第9話 アルハトロス王国 エスコドリアの町
エコリア地方。
アルハトロス王国の西にある地方で、豊かな自然に恵まれている地方である。農業と林業に支えられている経済であり、そしてアルハトロス王国に最も高い山、エコリア山がある。その山の麓に、エスコドリアの町がある。青竹の里からエスコドリアの町まで馬車で行くと大体10日間がかかるという結構な距離である。
そのエスコドリアの町から魔法師ミライヤの屋敷までに行くには、船で湖を渡って、そしてそこにある小さな村に行って、馬車または馬を乗って、山の上まで送ってもらうことになる。
ローズはたくさんの荷物を持って行かないという選択が正解だった、と思った。移動が大変だと、たくさんの荷物が邪魔になるだけだ。しかもローズは自分の荷物を持って行くことができない。なぜなら、体が小さすぎるからだ。護衛のダルガは使用人ではないため、そこまで荷物を持ってくれるかどうか、ローズは分からない。それに、仕事上では、いつでもどんな状況でもすぐに動けるようにしなければいけない。そのため、荷物持ちは無理だ。ダルガ自身は武器と小さな袋以外、何も持って行かなかった。さすが旅に慣れている人だ。
モイは自分の荷物を持って行くのでしょう。両手でローズのカバンと自分のカバンを持って行ったら、かわいそうすぎる。なぜなら、意外と結構重いからだ。誰がのローズのカバンにあんなにびっしりと服を入れたのか、と彼女が疑問に思った。途中に泊まった宿に、そのカバンを開けた瞬間、ローズは思わず声を出してびっくりするほどだった。
服以外にも、本やノート、欅からもらった手鏡も、当然ながら入っている。その手鏡はあんな爆発に巻き込まれたにもかかわらず、無事だったので、とても丈夫な物だ。そして女子のたしなみに欠かせない道具一式も入っている。
でもあんなにたくさん服は要らない、とローズは思った。いくら彼女の体のサイズの服は市販で売ってないからと言って、大量の服は必要ない。けれど、それらの服が、一つ一つ、侍女達の手作りだ。いくつかの服に、百合の刺繍も入れてある。かわいいけれど、フリルフリル系ばかりの服だった。良かったことに、寝間着と運動着は普通の服だった。
しかし、1年後に彼女の体のサイズは同じでしょうか?複雑な気分だ、と彼女がまた外を見て、ため息ついた。
前世で、ローズは高校に通っていたけれど、何年生だったか覚えてない。彼女の身長は、そこそこあった。多分モイぐらいあった、と彼女が思った。運動は得意だった。それなりの運動神経が良かった、と記憶に残っている。
彼氏?、とローズが考えた。記憶にはない。けれど、一度ぐらいは恋をしてみたかったけれど、死んでしまった。
転生しても、こんなに小さい体のだから、無理だ。恋に落ちても、互いに悲しくなるだけだ。だって、無理がありすぎる、とローズは窓から外を見つめている。
今のローズは優しい兄が二人もいる。心の支えだと思っても良い。兄達がいつかきれいな嫁さんを迎えに来たら、彼女はどうなるのでしょうか。
ううん、今考えても仕方がない、とローズが首を振った。
一年後、ダルゴダス家に戻ったら、料理長のところに弟子入りでもしてみよう、と彼女が思った。美味しい料理があれば、この世界で生きていける。特にあの美味しい卵料理があれば、幸せは確定的だ。
あ~、まだ始まったばかりこの旅なのにもう料理長の料理を恋しく感じた。ローズは柳の気持ちが分かるような気がした。なぜなら、彼女は今、おなかが空いたからだ。
そろそろ町が見えて来る。不思議なぐらい旅が順調だった。馬車の運転手から聞いた話だけれど、たまに野生の動物や獰猛な獣が襲ってくることある。けれど、どの町に行っても、日が暗くなっても、そのようなことが一度もない。
馬車の上に乗っている黒猫のリンカは追い払ったのか、と彼女が上を見て、また首を振った。まさか、獣が猫に負けるなんて、ありえない。
あるいはダルガのオーラに負けて、怖くなった、と言う可能性も否定できない。これは正解かもしれない、とローズは思った。ダルガはレベル8の護衛だから、きっとすごいオーラを放つの違いない。
里ではレベル5以上は、もう達人レベルになるのだから、レベル8のダルガはきっと強い人だ。そこから上がって行くには努力以上に特殊な技能が求められる。技を極め、もうマスター以上の能力に身につけている武人達である。そしてもちろん職人たちも、同様のレベルランクもあるのだ。
そういえば欅の職人レベルを聞くのが忘れた。今度手紙で聞いてみよう、とローズが思った。
「もうすぐ町だよ!」
ダルガの声が聞こえた。モイは眠りから目を覚まして、目の前でエスコドリアの町並みが馬車の窓から見えて来た。とても大きな町だ。
町に着いたら、とりあえず宿に行って、一日休んでから荷物を運んでくれる人を雇う。それから湖を渡ると、モイが説明した。馬車で船を乗って渡れないから、その町でこの馬車とお別れだ。10日間もお世話になった、とローズが頭を下げて、お礼を言った。馬車の担当も頭を下げて、どこかへ行った。
宿に着くと、荷物を下ろして、部屋で休憩することになった。ダルガは荷物を運んでくれる人を探しに、仕事紹介屋を訪れる。大きな町だと、人や仕事が溢れているため、たくさんの仕事紹介屋が存在している。料金は仕事の前から半分前払い、その一部は仕事紹介手数料として取られる。仕事が終わったら、残りの半金を払い、終了だ。また仕事している間に食事や休憩、そして交通費も、全部依頼主の負担となる。今回は船を乗って湖を渡る仕事することになるため、当然船の運賃往復は、こちらが支払うことになる、とモイが細かく説明した。
ローズとモイが二つベッドの部屋を借りて、ダルガは隣の部屋に泊まる。護衛である以上遠くへ離れてはいけない。特に夜が一番危険だ。盗賊もたまに襲ってくるため、用心しなければいけない。黒猫のリンカはローズ達と同じ部屋で寝る。
エスコドリアの町に着く前に、いくつかの宿に泊まったけれど、リンカはいつも床に寝るのだ。けれども、寒い日や雨の日だと、いつもローズの寝台に上がって、丸くなって寝ていた。猫だから、仕方がないことだ。
しばらく休んで、着替えてたら、ダルガは宿に戻って来た。良い荷物持ちが見つかった、とダルガは報告した。明日の朝、彼らが宿に来るそうだ。そして宿の前にある船乗り場まで荷物を運び、一緒に船を乗って、湖の向こうにある村まで運んでくれるそうだ。その村にまた馬車を探して、移動することになるけれど、荷物持ちの仕事はあそこで終了するとなる。
夕食は、ダルガがこの町に仕事でして来た時にお気に入りのレストランに連れて行った。ダルガは護衛だけではなく、たまに傭兵として仕事もするからこの町に詳しい。情報収集も含め、いろいろとやって来た人である。頼もしい人だ、とローズは思った。
「ここの鹿肉のシチューがうまいんだ」
ダルガは嬉しそうにメニューを見て、勧めて来た。小さなローズはモイの肩掛けカバンの上で座った。ちょうど良い高さだ、とモイが見て、うなずいた。
「じゃ、私はそれにする」
ダルガの勧めたメニューを聞いたローズが即答して、注文した。モイは別の料理を頼んだ。
しばらく待ってたら、料理を運んできた店員が来て、ダルガに挨拶きた。
「お、ダルガの旦那だ。今日は奥さんと娘さんと一緒に食事にきてくださったんだ。嬉しいな」
「あ、いや。あの・・」
慌てて返事に困ったダルガは面白い、とローズが思わず笑った。
「父はいつもお世話になっております。娘のローズです」
「妻のモイです。よろしくお願いします」
ローズとモイが合わせて、答えた。ダルガの顔が真っ赤になった。あわやあわや、と慌てている。
「旦那、そんなに照れていて、どうするの?しかし、きれいな奥さんと、かわいいお嬢さんですね。幸せ者ですね。はい、おまちど様。本日の我が店の自慢の料理の鹿肉のシチューだ。どうぞ、召し上がれ」
