第7話 アルハトロス王国 青竹の里 爆発事件
あれから数週間が経った。待ちに待った家庭教育も整えて、ローズが毎日充実とした時間を過ごした。そして、彼女が魔法について興味を示したから、父であるダルゴダスは魔法教育の先生を付けた。
魔法というのは基本的に自然の力を利用するための戦闘法だ。けれども、人々が古くから魔法をいろいろな場面で使っている。戦闘だけではなく、医療も魔力を使うのだ。基礎中の基本で、自分の魔力のことを知るところから始まる、と先生が言った。自分を知ることで、自分がどの魔法が使えるかが分かる。これだけは、人によって違って、なんとも言えないところだ。魔力は天の恵みなので、多いか、少ないか、どんな魔法が使えるか、すべて調べる必要がある。
自然界との繋がりで、各個体はそれぞれ自分の属性がある。これだけは天の定めだ、と先生はそう言いながら、ローズに図面を見せた。どの属性を持っているのか、調べないと分からないので、ほとんどの者は専門の先生に聞いて、それに合わせて修業をする。
上位者になると、他の属性の魔法を習うことができる。とても希な話だけど、複数の属性を持って生まれて来た者もいる。この場合、どれか一つを主な魔法として使い、その他の魔法をゆっくりと上げていく方法で修業するのが一般的だ。レベルが高ければ高いほど、この修業がやりやすいという話もあった、という。
事実レベル0以下のローズは、魔法が使えるのか?、という質問に答えるために先生は純度が高い天然クリスタルをカバンから出した。
「手をその上に載せてみなさい」
先生がそう命じながら、ローズの前にそのクリスタルを置いた。ローズが恐る恐ると手を置いた。すると、5つ色の光が鮮やかに放たれている。赤、黄、緑、青、金だった。
「これは珍しい!」
先生が言った。けれど、彼がまたそのクリスタルに故障がないかと調べて、ひっくり返して、また確認した。
「もう一度やってみて下さい」
「はい」
ローズがもう一度手の平を載せた。すると、やはり5つの光が鮮やかに放たれている。
「ふむ」
「ん?」
ローズが先生を見つめている。先生がしばらく考え込んで、そのクリスタルを見ている。
「ここまで多数の強い光を見たことがありません」
しばらくしてから、先生が言った。
「じゃ、私は魔法が使えるの?」
「ええ、・・それどころか・・」
「え?」
先生はローズの疑問に答えず、部屋の外へ出てしまった。外で近くで待機している侍女に直ちにダルゴダスに会わせるように、と頼んだ。
「緊急だ、と申してくれ」
先生の要望を聞いて、侍女も急いで走った。恐らく彼女が父がいる執務室へに行ったのでしょう、とローズが開いている扉から見つめている。
何か慌ただしい状況になっている。ローズが自分の手を見て、考え込んでいる。いけないことをしたか、と。
昼餉の時間になっても、先生が戻って来なかった。ローズが立ち上がって、キョロキョロした。モイもいないし、他の侍女もいない。けれど、お腹が空いてしまったのだから、彼女が一人で食堂に向かった。
ローズが自分のお皿を取って、台所にいる料理長に今日の昼餉を頼んだ。本日のメニューは肉のソテーのランチだ。料理長がローズの大好きなあのクリーミーな卵料理も付けた。
あ~、これが大好き!、とローズがにっこりと笑顔を見せながら、手を合わせた。頂きます、と。
「今日は一人なの? モイがいないの?」
台所担当の者が白湯を置いて、尋ねた。
「うん。何か良く分からないけど、モイもいないし、先生も出たまま戻って来ないんで、一人でここに来た。だって、お腹が空いたの」
ローズがそう答えながら、一口の卵料理を口に入れた。
「何かあったのかしら?まぁ、ごめん。召し上がれ、ローズ様」
「うん!♪」
ローズがうなずいて、また料理を口に入れた。やはり今日のご飯も美味しい!、と彼女が嬉しそうにうなずいた。彼女が料理長の大ファンになって、今度弟子入りでもしよう、と思っている。毎日美味しい料理が食べられるなら、もう永久に独身でも構わない。この身長が伸びる気配もなさそうだから、と彼女がまた次々と料理を口に入れた。美味しい、と。
