休題 HSP研究所 職員 青泉伊織
相談者にはやはり重すぎた話だったかもしれない。
私たちの話を聞いて可哀そうなぐらい美利野乃花は蒼白になっていた。
無理もない。まだ中学生だ。自分の中で知らない思念が成長しているなんて話聞きたくもないだろう。
だが、それでも当人に伝える必要があった。
無自覚なまま成長させるより、自覚させて成長される原因がなんなのかを探る必要があった。
彼女の中で一番恐れていることだ。
それが親子関係なのか、友人関係なのか、はたまた違うつながりなのかはわからない。
だが確実に彼女の中にはなにか突発的なソレを成長させてしまうものがあるのだ。
そしてもう一つ。
様々な調査資料、探偵を使った結果わかったこと。
山口市太と言う男が、複数人の女性との交友関係を同時多発的につながっていたこと。それをとても恨んでいた人物がいたこと。夜の街ではやんちゃで有名な人物だったこと。悪いつながりがあったこと。
そのほかの情報としてすでに10歳になる娘がいること。彼女の母親は単身いわゆるシングルマザーで育児放棄気味であることなど。
様々な要因がこれでもか、と浮かび上がってくる。
火のないところに煙は立たぬ、とはいうもののすでに良くない情報がこれだけ出てくる人も珍しかろう。
その一つ一つは些細なものであっても山口市太を中心として物事を考えるとやはり恨みを買いやすい人物だったことがうかがえる。
加害者のことももちろん調べてはみた。
佐藤太郎 44歳。
トラックの運転手歴20年。ベテランドライバーと言ってもいい。今回が初めて起こした事故で、原因はわき見運転。なんでも黒い何かが横切ったというのだ。
あんなに人通りの多い交差点でわき見をするぐらいなのだから相当の事だったのだろう。本人曰く、豹のような黒いものが跳躍して交差点をはねて目の前に来た。と言うことだった。目の前すれすれを通ったので意識的にそちらを追ってしまったとのこと。
黒いもの。
美利と同じ意見だ。
残念なことに私には見えなかったが、一緒に行った一瀬真実も何かを感じていたようだった。
自分には見えないなにか。
たまにそう言った案件があることは同僚のつてで知っていたが、まさか自分が担当する日が来るとは。
上がってくる調査報告書に目を通しながらふうっと息を吐く。
よくわからない黒い影。
邪なもの、という表現でよく使われる。なぜこの国の人々は黒をまがまがしいものとしてとらえているのだろう。
関係がないと思っていても思考の隅でそう思う。
もっと具体的な表現にしてくれれば打つ手もあるのに。
黒い影、じゃあ抽象的過ぎてなにもわからない。
次の手が見つからない。正直お手上げだった。
息をついて、調査報告書をまとめる。
一旦所長に話を上げて一瀬くんとまとめて話す必要がありそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます