生死無常
三好を殺すタイミングを、二ノ宮君と三島さんと、申し合わせた記憶は無い。
無いが……。
「いやぁぁぁぁ!! やめ、やめてぇぇぇぇ!!!」
「ご、ごめ!! も、漏らして、その、結構匂いとかあるから!!! から!!! やめて!! 嗅がないで!!」
叫ぶ女子中学生二人。 同級生であるのにも関わらず、その身体を今にも貪ろうとする三好と古田。
まだ、攻撃を開始しないのかと、やきもきして足を揺らす私。
「よし今だ。 僕は突っ込む。 三島さんは矢を射まくって。 織部さんは、
と、やっと攻撃開始のようである。
アレ、とは、
私達三人の中では、一応最強の攻撃方法である。 使わない手は無いだろう。
と、待ってましたとばかりに、車椅子を操作して、三好達が居る通路に通路の角から飛び出した三島さん。
ピシュン! ピシュン! ピシュン! ピシュン!
三好達への射線が取れたと判断したであろう彼女は、いきなり矢を射始めた。
矢を射ると、空気が圧縮されて、撃ち出される矢を一瞬コーティングする。 そして、更に次の瞬間、空気は羽のあたりでパシュッ! と、弾け、矢を押し出す。 更に弾けた空気は、羽から矢尻までをまた薄くコーティングし、空気抵抗を減らす膜を作る。 横で見て居ると、二段階に矢の速度が上がっている事が分かる。
「つぁ!」
「な、なんだ!? あっつ!!」
稲本達に何本か当たったのか、女の声が二つ聞こえた。
二ノ宮君は、身を屈めながら、白く輝くショートソードを右手に、そして、毒を塗ったスローイングダガーを左手に、駆けて行く。
その後ろを、私は付いて行き、
「我が信愛なる紅蓮の炎よ。」
詠唱を開始して、前を見る。 誰かの魔法なのだろうか、白い光の玉が二つ、12人の中学生の姿を照らして居た。
「清く熱く切に赤く、彼の者の血潮をも熱く赤く滾らせ給え。」
更に近付くと、現在の様子が見えて来る。 三好と古田は、ズボンを脱いで、それぞれ園島さんと池谷さんを組み敷いて居た。 そして、稲本と遠藤は、顔や肩、胴部に数本の矢を受けて、石畳の床に転がり回っている。
「ふあぁぁぁぁ!!」
「あぁぁぁ!!」
稲本の顔が、溶け始めて居た。 遠藤の肩や、腹の部分も赤く滲んでおり、その部分を押さえながら床をのた打ち回る彼女。
三好と古田は、その二人の様子を窺おうと、視線を彼女達に移す、と、二人に矢が刺さって居るのを認識し、これが攻撃だと気付いたのか、慌てて立ち上がってトランクスを履き、更にズボンを履こうと……したところに、それぞれの股間に向かって1本づつ、二ノ宮君の手から、シュンッ! シュンッ! と、ダガーが飛んで行った。
この距離で外す訳が無いとでも言わんばかりに、それは、ドッ!ドッ!と、二人のトランクスの上から股間に突き刺さった。
園島さんと池谷さんを犯そうと、準備していた、その股間に。
「ふおぉぉぉぉ!!!」
「ぬぁぁぁぁぁ!! 俺のチン〇が!!」
叫んで、股間を押さえる二人。 そして、刺さっていると認識したダガーを引き抜くかどうか迷う。
「して、沸っする鮮血よ、弾け、放て、紅蓮の光と共に。」
まだ私は詠唱を続け、二ノ宮君が古田の方を指差した。 私に古田をやれって事なのね。
私と二ノ宮君の左側を、ひゅんひゅん、と、矢が後ろから前に飛んで行く。 まだ三島さんの攻撃は続いていたようで、私と二ノ宮君に当たらない様にしながらも、矢を打ち込んでいるようだ。
ドスッ! ドスッ!! と、佐藤の脇腹と、臀部にも矢が突き刺さる。
「あぐっ!! ああっ!!」
佐藤の黄色い悲鳴が上がる。 矢が刺さった部分を押さえて、座り込む彼女。
そしてその横に居る、1人だけ自由に動ける保品は、え? え? と、周囲を見渡すが、何をすれば良いのか分からないようだ。
「ララヒート、ナヒートヴォル、クレティアニカ、フォルテ。」