ローズが昼餉を楽しんでいる最中に、モイが慌てて食堂に入って来た。
「あ!いらっしゃいました!」
モイが慌てて近づいて、目の前に来た。
「ローズ様、ダルゴダス様がお呼び・・、はぁはぁ・・、今すぐに!」
「げふ!ごほごほ!」
ローズがびっくりして、ご飯が気管に入ってしまった。
「ああ、大丈夫ですか?はい、お茶!はい。行きましょう!」
モイが慌ててローズにお茶を飲ました。そして急いで、モイは彼女の口を拭いて、そのままローズを抱きかかえて、執務室へ走った。
こんなに慌てているモイは初めてだ、とローズが何があったから分からずにいた。
モイが走りながら領主室に向かった。ご飯を食べた最中だったため、いきなり代抱えられて走ると、とても苦しかった。けれど、モイはそんなローズを見て、ただうなずいただけで、彼女を降ろした。ローズは息を整えて、衛兵が待っている扉の前に行った。その扉が開かれている時、もうそこに複数の人が集まっていて、ダルゴダスと真剣に話し合っている。
「ローズ様が来ました!」
「入れ!」
ダルゴダスの声が聞こえて、ローズが中に入るようにとモイに背中を優しく押された。モイは一緒に入れなかった。ローズは一瞬後ろを向いていたけれど、そのまま中へ入った。扉が閉められると、ローズが恐る恐ると前へ進んだ。
「ローズ」
「はい」
この時のダルゴダスの顔が怖かった、とローズは思った。先生と複数の人々が輪になって、コーヒーテーブルの上にその問題のクリスタルがあった。
「そのクリスタルの上に手を載せろ」
「はい」
ローズが恐る恐ると前に出て、ダルゴダスの前にあるクリスタルに手を載せた。その瞬間、5つの光が鮮やかな光を放って、強く輝いた。
「おお! なんと!」
この場にいる人達が声を出した。ローズがキョロキョロして、手を引いた。彼女がダルゴダスを見つめて、瞬いている。
「もう良い。部屋に戻って、わしが呼ぶまで、今日はどこにも行くな。今日の勉強もすべてなし。命令だ」
ダルゴダスが怖い顔で命じた。
「はい」
ローズが頭をさげて、外に出て行った。そして、外で待機していたモイと一緒に自分の部屋に戻った。
なぜこのようになるかが分からない。その光は何なのか、なぜダルゴダスの顔があんなに険しくなったのか、ローズは分からない。
モイも何も言わずに部屋まで一緒に行った。部屋に戻ると、先生の荷物がすべて片づけられていた。また部屋に閉じこめられるのか、とローズが不安な顔をして椅子に座った。
トントン、と扉をノックする音がした。モイが立って、対応した。なんと食堂からローズの大好物の卵料理と食べ損ねた料理が運ばれて来た。けれど、全部、新しく作り直されていた。しかも、おやつも付いているので、ローズの顔に笑顔が見えた。
ありがとう!、とローズがそう言いながら、机に並べられた料理を見て、手を合わせた。
頂きます!、と。
モイがお茶を煎れて、机に置いた。正直に言うと、あまり食欲が湧かない。けれど、食べないと何があった時に、力が出ないので食べることにした、とローズが頬張りながら思った。
やはり美味しい、特にこの卵料理だ、と彼女が何度も思った。
食事を終えて、モイが食器を片づいて、部屋の前に待機している侍女に渡した。そして彼女が再び部屋に戻った。
食事を終えたローズは柳からの本を読むことにした。確かに、この前の章で、光のことが書かれていたような、と彼女は本をめくっている。難しい文字が並んで、読めなかった。それでも、彼女はその本をずっとめくって、何かを探した。
あった、と彼女がそう言って、読み始めた。光の色は魔法の属性を表している、と書かれている。
そうか、柳は手のひらから植物の鞭を出した時に、強い輝きの光が現れた。どのようにやったか、ローズが思い出している。
「大地よ! 柳が命じる、我に力を与えたまえ!」
確かにそれだった、とローズは思い出しながら、手を伸ばした。もし、自分が真似したら、強い魔法ができるかもしれない、と彼女は思った。
「大地よ!ローズが命じる、我に力を与えたまえ!」
ドーン!
