたのだが、帰り道に急に天気が曇り出し結局ずぶ濡れになりながら帰宅した。

雨で濡れたせいで服がべっとりと肌に付き、何とも言えない気持ち悪さを感じる。

雪の方も同じように濡れて普段はふわふわとしてボリュームのある九尾も力なくしぼんでしまっている。そこは残念だが、雨の雫がしたたり、白い肌にこれまた白の髪が張り付いている雪の姿はどこか扇情的な雰囲気を醸し出していた。

これが本当の水の滴るいい女というのだろう。


「そのままだと風邪を引くから、今湯を沸かしている。その間はこれを仕え」


阿保な事を考えていた俺にいつも間にか洗面所兼脱衣所から行って戻って来た雪がタオルを渡した。

礼を言いながら受け取り体や頭についた水滴を拭く。

雪も自分の絹の様な長髪を拭いている。


「尻尾の方手伝いますよ?」

「そうか、では頼む」


そう言って雪はくるりとこちらに尻尾を向ける。俺は端の尻尾から順番に丁寧に吹き始める。ただでさえ腰まである長髪に加えて九本の尻尾まである雪は毎日の風呂でも乾かすのに時間がかかっており、いつも俺が乾かすのを手伝っていた。

そうして、しばらく拭いていると風呂が沸いたと言う電子音が聞こえる。


「じゃあ、先入ってきていいですよ」


俺は雪に先に入る様に促したが帰ってきた雪の回答は思ってもいないものだった。


「何を言っている一緒に入るに決まっているだろう?」


そんな事をさも当然の様に言ってきたのだ。

一瞬、俺の思考が停止しかけたが体の冷たさが現実に引き戻した。


「いや、俺は大丈夫ですから先入って来てください」

「ダメだ、その間にお前の体が冷えるだろう。それに何を遠慮しているか分からないのだが?」

「いや…年頃の男女二人でいきなり風呂というのは…」

「私たちは夫婦だ問題はない。それに私の裸などこの一年で何度も見ているだろう」

「それは、そうなんだが…」


実際にそういう夜の生活も無論あり雪の体もこの一年で知り尽くしているのだが、それは事前に心の準備というものがあるからだし、少し前まで恋人など無関係な生活だったのに雪の様な美人と突然混浴となると少し身構えてしまう。

ぐるぐると女々しく考えていると「早くしないと風邪を引く」と言って雪は俺の手を引き脱衣所まで引っ張られていった。




脱衣所に入ってじろじろ見てしまうのもよくないと思いなるべく視線を向けないようにしているが悲しい男のさがかな、自然と視線が動いて行ってしまう。

新雪の様な白い柔肌、しっかりと主張する形の良い豊かな胸部、腰から臀部にかけての女性らしいグラスの様な曲線、すらりと伸びた足が見えたもとい見てしまった所で強引に頭ごと視線を外し急いで服を脱ぎタオルを腰に巻いて浴槽の扉を開けて中に入った。


「おいおい、見るのは別に初めてじゃないだろうに」


そう言って座った浴室用の椅子に座った俺だが目の前にある鏡に向かって顔を上げられそうにない。多分今は顔を真っ赤にしているだろう。









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