前に使った時は犬の動きを見るのに必死だったので、よく分からなかったが、右手に何かが集まってくる感覚。
私の目は、古田を捉え、距離はあと5m程。
と、左前に居た二ノ宮君が、軌道を変える。 三好の方に向かったようだ。
軌道を変えた瞬間に、もう1本のダガーを正面に居る三好に投げ付け、そのダガーは三好の右肩に刺さる。
「つぁ!!」
その刺さった場所を瞬間的に手で押さえる三好。 しかし、その手は股間を押さえていたものなので、それを元に戻そうかと逡巡し――――
「ふぉぁぁぁぁぁ!!!」
両方の痛みが同時に襲ったせいか、一際大きい声を上げる三好。
半泣きになって苦しんでいる三好の姿を見て、良いザマだ。 なんて、思ってしまう私。
「グレーゼ、グレーゼ、ララ、グレーゼ。」
詠唱が終了し、私は古田に近付く――――その時だった。
「違う!! そっちじゃない!!」
二ノ宮君が、そう私に言って、
「え?」
と、彼の方を見ると、園島さんの手を握っており、後ろに、藤木君達が居る方に、移動させようと――――その手を引っ張って居た。
はっ! と、私は池谷さんを見る。
しまった!! 私の攻撃は範囲攻撃だ!! このままでは池谷さんを巻き込んでしまう!!
突っ込もうとした足を、止めざるを得ず、ざり!! と、石畳の床と皮のブーツが音を立てる。
すると、私の行動が池谷さんを見て止まった事に気付いた古田は、なんと横に居たその池谷さんの腕を引っ張り上げて、左腕を喉に巻いた後、右手に持った剣を彼女の喉に突き付けたではないか。
この卑怯者!! 人質を取るなんて!!
しかし、効果的である。 これならば、私が池谷さんを避けて古田を攻撃したとしても、私の攻撃による爆発は、確実に池谷さんを巻き込む事だろう。
人質にやはり効果があると分かった古田は、歪な笑みを浮かべ、こちらを見る。
私が女で、同級生だと分かった古田は、更に下卑た笑みを浮かべて、舌なめずりをする。
――――ぼとり。
その時だった。 古田の股間から、紫色の何かが落ちた。
その何かは、ぐじゅぐじゅに腐っており、そのせいで痛みが鈍かったのだろうか、古田の股間自体も、血の赤の他に、紫色に染まっていて、紫色の何かは、その股間のトランクスの隙間から落ちたのだ。
「お、俺のチ〇コ!! や、やべっ!! 腐ってんじゃん!?」
「ひぃ!」
落ちた物を見て、声を上げる古田だが、すぐに私の事を思い出し、こちらの様子を伺いながら、池谷さんの首に巻かれている左腕に力を入れ、距離を取る。 同時に、池谷さんから短い悲鳴が上がった。
「ぜってぇ許さねぇ!! てめーのま〇こにこの剣ぶっ刺して、掻きまわしてやっからな!!」
その汚いモノを腐らせたのは私では無いのだけれど。
でも、逆恨みでも自分がされる事を想像してしまい、嫌な気分になる私。
……で、どうしたら良いのだろう。
右手がぶるぶると震え始めた。 瞬時に、早く魔法を撃たないと、逆に自分の腕が吹っ飛ぶ、という聞きたくも無い情報が頭に与えられた。
な……そうか。 そういうペナルティが何も無いのならば、詠唱を事前にしておけば、いつでも魔法が瞬時に使える体勢でいられるって事だもの。
こういう仕組みになっていたのか……。 と、理解するも――――
――――拙い。 非常に――――拙い。
「お、織部……さん。」
古田に首をしっかりと押さえられながら、私の顔を見つめる池谷さん。
どうしようか、何か出来る事は無いか、と、周りをちらりと見る私。
二ノ宮君は、私と古田の様子を見ながらも、ただ一人無傷だった保科の両腕を斬って居た。
「ふぁ!! あぐっ!!」
身体をビクンビクン、と、痙攣させて、その痛みに声を上げる保科。
二ノ宮君からこちらまでの距離は約4m。 こちらの援護に入ろうと、彼はこちらに足を向けて――――数歩進んだところで、床に蹲っていた三好から、いきなり腕を伸ばされ、その腕に足を掴まれた!
