第17話 感じたもの
ガタン!
大きな音がして扉が勢いよく閉まった。半分の顔が強制的に視界から消える。
茫然としていた。ゆっくりと下を見ると、汗だくの青さんの姿があった。
「見た?!」
普段の青さんとは違う、強い口調だった。
なにが、とは言われなくてもわかった。青さんも感じたのだ。あの不遜な存在を。
「少しだけ……」
固まったまま答える。
青さんは表情が真っ青だった。
「大丈夫?」
所長が慌てて駆け寄ってきて、青さんの肩に手を置く。青さんは怯えて震える手で差し出された所長の手を握りしめる。
「所長、なんだかわからないのですけれど、あれは良くないものです。今もまだ外にいます」
「気配が分かるの?」
「少しだけ。依頼者と一緒にいた時には感じなかったのですが、会った後から少しずつ頭痛が強くなって…今、刺すような痛みの波になりました」
冷静に自己分析しているような言葉だったが、相変わらず顔色は悪かった。
「……これはしばらく、部屋の中にいた方がよさそうね」
一言、所長がそう言って目でオレに鍵をかけるように指示する。
がちゃり。
ドアのノブに着いた鍵を内側からかける。
これで奴ははいってこられないのだろうか。
そう思ったがそこには触れず、ソファーに戻った。
しばらくの沈黙。
所長はなにやら考え込んでいるようだった。
「……しばらくしたら、人目の多い場所で会議をやり直しましょうか。久間田さん、申し訳ないけれどオープンスペースの予約をお願い」
久間田さんは「わかりました」と短く返事をしてから、持ってきたお茶を机の上に置いた。
所長はまだ震えている青さんに「立てる?」と聞いたあと、そっと背中をおす。
青さんは小さく頷いてソファーに戻った。
オレはお茶を飲みながらも、今起きたことが信じられないでいた。
何だったんだ。
アイスコーヒーを喉に流し込みながらも思考が止まらない。
あれは人間じゃなかった。生き物でもなかった。
なんでこの場所に。ついてきたのか――誰に?
その時、ふわり。と甘い香りが鼻孔をくすぐった。
はっとして匂いの元に視線を向ければ、所長が玄関横の棚の上になにかを用意しているところだった。
それがアロマオイルだと気づく頃には香りはほんのりと部屋中に広がり、先ほどの緊張した空気は一層されていた。
「今日の匂いは強めのバニラとフランキンセンスにしておくわね。各自、今起こったことに対して今はなにも考えないこと。話はあとでもゆっくりできるから。今はお茶を楽しみましょ」
そういって所長は笑んだ。
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