第6話 アルハトロス王国 青竹の里 魔法
この世界はテレビやラジオがないためか、人々は噂というものを好む。娯楽があまりないためか、一が事実としたら、里中に流れる噂が十二もなる時がある。それだけでスパイスが多い物となるのだ。噂を消すために、正式の知らせを出すことも多々ある。新聞のような物もあるけれど、噂の方が早く流れる。
そしてこの噂ラッシュがローズの身にもやって来た。針で怪我したことで、ほぼ外に出られない状態のため、いろいろな噂が流れている。体に釘が刺さって、大けがで意識不明に墜ちたとか、手と足が真二つに切られたとか、もう何かなんだかと信じられないほどの噂で、屋敷前に心配になった人たちが集まっている状態だ。何しろ領主の娘だから、人々は真実を知りたいのも当然だ。
「困りましたわ」
食事を運んで来たモイは困った顔をしている。食堂にすら足を運んではいけないという過剰な扱いぶりの方が、ローズにとってもっと困ったことだ。さすがに二日間も部屋に閉じこめられて、かなりきつい。本も読めないし、字の練習もできないし、薬の影響で激しい運動はダメだとか、いろいろな面倒なことになった。食堂までいくことは、激しい運動にはあてはまらないのに、と彼女は思ったけれど、それもダメだった。
料理長の気遣いのおやつもデザートもどれも体に優しい物になっている。けれど、外に出られないことが別のストレスになってしまうのだ。一年間も平気に寝ていた彼女が、これぽちの傷で眠れないほどとなってしまった。
「何を困っているの?」
ローズが運ばれた食事を食べ始めた。
「先ほど、ある衛兵に教えてもらったのですが、柳様が寮から出ようとしたところで見つかって捕まってしまいました。念のため落ち着くまで寮の独房に入れられているそうです」
「え?なんで?」
そもそも寮には、そのような施設があるのか、とローズは首を傾げた。
「ローズ様が何者かに刺されて、瀕死状態になってしまった、という訳が分からない噂を聞いてしまったようです」
「えっ?!」
それはおかしい。そもそも誰が自分を殺しに来るのか、分からない。ローズが呆れた顔で苦笑いした。
「それは一大事だ。瀕死状態な私は、こんなところでゆっくりとお粥を食べるところではない」
「そうですね」
モイもうなずいた。
「このままだと柳様はまた暴れて、独房を破壊してしまいます」
「それはもっと困る。会いに行ってはいけないの?」
「医療師からまだ許可が出ていないが、もう出られるかどうか、とりあえず聞いてみます」
モイは外に出て、近くにいる侍女に医療師を呼ぶように、とお願いした。そして再びローズの食事の世話をする。この二日間、彼女がずっとかかりきりで、とても献身的だった。そのおかげで、ローズの頭がおかしくならずに済んだ。何しろ、この部屋にはテレビも音楽もない状態で、ずっと閉じこめられてしまったら、本当におかしくなりそうだ。まるで伝染病の隔離のような扱いに、かなりイライラしている。そのモイが、ローズの話し相手になったおかげで、とてもありがたかった、と彼女は思った。
食事が終わって、モイが食器を片づけた後、部屋に医療師が来た。傷の具合を見て、もう大丈夫だと言った。ただし、しばらく無理をしてはいけないという一言を残して、部屋を出た。これで部屋を出ることができる。
久しぶりのお風呂もとても気持ちが良かった。今度は、本当に怪我にならないように、気をつけないといけない。もうこのような扱いはごめんだ、と彼女が思った。
きれいに着替えた後、まず隣の百合の部屋に行って、元気になったという挨拶をしてから、母上の部屋に行って、挨拶しなければならない。次は父の部屋に状況を説明して柳兄さんの訪問許可を取る。
「そなたと柳は、そんなに仲が良いのか?」
ダルゴダスが目の前にいる小さなローズを見ながら聞く。
「兄弟だから、心配するのは当たり前です。きっと柳兄様も、私について訳の分からない噂を聞いて、心配になったのだと思う。だから私の元気な顔見せれば、安心すると思う」
ローズがはっきりと言った。
「なるほど」
「それに、訳の分からない噂を流す者たちも元気な姿の私を見て、黙るでしょう」
「分かった。許可を出そう。後、柳に言って欲しい。そんなくだらない噂をいちいち信じるな、と」
「はい」
ダルゴダスは一枚の紙に何かを書いて、ローズに渡す。
「気をつけて、行っておいで。気分が悪くなったらモイに運んでもらいなさい」