「っ!!」
前のめりにぐらりとバランスを崩して、一瞬は耐えたものの、そこからビタン!! と、顔から地面に向かって転んでしまう二ノ宮君。
その時――――私の腕が、ビキビキ、と音を立てた。
赤い光が、更に増して行き、私の掌だけでなく、腕全体に広がって行った。
もう――――ダメだ!!
そう思った瞬間、頭の中で、カウントダウンが始まった。
―10―
正面の池谷さんを見る私。 ダメだ!! 池谷さんを巻き込めない!!
―9―
確かに、裏切られたし、殺意も少しは抱いたけれど、三好達に犯されそうになって、悲鳴を上げて、あれでもう終わりで良いよ!!
―8―
悔しそうな顔で、私は池谷さんを見る。
―7―
すると、池谷さんは寂しそうな顔をして、俯いた。
―6―
ち、違う!! 殺したいのを我慢してるんじゃないよ!! 殺したくないから、我慢してるんだよ!!
―5―
ちらり、と、横目で一瞬こちらを見る池谷さん。 も、もう……
―4―
もう……い、嫌だ。 やっぱり――――自分の右腕が吹き飛ぶのは、嫌だ!!!
―3―
私の足が、床を蹴った。 前に、左足が出る。 次に、右足。
三歩、大きく踏み出す私。
―2―
錯乱したのか、池谷さんの首筋に突きつけた剣を、実際に少し突き刺してしまう古田。 その痛みに、一瞬右目を瞑る池谷さん。
しかし、瞬時に、それが意味の無い事だと分かると、古田は池谷さんを放り投げた。
―1―
池谷さんの身体が、私から見て、右に飛ばされた。 ――――瞬間、私の右手が、古田の腹に触れた。
「
私の手と腕に纏われていた赤い光が、一際大きな光を放つと、古田の身体に入り込む様に消えて行き、その光が消えた瞬間、古田が突き出した剣が、私の左腕、二の腕に突き刺さった。
古田の身体が、一瞬ボコ、と、膨れたかと思うと、その後瞬時に、ドッパァァァン!!! という音と共に、もの凄い爆風が、肉片と共に古田が居た場所から吹き付けた。
――――せめて、障壁がある私が押さえれば、池谷さんは助けられる。
そう考えた私。 必死に、池谷さんの方に手を伸ばし、池谷さんの身体を掴もうした私の手は――――つうっ! と、古田が私に突き刺した剣の傷の痛みにのせいで――――指一本分、届かなかった。
その爆風は、私を背後に向かって吹き飛ばし、池谷さんの身体は――――右側に強く吹き飛ばされ、通路の壁に、グチャッ!!! と、叩きつけられた。
血が、体が叩きつけられた場所から放射線状に広がり、内臓やら、骨やら、色んな部位も、まるで高層ビルから飛び降り自殺をしたかのように押しつぶされていた。
そして、2m程離れて横に居た、三好、更には――――床に足を掴まれて倒れこんで居た二ノ宮君も、爆風に巻き込まれた。
二人は、爆風によって、三好は左の石の壁に飛んで行き、二ノ宮君も同じ方向に転がる様に吹き飛ばされるが、障壁が彼の身を守っていたようで、転がった後、壁の近くでしゃがむ様な態勢で着地する。
が、三好はそののまま、ドン!! と、壁に当たり、
「ぬあぁぁぁぁ!!!」
