第30話 ゆ、許してあげるから
倉敷さんは真剣な表情で俺を見つめている。勉強を教えてと言われてもな……人に勉強を教えたこと無いんだけどな。それと俺の中で、倉敷さんは頭が良いイメージだったんだけど、そうじゃないってことなのか。
「なんでまた?」
「それは……家の都合というか、私の都合というか……」
「それなら俺なんかに教わるより、ちゃんと勉強が出来るやつに教わったほうが良いんじゃないか? 例えば家庭教師を雇うとか。そっちの方が教え方が上手いと思うけど」
「うん〜。家庭教師じゃなくて、少し前まで大学の先生を雇ってたんだけどね」
大学の先生を雇ってた? 俺の想像を軽く超えていったな。やっぱり倉敷さんの家はお金持ちなのかな。家庭教師を雇うのは一般家庭でもあるかもしれないけど、大学の先生を雇うは聞かないよな。
「大学の先生って……凄いな。雇ってたってことは、なにか問題があったのか? 教え方が下手すぎだったとか?」
「え〜とね、その先生はスーツをビシッと着て勉強出来ます! みたいな格好をしてたんだけど、教え方は普通だったかな。私のせいもあるかもだけど成績は特に上がらなかったし。だけど問題はそこじゃなくて、実はその先生、私の家の物を盗んでたの……」
「マジか……それは最悪だな」
「でしょ! 半年くらいかな? そのくらいの期間勉強を教わってたから少しは信頼してたんだけど……で、最後は呆気なかったんだけど、先生がなにも無い廊下で躓いて転んで、持ってた鞄から父のコレクションだったり、母の宝石が出てきて分かったって感じかな」
「なるほど……アホすぎるな。なんか悪いことするとバチが当たるのかもな」
「ほんとそれだよね。ということがあって家族が怒っちゃって、もう先生を雇えないんだよね。私ももう家に先生を呼ぶのは嫌だし」
「そりゃ怒るよな。そういえば、なんでいい点数を取りたいんだ?」
「それはね。私アルバイトしてみたいの!」
倉敷さんは目を輝かせて言った。
「アルバイト? いい点数とどういう関係があるんだ?」
「父に今度の数学のテストで80点以上取れないとアルバイトさせないって言われちゃって……」
うちの家族は俺のテストの点数について、特になにも言わなかったけど、世間一般ではテストの点数が低いと親に怒られたりするもんなのかな。
「そうなんだ。厳しいお父さんなんだね。なにか欲しいものでもあるの?」
「特に無いんだけど、高校生になってやってみたかったことがアルバイトなの」
部活をやってみたいとかじゃなくて、アルバイトなんだな。確かにコンビニとかで働いてる高校生とか見ると、ちょっと、やってみたいって思ってた気がするよ。
「思っているより、アルバイトってそんな楽しいものじゃ無いぞ」
あれは1年生の頃、大きな工場でアルバイトしてたけど、単純作業で楽じゃん! とか思って舐めていたけど、やってみてあれほど苦痛なものは無かったね……単純作業だからこそ、時間が過ぎるのが物凄く遅く感じる。まだ終わらないのかなってずっと思ってたね。まぁバイトが終わったときは頑張った〜って思ったけどね。どの仕事もお金を稼ぐのは大変ってことだな。
「でもやりたい! だから堂道君に勉強を教えて欲しい!」
「熱意が凄いね。分かったよ。でも人に勉強を教えたこと無いから上手く教えられるか分からないからな。それでも良いなら」
「え、本当? やった〜、ありがとう〜〜〜。これで私アルバイト出来るね」
俺の手を取って、上下に振って喜びを表現してくれてるのは良いんだけど、それは気が早いぞ。現状数学がどのくらいできるのかだけど。
「ちょっと、シー、シー」
「あ、ごめんなさい」
図書室にいた人が睨んできたな……完全に俺達が悪いんだけど。
「クソ〜リア充爆発しろ(小声)」
「俺達の女神に手を触ってもらえるなんて……(小声)」
ヒソヒソ
ヤバい聞こえないけど、なんか言われてるよ。ちょっと自重しておこう。
「ちなみに前の数学のテストの点数は何点くらい取れた?」
「……40点くらいかな」
「なるほどな。とりあえず赤点以下ではないってことね。とりあえず1年のテスト範囲教えて」