呪文を唱えた瞬間、爆発が起きた。
ローズがふらついて、意識が朦朧とした。その中、モイの叫び声が聞こえた。けれど、彼女が何もできなかった。すべてが真っ暗になった。
「意識が戻った!」
知らない人の声が聞こえた。
「ローズ! 分かるか?」
「んー?」
「医療師を呼べ!」
しばらくしたら、医療師がローズの頭と体を診ている。
「今動かないで下さい」
ローズが服を必死に抵抗しようとしていた。けれど、頭が痛く、吐き気もした。
すごく吐きたい、と彼女が我慢できずに、体を動かした。そして彼女が地面に向かって、吐いてしまった、
「洗面器とお湯を持って来い! タオルもだ!」
また誰かが叫んだ。
「ローズ様、大丈夫ですか?」
吐いてしまった、とローズが涙ながら思った。口の中に胃酸に混じった料理の味はとてもまずい。料理長ごめんなさい、と彼女がまた吐いてしまった。
「はい、白湯です、ゆっくりとお飲み下さい」
今度はモイの声だ。言われたままに白湯を口に入れた。
ごっくん、ごっくん。
「はぁ、はぁ・・」
白湯を飲んできたローズに背中がさすられた感覚があった。そして彼女がまたぐったりと体を横にしたら、また声が聞こえている。
「部屋に運びます!」
ローズが慌ただしい人々の動きが分かる。けれど、何が起きたか、自分は理解していない。目を開けるのが精一杯だ。心配しているモイの顔が見えた。モイが口に残った汚れを拭いた。そして、彼女が体を布団の上に横たわると、ダルゴダスが見えた。彼はとても険しい表情で、数人の者と会話している。外では数名の衛兵が見える。そしてこの部屋は、ローズの部屋ではなかった。
「にい・・さ・・に・・ほん」
ローズは柳の本は大丈夫なのか、と気にしている。あれは借り物だから、返さないといけない。
「大丈夫です。後で私が探します。ローズ様は今何も考えなくても、良いのです」
「あ・・が・・と」
言葉にならない、とローズがうなずいて。モイが理解できるのだ、とローズは思った。
侍女たちが入って、衣服を持って来た。服が脱がされて、医療師が念入りの検査した。所々の手当もした。その後、数人の侍女達が衣服を着せた。
「医療魔法師を呼べ!」
ダルゴダスの声が聞こえた。ローズが力いっぱい指を動かそうとしたけれど、力が入らない。そして、なぜか、とても寒い、と彼女が震えている。
「ち・・ち・・」
ローズの呼びかけに、ダルゴダスが彼女の手をにぎった。なんだか、とても温かい、と彼女がそう感じた。
「わしだ、ローズ」
「ごめ・・ん・・ね」
「そんなことは、元気になってから、怒ってやる。だから覚悟でもしなさい。今は何も考えずに体を癒やすのが先だ」
「は・・い」
ローズがゆっくりとうなずいた。やはり彼女が大変なことを起こした。
けれど、元気になってから怒られることって、予約のようなことだ。いやだな、と彼女が思った。
なんか眠い。まぶたが重い。ローズが目を閉じて、眠ろうとした。
「ローズ、大丈夫か?冷たくなって来た。毛布を持って来い!まだか、医療師?!」
ダルゴダスが必死にそう言いながら、彼の小さな娘に暖めようとした。毛布を持って来た侍女らが来て、ローズの体にかけた。
「はい、ただいま!」
ローズが一度目を覚ました。人々が彼女に魔力を与えている。体がとても温かくなって、気持ちが良くなった。人々の声が聞こえなくなって来て、彼女が再び眠りに落ちた。
あれから数日が経った。