「はい。ありがとうございます」
ローズがうなずいて、領主の執務室を後にした。そして彼女がモイと一緒に柳が住んでいる寮へ向かった。
柳がいるレベル3の寮に着いていると、ローズはダルゴダスからもらった手紙を渡し、独房まで案内してもらった。独房の中に入ると、ローズが驚いた。柳の手と足が分厚い金属の鎖にかけられて、とても惨めだった。そんな柳の姿を見て、ローズが思わず声を出して、びっくりした。とても痛々しかった、とローズは思った。柳は相当暴れていたのようだ。彼の体の至るところで、傷があった。
「ローズ!元気だったのか?心配したよ!」
「はい、元気になったよ。刺繍中に針が刺さって、怪我だけで大げさになって、こんなに噂されてしまった。心配かけて、本当にごめんなさい」
ローズが謝りながら、柳の手を触れた。痛そうだ、と彼女は思った。
「ローズが瀕死状態だと聞いて、どうしても確かめたかった。誰に聞いても知らない、そういう返事しかもらわなかったから、自分で確かめてみようと思って、見つかってしまって・・」
柳が言うと、ローズがうなずいた。
「みんなで取り押さえたんだ」
寮長が柳の鎖を外して、自由にさせた。
「さ、部屋に戻れ!」
「ありがとうございます。すみませんでした!」
柳は御礼をして、独房から出て、部屋の方に向かう。
「なんで皆にぼこぼこにされたの?」
ローズが恐る恐ると聞いた。
「連帯責任というものだ。寮内で誰かが罰を受けたら、全員で見張る必要がある。何かあったら、全員の責任となり、罰を受けることになるんだ。俺が悪いことをしたと理解しているけどさ、心配で、・・つい・・」
柳が階段を上りながら言った。途中でローズがヘトヘトになってしまったため、柳がローズを抱きかかえた。
「そのことなんだけど、父上から伝言があった。そんなくだらない噂をいちいち信じるなって」
「肝に銘じますと伝えて下さい」
「はい」
ローズたちが柳の部屋に入ろうとした時、隣の部屋の者が現れた。柳は部屋を開けるときに、一度ローズを降ろした。
「よ!柳、もう出られたか。おまえの顔を殴って、すまんな」
彼がそう言いながら柳を見ている。
「こちらこそ。おまえの腹を蹴って、ごめんな」
「はっ!おまえの蹴りなんて、痛くも、かゆくもなかった。ははは」
その人が笑って、うなずいた。
「お?そこにいるちっこいお嬢さんは、おまえの妹か?」
彼が近づいて、柳の足の後ろで隠れたローズを見た。
「ごきげんよう。私はローズだと言います。柳兄さんの妹です。こちらは侍女のモイです。よろしくお願いします」
ローズが丁寧に挨拶した。けれど、彼女はその「ごきげんよう」だという言葉に、耳がかゆく感じた。自分で言うのに違和感たっぷりだ。けれど、フレイは初めて会う人にそう挨拶するようにと言っているので、仕方なくそう言った。
「へぇ、とてもお利口なお嬢ちゃんだね。俺、柳の隣の部屋に住んでいるロッコだ。よろしくな!」
ロッコだと言うんだ、とローズは彼を見て、うなずいた。見た目だと、彼が蛇人族のようだ。背中が青い鱗に覆われて、がっちりとした体格だった。彼の肌は小麦色の肌だ。目の色が茶色で、髪の毛もの茶色だった。
「じゃぁ、な。これからレベル4と狩りの仕事があるんだ。行って来る!もう脱走しないでくれよ、柳!」
「あいよ。狩り、頑張れよ!」
ロッコは手を振りながら、手に持っている服を着て、階段の方に行った。
部屋に入ったローズたちはちょっと驚いた。部屋がかなり散らかっている。モイはせっせと部屋を片づけ始めた。
「ごめんね、いろいろあったからな」
柳が苦笑いながら謝った。
「うん。平気。それよりも、傷が痛むの?」
「痛かったさ、でも必死だったから、その時は何も感じなかった。後からじんわりと痛くなってきたけど」
「大丈夫?」
「今はもう大丈夫だ。俺達は武人だから、殴ったり、殴られたりすることに慣れているよ。これも訓練の一つだからな。決していじめや私情で相手を痛めつけるのではない。仕事だからな」
柳がそう説明しながら、コップを探して、白湯を飲んだ。
「仕事って、お給料はもらえるの?」
「まぁ、ちょっとね。でも、今月はほとんどと仕事をしていないから、かなり財布がさびしい。外出禁止が解かれたら、また仕事しないと、ローズに美味しいご馳走を買ってあげられない」
柳がそう言いながらローズの顔を触れた。
「ご馳走なら、料理長から毎日頂いている」
「それはうらやましいな」
柳が笑った。