と、また悲鳴を上げ、ずるり、と、身体が壁から落ちてきて、地面に落ちると、びくん、びくん、と、身体を痙攣させる。
「な、なんだよ、それ、なんなんだよ!!」
腕を切られて、両腕をだらんと垂らした保科が、青い顔をしてこちらを見る。
その保科を見返す私。
「ひぃ!! や、やめてくれ!!」
私は……何を……したんだ。
と、左の腕が、つきん! と、痛む。 見ると、血が流れていたので、腰からポーションを出して飲み込んだ。 瞬時に、その傷は回復する。
それに一瞬安堵するが、何を……自然に、ポーションを出して、自分の身体を治して居るのだ? と、まるでもう一人自分が居るように、自問自答する。
壁を見て、かつて池谷さんだった物の残骸を見て……飲み込んだポーションを再び吐き出しそうになる私。
更に、むわり、と、血の匂いが立ち込めて居た。
うぷ、と、また吐き出しそうになるが、着地後、すぐに動き出した二ノ宮君の動きに視線を向けたお陰で、意識がそちらに取られた。
まずは佐藤に近付くと、躊躇なく正面から首を目掛けて、ショートソード+2 オブ ライトニングを突き刺した。
「あぐぁ!!」
切っ先が入り込んだ瞬間、電撃が身体を襲ったのか、悲鳴を上げて身体をビクン! と、痙攣させるが、そのすぐ後に、鋭い切れ味の刃が、首の後ろまで食い込み、首の骨までも切り裂いた。
それを、横に滑らすように、ザプッ!! と、抜くと、その部分から大量の鮮血が噴き出した。
次に、床を這って逃げようとしている遠藤に飛び掛った二ノ宮君。
剣を逆手に持って、後頭部をズブリと突き刺した。 佐藤と同じように、
「おぶっ!!」
と、身体を一度痙攣させて声を上げるが、やがて、ビチャッ! と、石畳の上に顔を落とす。
稲本と保科も、そうやって一瞬で殺すのだろうか、と、あまりまだ働いてくれない頭で考えた私だが、何を思ったのか、二人の両足の腱を切って歩けなくした後、倒れて居る三好のところに歩いていく二ノ宮君。
やがて、私は背中に気配を感じた。
振り向くと、目を細めて、静かに微笑んでいる三島さんが、そこに居た。
「いいザマですね。 稲本さんに保科さん。」
「て、てめぇ!! 三島ぁ!!」
「あらあら。 口が悪いんですね。 そんな悪いお口はこうしてしまいましょう。」
ビシュカッ!!
「ほーーーー!!! ほふひへー!!」
保科の右の頬に突き刺さった矢は、矢尻が左の頬から突き出て、右の頬には羽を出して止まってる。 多分、力を調整して、そうなるようにしたのだろう。 左の頬をくい、と、上げて、笑みを浮かべる三島さん。
両腕も斬られて居るので、腕を上げて、その矢を抜くことも出来ず、ほーほー言いながら、ただ涙を流すだけの保科。
「稲本さん。 あなたに聞きたい事があったんです。」
「な、なんだよ……。」
保科の様子と、他の死んだ三人と三好の様子を見て、歯をガチガチと打ち鳴らしながら、それでも三島さんに凄む稲本。
「トイレで私を撮った時の写真、どうしました?」
「……覚えてねーよ。」
「あら。 そうですか。」
ツパンッ!!
