第2話  狐嫁と朝食

「うぅん?あぁもう朝か」


障子から差し込む朝日で目が覚める。季節は春とはいえまだ冬の名残を残した気温で、覚醒しきっていない頭も手伝い布団から出るのが酷く億劫になる。

そうして、ウトウトと惰眠を貪ろうとした時に聞きなれた声が聞こえた。


「もう起きろ、そろそろ朝餉の準備も整うから顔でも洗ってこい」

「あと一時間後」

「だめだ、朝餉が冷める」


そんなやり取りをしながら意を決して起き上がる。そこに普段の服装の上に割烹着を着込んだ雪がいた。朝食を作っていた為か腰まである純白の長髪を結い上げていた。


「おはよう雪」

「ああ、おはよう」


雪が微笑みながら挨拶を返す、ただそれだけの事なのにこの何とも言えない感覚に俺は包まれる。こんな新婚夫婦みたいなやり取り、実際に新婚夫婦なのだがこの空気感は心地よくもむず痒いこの空気は一年たった今でも慣れない。


顔を洗い寝間着から普段来ている和服に着替えて居間に向かう。

襖を開けると広めの居間の中央に置かれた机には作り立てであろう朝食が二人分並べられていた。

その前に座ると隣接している台所から御櫃を抱えた雪が出てきた。


「来たか、さて食べようか」


朝食の献立は巻き卵に鮭の塩焼き、わかめと豆腐の味噌汁、漬物という定番の和食でどれもおいしそうな匂いが漂ってくる。雪が御櫃に入った炊き立ての白米を茶碗に盛ってくれた。


「「いただきます」」


そう言ってから、まず味噌汁に口をつける。出汁がきいており、昔自炊した時に使っていた市販の粉末出汁とは比べ物にならない旨味が口の中に広がる。

鮭の塩焼きは程よく塩がきいており、漬物はよく漬かってパリポリと歯ごたえのいい食感。卵焼きは少ししょっぱめで俺の好みの味だった。

無論茶碗に盛られた白米も炊き立てで、米の甘みが伝わってくる。

雪の料理は非常に美味しく、結婚してからは毎日食べているがまったく飽きが来ない。


「いつもながら美味しい。料亭でも開けるレベルですよこれ」

「口に合ったのならば何よりだ」


そう言いながら何ともない様に味噌汁を啜っている雪だったが、俺は一瞬嬉しそうに微笑んだのを見逃さなかった。

そんな幸せに包まれた何とでもない朝食の一時を俺は味わう様にゆっくりと噛み締めた。












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