第18話 来訪者
しばらく、お茶とお菓子で部屋にこもる時間は続いた。
その間、所長はどこかに電話をしていたらしい。壁一枚挟んだところで誰かと会話するくぐもった声が聞こえていた。
30分ほどして、またインターフォンの音がした。オレは思わず電話から戻ってきた所長の顔を見た。
他の久間田さんや青さんも扉ではなく所長を見ていた。
所長は一瞬驚いたような表情を浮かべたがすぐに笑みに変え、黙ってうなずく。
「大丈夫、私が呼んだ人だから」
そういうと一番玄関の近くにいたオレに向かって「入れてあげて」という。
恐々、しめたドアを開ける。
「シキさん、桃木ですぅ~」
京都訛りの激しい男の声だった。
少々さっきとは違う意味で不信に思いながらも恐る恐る扉を開ければ、きちっとしたスーツに糊のきいたシャツを着た顔の整った男が一人立っている。
オレの顔を見たとたん、急に声が下がった。警戒する。
「誰?お前」
敵意むき出しの低い声。
むっとした。
挨拶もなしかよ。
こんなガラの悪い人と所長が付き合いがあるはずがない。
きっと人違いだろう。
そう判断してこちらも眉を寄せて対応する。
「アルバイトの一瀬だが……」
「ああ。噂の!」
噂?なんの噂だ。
そう考えこんだ瞬間に男は半分開いたドアの隙間から身を乗り出し、強引に部屋に入ってきた。
「おい!」
思わず声を上げたが、男は気にすることなくオレの肩に身を当てて部屋に入り込む。
いってえ。こいつ遠慮なくぶつかってきやがった。
「どうも~桃木です~読んでいただいたようで~」
明るい声が部屋にこだまする。
「いらっしゃい~」
笑顔で応じる所長の声。
オレは明らかな敵意を抱きながらも平然を装って扉をしめた。
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