と、超近距離で太腿に撃ち込まれる三島さんの矢。
「ごぁ!!」
「そっちの矢には、薬は塗ってませんからね。 何本でも打ち込めますよ。」
「な……うっ!!」
もう、頬に刺さった矢により、顔の左側が半分溶けかけて居る稲本だったが、刺さった矢は抜け落ちていて、特にもうそちらを痛がる様子は無かった。 もしかしたら、もう痛みを感じる部分さえ溶けた、という事だろうか。
その代わり、新しく突き刺さった矢は、痛い様で、そこを必死に手で押さえて居る稲本。
「もう一度聞きますね。 どうしたんですか?」
「どうも、しねーよ。 ちょっと、あいつらに、見せたり……。」
「見せたり?」
冷たい目で稲本を見下ろす三島さん。
「知り合いに……見せたり、した、だけだ。」
「そう、ですか。 見せましたか。 ……見せました、か。 ……ああ。 やっぱり私、ダメですね、こういうの。 あなた達の事を、痛がらせて殺そうと思ったのですが、何も聞かないでさっぱり殺した方が良かったみたいです。」
「な、何言って……え? 三島、本気で殺すつもりなのか?」
「はへへ!! はふへへ!!」
ツパン!! ツパン!!
超近距離で、矢が、一本づつ、保科と稲本の頭に、突き刺さった。
同時に、だらん、と、頭を下げ……ぐちゃっ。 ぐちゃっ。 と、二人は、突き刺さった矢の方を下に、頭から石畳の上に身を落とすのだった。
私は、ぶるぶる、と、震える自分の手を見つめる。
三島さんは、遂に、本懐を遂げた。
怨嗟の名残は彼女の表情にはもう微塵も感じない。
その、すっきりとした顔つきで、二つの同級生の死体を見下ろす三島さん。
……正直言って、今、私は彼女が……怖かった。
しかし、私も……池谷さんさえも巻き込んで、古田を粉々に吹き飛ばした――――自分で、自分の私利私欲の為に人を殺した……人殺し、だ。
私を保科が見た時の目、あれは、そんな私に恐怖の念を覚えた目だったのだろう。
そして、最後の一人の私達の仲間、二ノ宮君は……。
「いでぇ!! いでぇよ!!」
「あっそ。」
「あっ! ぐぁっ! も、もうやめてくれ!! たのむ!!」
「あっそ。」
「ちょ、マジ、死………あっ!!」
「あっそ。」
ショートソードの先端で、三好の体中をチクチクと刺して、『あっそ。』と、繰り返して居た。
既に三好は血溜まりの中で転がっており、死にそうになって目蓋を一瞬閉じようとしたり、気を失いそうになったりするが、二ノ宮君の持つショートソードの電撃の効果なのか、ビクン! と、また、目を覚ます様にこちら側に引き戻されるのだ。
30回程、『あっそ。』を繰り返した頃、ようやく三好は動かなくなるのだった。
◇
私達の戦いは、これで終わった――――筈だった。
「こ、殺し……人殺し!!」
園島さんは、私達――――主に私を見て、泣き叫んで居た。
私は口を開かない。 勿論、否定できないからだ。
「や、やめるんだ園島さん! あの三好達を殺したんだぞ!? 刺激したら、僕等まで殺される!!」
そして、藤木君はそんな事を言い出した。
あの三好達よりも、最悪な相手だと、言い出したのだ。
ポーションで回復した藤木君以外の三人も、そうだよ、もう拙いよ、やめようよ、と、言い出した。
「最初から私と池谷さんも殺すつもりだったんだ!! あの時、織部さんを置いて来たから、恨んでるんだよ!!」
ぎり、と、私は下唇を噛む。
確かに、悔しかった。 そして殺意も抱いたのも、本当の事だ。
「それを今言うのですか? 私達が何もせず、そのまま成り行きを見守ったならば、あなたは犯され――――他の人達はどうなっていたのでしょうね。 恨んで居るなら最初から私達も織部さんも動きませんよ。」
と、私の隣に車椅子を動かし、園島さんを睨みつける様に言った三島さん。
「だ、だからって!! 池谷さんが、あ、あんな!」
