願い事ひとつだけ・・・

勝利だギューちゃん

第1話

「なんでもいいから、魔法使い出てこい」


大声で叫んだ。

出てくるわけないが・・・


「呼んだ?」

眼の前に、ほうきに乗った少女が現れる。


「だれ?あなた」

私は問う。


「あなたが呼んだんでしょ?無責任ね」

「ということは、魔法使い?」

「うん。名前はサリー」

「聞いたような名前だね」

「うん。おそらくあなたの予想通りだよ」


大輔という野球選手がいて、「そうなってほしい」と、子供に大輔と命名し、

本当に野球選手になった例があるけど、そんな感じか・・・


「で、あなたは?」

「私は、さくら・・・桃谷さくらもも」

「ベタだね」

「ほっといて」


この子が、本当に魔法使いか、わからないけど・・・


「で、私にどんな願いがあるの?ただ、呼んだだけなんて言わなわよね」

「あっ、どっかり忘れてたわ」

「それを言うなら、ばっこりでしょ?」


いえ、それも違うから・・・

突っ込んでほしかった・・・


「で、願いは?」

「いくつ叶えてくれる」

「ひとつ。後、増やすはルール違反ね」


やろうと思ったのに・・・


「サリーさんとやら、その前に訊いていい?」

「何?」

「どうして、今日に限って現れたの?」

「仕事帰り」

「仕事?」


サリーは頷く。


「ここへ来る前に、別の方に呼ばれてね、その子の願いを叶えてきたところ」

「そう・・・で、どんな願いだったの?」

「それは禁則事項。でも、あなたと同じ年ごろの男の子だったよ」


男でも、魔法使いを呼ぶんだ。

偏見かもしれないが・・・


「その子は、必死だったよ。魔法陣を何回も書き直して、ようやく私を呼べたんだから」

「オカルトだね」

「たまたま、帰り道にあなたの声が聞こえたので、寄ってみたんだ。早く片付いたね」


そうなんだ。

これはこれで、ついている。


「で、願いは?」

「あっ、そうだった。じゃあ、お願いするね。サリーさん」

「サリーでいいよ。さくら」

「うん、サリー、願い事言うね」

「OK」


私は願い事を言う。


「幼馴染の男の子の、春日裕也くんと、いつまでも仲良くいられますように」


私には、これしかない。

金も地位もいらない。


彼・・・裕也くんさえ、いてくれたら・・・


「それは、叶えられない」

「えっ、どうして?」


サリーは続けた。


「言ったでしょ?あなたと同じ年ごろの、男の子のところへ行ったって」

「うん」

「その男の子は、春日裕也くん、つまり、あなたの幼馴染」


私は、言葉を失う


『その彼の願いが、あなた・・・つまり『幼馴染の、桃谷さくらさんと、いつまでも仲良しでいたい』だったから。

それを叶えてきたところ。同じ願いは出来ないの』


それから、60年後。


私は、旦那と公園に来ている。

旦那は、幼馴染の裕也くん。


仲睦まじい夫婦として、近所でも評判だ。


孫たちが元気に遊んでいる。

せめてこの子たちが、成人するまでは、ふたりで元気でいたい。


「久しぶりだね。お二人さん」

懐かしい声がする。


一度しか会っていないが、はっきりと覚えている。


「サリー?」

「覚えていてくれたんだ。ふたりとも、すっかり年取ったね」

「サリーは変わらないね」

「私は、魔法使いだからね」


旦那と二人で笑う。


「ところで、さくら」

「何?」

「あなたの願いはまだ叶えていなかったけど」


すっかり忘れていた。

他に思いつかなかったから、保留してもらったんだ。


「いつまでも、呼ばないから、さすがにしびれが切れたは」

「ごめんごめん」


旦那と笑いあう。


「で、さくら・・・あなたの願いは」

「私の願いは・・・」

「願いは?」


『最後は、愛する旦那と一緒に旅立ちたい』

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願い事ひとつだけ・・・ 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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