その店員が微笑みながら料理を机に並べた。すべての料理を運んで来たら、ローズたちがゆっくりと食事を始める。
「ローズ様、あのような冗談をお止め下さい。心臓に良くない。モイさんまで」
ダルガはひそひそと小さな声で意義を唱えた。
「いやぁ、親子になれば、怪しまれずに済むかなと思って、ついやってしまった。迷惑なの?迷惑なら、ごめんなさい」
「いや、なんて言うか、うむ、私は独身であって、家族とはほぼ無縁な生活して来たのだ。親兄弟もいない」
ダルガがシチューを食べながら語り始めた。
「小さい時から一人前まで、我が子のように育ててくれたのはダルゴダス様だ。あの方は私の親であって、師匠であって、主であって、私のすべてだ」
ダルガが白湯を飲んで、またスプーンにシチューを入れた。
「だからローズ様をお守りする依頼を受けた時、何してもこの任務を全うするつもりだ。ですから、ローズ様が、我が娘だとか、どうしたら振る舞えば良いか分からない。ましてやモイさんのようなべっぴんさんの嫁さんなんて、夢にも、考えたこともないんだ」
ダルガは自分のお皿にある料理を食べようとしているが、何かに喉に引っかかったようだ。彼はまた白湯を飲んで、再びスプーンにシチューを入れた。
「大丈夫ですよ。私もローズ様の意見に賛同しています。旅行している家族として振る舞った方が自然に見えます。余計な思惑や企みも避けられるでしょう。それとも、この町でダルガさんは好きになった人は、いらっしゃるのですか?」
モイは微笑みながら言った。彼女は美味しそうに食事をしている。
「そんな人はいない」
モイの質問にダルガは即答した。モイはにこっと微笑んで、食事し続けている。
「分かった。無事にミライヤ様のところまで、家族として行動しよう」
頭をぼりぼりとかいたダルガは覚悟決めたようだ。
「さぁ、食べよう。このお店の料理は最高に美味しいんだ」
ダルガが店員に聞こえるぐらいの大きな声をした。これに対して、モイもうなずいた。
「はい、あなた」
そのモイの一言で、ダルガは思わず咳き込んでしまった。そのやりとりを見て、ローズは思わず笑ってしまった。
愉快な夕飯の後、ダルガが美しいエスコドリアの町を案内した。小さいローズがはぐれないように、ダルガはローズを自分の腕に載せた。背が高いダルガの目線で見える景色が全然違う、とローズが思った。
ローズがダルガの肩にある鎧に手を伸ばして、頭から首に背中まで獣の毛があるのが見えた。鎧の下はこんな感じなんだ、と彼女が思った。山猫人族は半分獣、半分人だから、当然獣の特徴があるのだ。ダルガの場合、黄色い毛としましま模様が顔にあって、尻尾も長く、しましま模様だった。だから顔に変な模様があっても、ローズとダルガをが一緒に並べたら違和感なく見える。
モイも楽しそうに、周囲を見ている。ずっと田舎町にいたから、こんなに賑やかな町を見たことがない、と彼女が言った。屋台街に足を伸ばすと、面白い形の飴が売られている。ローズが欲しいと言ったらモイがうなずいて、ローズのために買った。とても甘くて美味しかった、と。
ダルガによると、このような場所では人々がたくさんいるせいか、たまには犯罪が起きるという。彼によると、エスコドリアの町の治安はあまり良くない。けれど、体格ががっちりで強そうなダルガを見たら、下手に悪いことをしようとする者があまりいないでしょう。何しろ腰の左右にある2本の剣を見るだけでも、考えを改めてしまうほどの迫力があるからだ。
ダルガは歩きながら、いろいろな町のことを話した。ローズとモイはそれらの話を楽しんだ。本当に面白くて、ステキな話だった、と彼女が何度もうなずいた。
長旅による疲れたからか、ローズが眠くなってしまった。眠そうな彼女を見て、ダルガは宿に戻ると決めた。ダルガの肩に頭を置いているローズが、美しい町の灯りの風景を夢の中まで見ていた。
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