「逃げられなかったのは仕方ありませんよ。 織部さんががあそこで躊躇していたら、被害はもっと増えたでしょうし。」
そ、それは……違うのだ、けれど……。
でも、真相は、今は、とてもでは無いけれど、言えない。
自分の命が――――自分の腕が――――惜しくて、走り出して、手を前に突き出したなんて、言える訳が無い。
「まあ、聞いてよ。 僕達の目的は、三好だった。 これは本当。 でも、そっちの仲間を、一人、巻き込んで、悪かったとは思ってる。」
「こ、こっちの仲間、って、クラスメイトなのに!」
「そのクラスメイトっていうカテゴリーに、僕達が入れなかったのを、君達が一番良く知ってるんじゃないかな。」
藤木君たちは、それぞれ顔を合わせ、そうだ。 それは僕達がした事だった。 と、お互い頷いて、暗い顔をする。
「……僕達をどうするって言うんだ?」
「この件を誰にも言わないと約束するなら、ここでお別れだね。 三島さんも、織部さんも、それで良い?」
「問題ありません。」
「良いよ、それで。」
三島さんも私も、二ノ宮君の言葉に強く頷いた。
「ダメだよ!! 絶対、これから三好達みたいに、後ろから攻撃して来るつもりなんだ!!」
……それでも、噛み付いて来た園島さん。
ここは、学校でもないし、会議場でもない。 口だけで幾ら言おうが、何も解決はしないのだ。
それなのに……。
「そうだ!! 委員長達に言ってやる!! あんた達が、三好達を殺したりして、何か変な事企んでる、って!!」
二ノ宮君と、三島さんの動きが、ピタリと止まる。
「それが、君たちの答えって事で……良いのかな?」
震える唇で、そう質問する二ノ宮君。
「そ、そうだ! 委員長達は君たちより強いぞ!! きっと懲らしめてくれるに違いない!!」
委員長達の名前が、効果があったと勘違いしたのか、藤木までそんな事を言い出してしまった。
その事で、残念ながら、交渉は……決裂した。
キュンッ!! タイヤが音を立てて、隣に居た三島さんが、車椅子を急速に後ろに動かした。
私の左に居た二ノ宮君は、左側から、腰を下ろして藤木達に迫る。
「待って!!!」
それを、私は声を上げて止めた。
何故今更止めるのだ? と、こちらを見る二ノ宮君と三島さん。
だが、私も少し表情を険しくして、二人を見る。
「これが最後だよ藤木君。 私の詠唱が終わる前に、消えてくれる? そしたら……もう何も言わないから。」
これが、私としての今回の落としどころであり――――まあ、それなら納得しよう、と、二ノ宮君は剣を、三島さんは弓を降ろしたので、心の中で胸を撫で下ろす私。
「詠唱って……あの、魔法を、撃つ……のかい?」
『我が信愛なる紅蓮の炎よ。』
「ほんとに詠唱しだしたぞ!! 逃げろ!! 逃げるんだ!!」
「撃たないよ!! どうせ脅しだよ!!」
『清く熱く切に赤く、彼の者の血潮をも熱く赤く滾らせ給え。』
「大丈夫だって!! 委員長達にはどうせ敵わないんだから!! 僕らにこんな事をしたって分かったら、大変な事になるのが怖いから、脅してるんだ!!」
藤木以外の三人の男、腰が引けて居て、今にも逃げようとしているが、園島さんと、藤木君がその三人を引き止めようとする。
私はただ、彼らが逃げればそれで良いと言ったつもりだったが、伝わらなかったようだ。
『して、沸っする鮮血よ、弾け、放て、紅蓮の光と共に。』
「やばいって藤木君、これマジやばいって!」
「クソ織部!! あんた調子に乗るんじゃないわよ!! そんなんだからあたし達に選ばれなかったんだ!!」
チクリ。 と、心が少し痛んだが、逆に、なんでそんな風に挑発する言葉しか出せないのか、可哀相になってきた。
『ララヒート、ナヒートヴォル、クレティアニカ、フォルテ。』
「おい! 終盤に入ったぞ!! 逃げろ!!」
「やめろって言ってるでしょ!! バカ加奈!! 死ね!! 死んじゃえ!!」