ローズが何日間か寝てしまったか分からない。目を開けると、そこは知らない部屋だ。彼女の部屋ではなかった。体中が痛いけれど、なんとか無事だったようだ。そして、手と足に感覚がある。
「モイ?」
ローズがモイを呼んだ。けれど、返事がない。いないのか、と彼女は思った。
「気が付いたか、ローズ」
柳の声だ。ローズが瞬いて、その音が来る方向へ顔を向けた。何ヶ月ぶりか、あれからずっと会ってなかった、と彼女が思った。朝の走る時の応援も聞こえなくなったから、外出禁止が解かれたのでしょう。仕事が忙しいのかもしれない。
「兄さん?」
あの緑色の瞳が見えた。彼はローズの頭をなでた。
「ああ」
なんか落ち着いた。なぜか、と彼女が彼を見つめて、瞬いた。
「本が・・」
「あの本か?大丈夫だ。モイが見つけてくれた」
「そう・・」
柳は微笑んで、うなずいた。
「モイは?」
「今ローズの服を作ってる最中、他の侍女達と一緒にね」
「服?」
「そうだよ。ローズの服、一枚も残ってなかったから全部作り直すことになった」
「なんで?」
ローズが聞くと、柳はしばらく黙っていた。それが言うべきか、言わない方が良いのか、迷っている。しばらくしたら、柳は優しい声で事実を伝えた。
「ローズは、自分の部屋を、丸ごと破壊してしまった・・そうだ」
「え?」
ローズが驚いた様子で柳を見つめている。
「覚えてないのか?」
「うーむ」
ローズが考え込んだ。
「柳兄さんの呪文を真似したら・・なんかドッカーン!、と音がした」
「何の呪文だった?」
「大地の・・」
「その呪文は修業を終えた者にしか口にしてはいけない。ローズはまだ修業を始めていなかったから、大変なことになったね」
「うむ」
大変なことが分かった、とローズは今状況を知った。大変だ、と彼女がそう思いながら、柳を見つめている。
「百合お姉様は無事ですか?」
ローズが聞くと、柳がうなずいた。
「無事さ。その時、別のところにいたから、ローズ以外誰も怪我をしてなかった。モイもかすり傷だけで、良かったよ」
「そう・・」
「白湯を持って来ようか?」
「うん」
「じゃ。ちょっと待ってね」
柳は部屋の中にある机の上にある魔法瓶から、グラスに白湯を注いだ。
「はい、ゆっくりな」
彼は少しずつ白湯を口に入れた。ごっくん、ごっくん、と。
「ありがとう」
「どういたしまして」
柳はグラスを机に置いた。
「兄さん、今日は仕事ないの?」
「爆発音が聞こえて、駆けつけたら、ローズが大変な状態に。俺が仕事しても、集中できないから、休むことにした」
「お給料が減っちゃう」
「気にするな。また頑張るから、大丈夫だ」
「ごめんね」
ローズが謝罪した。柳が彼女の気持ちを察したか、微笑んで彼女の頭をなでた。
「ローズは元気になることだけを考えれば良い」
彼がそう言って、ローズの手を握った。
「父上に怒られるかな」
「ものすごく怒られる、と思う。覚悟した方が良い」
「いやだな」
「怒られても仕方がないことをしたからな。ローズは屋敷を半壊にしたからだ」
「あっちゃー」
ローズが目を閉じて、被害の大きさを知った。本当に大変だ、と彼女が思ってしまった。
「まぁ、休め。ちょっと父上に、ローズが意識取り戻したことを報告して来る」
柳は優しくローズの頭をなでて、毛布を直してから部屋を出た。
怒られるのを覚悟するしかないか、と彼女は目を開けて、柳を目で追った。
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