第9話 動き
その日の通話はそれで終わった。
終わった後にほっとした気持ちと、わかってもらえた気持ちが同時にきて涙が出た。
相変わらず、体調は悪いし、アレからの視線は感じていたけれど、独りでないことに安堵したのだった。
それからも通話は何度か続いた。
単純な調査報告の時もあれば、ほとんどが雑談に近いものの時もあった。
話を聞く中で、ブルーベアさん自身の体験も聞いた。
幼いころから聴覚が敏感で、ヒトが聞こえない気にしない音を認識してしまうことがあったとのことだった。
悩んでいたところ、今の自分と同じように研究所のネットワークを見つけたとのことだった。
なんとなく親近感を覚えてきたころ。
『そういえば、お手数なのですが渡したいものがあります』
いつになく真剣な表情で言う。
『本当はもっと早く、お渡しするか迷ったのですが、今の”名無し”さんであれば信じていただけると思うので』
そう言って画面に映ったのは、黒い石が並んだブレスレットだった。
『黒水晶でできたブレスレットです。悪いものを遠ざける効果があるとされています。気休めかもしれないのですが、局留めにしてお送りしますので、できれば受け取っていただきたく』
黒い石は半透明で一見してそんなに安価なものではなさそうだった。売りつけ、という文字が浮かび警戒する。
『……こちらは差し上げるものなので、お金はいりません。ただ、現状を踏まえて”名無し”さんの身を守る何かが必要かと思い、勝手ながら用意させていただきました』
現状を踏まえて、というと何かしらの進展があったということなのだろうか。
「……私の調査に進展があった、ということでしょうか」
遠慮がちに口にすると、ブルーベアさんは少し顔を曇らせてからゆっくりと頷く。
『はい……と言いずらいのですが、少しだけ……。申し訳ないのですが、詳しくはわたしも知らないのです……ただ、調査員から直接会って報告をしたいことがある、それができないようであればこちらを渡してくれ、と言われております』
直接。
ハードルは高かった。
だが、それよりも現状自分の身に何があったのかが気になるほうが上回った。
「ブルーベアさんも同席してくださりますか?」
『はい、それはもちろん。良ければ”名無し”さんの指定するカフェにこちらが直接伺います。場所と日時だけお伝えください』
その言葉で、わたしは会うことを決めた。
両親の目を避けて通話することもなかなか大変になってきたところだったから、というのもある。
その連絡でようやく、ほとんど一か月ぶりにわたしは家から出ることを決意したのだった。
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