……可哀想に。 結局、中学生気分が、抜けてなかったのね。
そんな風に喚いて、解決する可能性のある世界は、もう、私達の過去にしか無いのに。
『グレーゼ、グレーゼ、ララ、グレーゼ。』
遂に、詠唱が終了してしまう。
私は、詠唱が完了するその瞬間まで……目の前に誰も居なくなる事だけを、願っていたというのに。
「うわぁぁぁぁぁ!!!」
「にげろぉぉぉ!!!」
慌てて逃げ出す二人。 藤木君と、園島さんは、まだ私の目の前で固まって居て、もう一人は藤木君の後ろで脚を竦ませ動けなくなっていた。
私は前に二歩踏み出すと、ぺとん、と、園島さんの胸の、真ん中あたりを右手で触った。
「や、やらないわよね?」
どくどく、と、掌に園島さんの鼓動を感じる。
「これね。 詠唱完了したら、私の腕が爆発するか、発動するまで止まらないの。」
「っ!?」
「
ぶくり、と、園島さんの身体が一瞬膨れ、
ドパァァァァン!! と、粉々に爆発した。
園島さんの左側と、その後ろに立って居た藤木君ともう一人が、通路の左の壁に向かって吹き飛んで行く。 既に私達に背中を見せて逃げ出して居た他の二人が、背中に爆風を受け、前のめりに倒れた。
目の前で、赤い光が、沸騰した園島さんの血と共に、球体を作り……。
『ディスト、グレーゼ、ララ、グレーゼ。』
ぐしゃしゃ!! と、藤木君ともう1人の身体が壁に叩き付けられると同時に、二次攻撃の詠唱を始める私。 まさか、二次攻撃までするのか、と、こちらを見る二ノ宮君と三島さんだが、私の表情を見て納得したのか、
『
と、静かに私が魔法を使うと、まるで皆の冥福を祈るように、二人は目を閉じるのだった。
ボコココココッ!!!
目の前で起こる、血の水蒸気爆発。
ツパァァァン!!!!
と、轟音と衝撃が、通路に響き渡る。
衝撃は、壁に激突していた二人を更にグチャッ!! と、押しつぶし、通路を駆け、その通路を逃げて居た二人を、吹き飛ばす。
真後ろからやってきた爆風に前のめりに身を飛ばされた二人は、通路の奥まで転がりながら吹き飛ばされた後――――グシャ!! と、その身を通路の床に落とした。
その通路を逃げて居た二人のうちの一人の魔法だったのか、彼等と私の間あたりにあった白く光る玉が、フッ、と、消えて、暗闇が訪れる。
私は、再び詠唱を開始し、炎の剣を召還すると……。
炎の光に照らされた通路には、私達三人の他に、動く物は何も見当たらず、真剣な顔の二ノ宮君と三島さんが、私を見る。
「逃げたら本当に殺さなかったのに。」
はにかみながらそう言う私。
「何で、二次攻撃まで……したんですか?」
「逃げた二人に、本当に日立達に私達の事を言われるのは、私達の不利益になると思ったから。 ……私がやらなかったら、二人がやったでしょ?」
「……織部さん……まさか、池谷さんを殺した責任を、一人で取るつもりで――――。」
「責任とかじゃないよ。 私がやれるから、やれる時にやった。 それで良いよね。 私達は。」
複雑な感情は、今も私の中を駆け巡って居る。
だが、一番大事な事は、この三人が、今も生き残って居る事。
生き残って、また手を取り合って、次の難題に、挑む事。
「後味は悪いけど、これも結果。 仕方ないよ。」
くい、と、帽子の端を抓んで、位置を直す私。 そういえばこの帽子、爆風でも飛ばないな、と、考えながら。
「なんか……完全に、悪者みたいですね、私達。」
「でも、これで僕達は分かったよね。 どんなヒーロー物の悪役にも、きっと理由とか、そうだ。 友情もある、ってのはどうかな。」
不謹慎だが、つい笑ってしまう私。
同級生12人を殺害した私達は、迷宮の中で、また絆を強くしたのだった。
私達の犯行が、ある人物によって発覚する、とは、夢にも思わずに……。
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