倉敷さんは俺の隣に座り、教科書を取り出した。
「えっとね〜。ここかな」
・
・
・
1時間くらい勉強を教えた。1年のテスト範囲は狭いので今のうちに分からないところを潰しておいたほうが良いな。ここで詰まると今後の数学が出来なくなってくるからな。
「堂道君、今日はありがとうね。勉強教えたこと無いって言ってたけど、全然そんなことなかったよ。うちに来てた先生より分かりやすかったよ」
「どういたしまして。なら良かった。まぁ……倉敷さんの実力は分かったよ」
「私の実力がバレてしまったよ……トホホ」
「数学以外の教科は点数が高いから気にしなくても良いと思うけどね」
倉敷さんは、数学以外は、ほぼ90点以上みたいだ。学年でも50位以内には毎回入ってるそうだ。数学の点数が伸びれば、一気に順位が上がると思う。
「うん……でも苦手は克服したいな」
「今週は、放課後に図書室で勉強しようかなって思ってたから、なにかあったら来て」
「いいの?」
「ああ、教えるのも俺の勉強になるから」
「あ、ありがとう」
「じゃあ、帰りますか」
「うん」
教えるのって中々大変だったな。頭では分かってるけど、口で説明するとなると結構難しい。これは俺もいい勉強になるそうだ。
あ、そうだ。一応聞いておこうかな。
「家まで送っていこうか?」
「私、車なので〜」
だよね。
* * *
教室に戻ると、すでに窓から夕日が差し込んでいた。流石に教室には誰もいない。
さてと帰りますかね。
「ねぇ!」
窓際にいると急に声を掛けられた。そんな大きな声を出さなくても聞こえてるっての。
「うん?」
振り向くと予想通り彩花だった。俺を睨みつけているような顔をしている。
「なにか用か?」
「なにって……」
「用が無いなら帰るぞ」
俺は特に話をしたくないので、早々に教室を去ろうとすると――
「ちょっと待ってよ! この前のことだけど、ゆ、許してあげるからまた付き合いなさいよ」
許してあげるってなんだよ。俺が悪いことをしたとでも言いたいのかよ。どこまでも自分勝手なやつだな。
「は? なに言ってんだ? 許してやるって……俺がお前になにか悪いことをしたのか?」
「だって、頼んでたことやってくれてなかったじゃない!」
「それは彩花の仕事だからだろ? 俺に丸投げってのはおかしいだろ」
「でも頼んでた!」
「はぁ〜。もうここで言い合いしてても仕方ないだろ」
「もっと今度はかまってあげるからね。仲直りしようよ」
仲直りって……
「というかなんで俺と復縁したいんだ? そんなに俺のこと好きなのか? だったら一緒に助け合うのが普通だろ?」
今更好きと言われても無理だけど。
まぁプライドが高いこいつは自分から好きって言葉を言わないと知ってる。思い出してみれば、彩花から好きって言われたことなかった気がする……まぁそういうことだな。
「……」
ほらな。
「ほら、言えないだろ? じゃあ、また付き合ってもお互い良いこと無いな」
「……くっ」
彩花は酷い顔をしている。普段クラスにいるときの顔じゃない。
「じゃあ、さっきの話は断るわ。話がそんだけなら帰るから」
「後悔するよ……」
後悔なんてするか。俺は黙って教室を出た。
====================
ここまで読んで頂きありがとうございます。
ようやく30話までいきました。最近ランキングが下がり気味ですが頑張っていきますので「★」を頂けると嬉しいです!!
クラスメイトから勉強教えてって言われると嬉しいですよね。あれは自分を頼ってくれて嬉しいってことなんですかね。
「フォロー」「応援」「★」を頂ければ、書くモチベーションが上がりますので、宜しくお願いします。
コメントも頂けると嬉しいです。できるだけ返信しようかと思ってます。
ただし、あまり強い言葉ですと、コメントを消すかもですのでご了承ください。
最後にツイッターも行っていますので是非フォローの方宜しくお願いします。
====================
改定
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。