第13話 変化 青泉伊織

最初は何でもない、気のせいだと思った。

美利野乃花に接触してから一日。


耳鳴りと頭痛が止まない。


自宅の食器棚から頭痛薬を取り出して飲む。

今日は人数が多く、気を遣う機会が多かった。

だからだろう、と推測する。

本来自分は人と多く接することに向いていないのだ。

気を使いすぎてしまって、疲れ果てる傾向にある。


居間のソファーに腰かけてパソコンに向かい甘いミルクティーを飲む。

SNSの通知が何件か来ていたが今は案件を持っているため目は通さない。

他の調査員が後で気付いてみるだろう。


ブルーベア。

わたし、青泉伊織と秘書の久間田聡とをペアにした呼称。

気を使いすぎる傾向があると知った所長が「じゃあ、久間田さんと組んだら?」という一言で結成されたペアだった。最初は大丈夫か、と思っていた疑念はすぐに消えた。

久間田さんは鼻がいい。だからか人の疲れの度合いを瞬時にその場で理解し、フォローをしてくれる。

私的にはまたとないヒトだった。

仕事をしていてこれ以上楽、と感じることもなかった。何度も助けられた。


所長の判断は的確だった。


前に二人っきりになった事務所で「なぜ私と久間田さんを組ませたのですか?」と聞いたことがある。


「うーん、単純に二人ならあっている、と感じたからかな。あとは感」

所長は柔らかな笑みを浮かべながら、合っているのならよかった、と一言添えた。


そんなことを思い出しながら、私は薬が効くのを待った。




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