「たまに帰ったら?」
「そうしたいけど、立場的にダメなんだね。用が無いのに、料理が恋しいからと言って、帰って来ることの理由にならないんだ」
「実家なのに?」
「そう、実家なのにね。俺は家から出た時に、そういう覚悟だった。まぁ、ローズのお見舞いということで定期的に帰って来れたけど、もう目覚めてしまったローズはお見舞いが必要なくなってしまった」
柳はローズの頬を手でつまんだ。
「今度は何を理由にしようかな?」
「ひどい、私が料理長の料理を食べるための理由だったのね」
「ははは、ごめん。でも勘違いされては困る。本当に心配だったんだ。俺がローズの顔に落書きしたせいで、転生の義が失敗じゃないか、と思った。だからそれを確かめに、毎月、顔を見に行ったんだ」
柳が微笑みながら言った。
「ありがとう」
ローズがうなずいた。
「目覚めて良かった。しかも、言葉も喋られるし、動きも良いし、正直に言うと、ほっとした」
柳がそう言いながら、ローズの目を見つめている。
「その時、トゲが出たようで、ごめんなさい」
「ああ、ちょっとだけちくちくしたな。でもそれは自然な反応だから、大丈夫だ」
「トゲって普通なの?柳兄さんは、体から葉っぱとか出るの?」
「蔓以外は出ないよ。俺には鬼神の力の方が大きいんだ。欅は葉っぱが出るよ。あいつは仕事がほっとすると、顔や体に葉っぱが出るんだ」
柳は笑いながら言った。彼の白い歯がきれいに見えた。
「え?そうなの?」
「母上も出るよ、でもこれは秘密だ。良いね?変な噂になると困るから」
「はい」
モイはお茶を煎れて運んだ。
「どうぞ」
「ありがとう」
ローズがお茶を手にして、ゆっくりとすすると、柳が笑った。彼が立ち上がって、本が並べられている棚に行って、一冊の本を取った。
「あ、そうだ。この本を貸してあげる。魔力制御の話なんだけど、ちょっと難しいかもしれない。でも、これはローズに必要な知識だと思う」
柳は一冊の本を渡した。けれど、字が難しくて、読めない。
「文字が読めたら、少しずつ読んでね。俺はもうその本を完璧に覚えたし、いつまで返すという期限はないから、じっくりと時間をかけて、理解していけば良いよ」
柳がそう言いながら、うなずいた。ローズが本を逆さまに開けると、彼が笑った。
「ありがとう、お兄さん」
「どういたしまして。やはりローズはかわいいな」
柳がローズの隣に座って、その本を開いた。
「百合お姉様もきれいですよ」
「百合と会ったのか?」
「はい、とても優しくて、きれい。今度一緒にお絵を描くことを約束したの」
「楽しみだね、ローズ。百合はとても繊細なんでね、俺を見る度にいつも泣き出した。俺は嫌われたのかな。俺に仲良くしてくれたのは、欅とローズだけだ」
柳がため息ついて、ローズを見つめている。
「菫お姉様は?」
「会ったのか?」
「まだ、一度もないんだ」
ローズが首を振った。
「菫はまだ赤ちゃんだからな。かわいいけど、話の相手にならない」
「柳兄さんは会話が好きだからね」
「どうだろうな。俺に友達と呼べる者があまりいない。みんなの前で鬼神になってしまってな、あれは恐ろしかったかのか、今まで仲良くしてくれた仲間が、なぜか距離を取ってしまって、同じレベルの子は、誰も俺とペアを組みたがらない。隣のロッコは、たまに俺に声をかけるぐらいで、それ以上の付き合いはあまりないし、飯ぐらいかな」
柳がそう言って、微笑んだ。しかし、彼の目は笑っていなかった。
「ロッコさんは強いの?」
「ああ、あいつは強いよ。猛毒のロッコと呼ばれるぐらいだ」
「すごいな」
「だけど、俺とは一度も組んでくれない。まぁ、レベル3同士は、せいぜい壁周辺にしかいけないのだから、それが理由でもあるけどな。だから俺ももっと上のレベルの者と組んだり、狩りや見はりの手伝いをしてる。上のレベルの者だと、俺が鬼神だろうが、ただのひよっこだろうが、あまり気にしない。彼らの方が強いからな」
なるほど。強い者にも、それなりに悩みもあるんだ、と彼女がうなずいた。
頑張れ、兄さん!、とローズはそう言って、応援した。
屋敷に帰ってくると、ローズがその日に休むことにした。そしてあれから毎日、午後に基礎訓練をやっているおかげで、ローズが少しだけ早くなって来た、と彼女が感じた。相変わらずビリだけれど、少なくても他の子とさほど遠くない距離を走ることができた。少しずつだが、その距離を縮めることができるようになった、と彼女が確信した。最初の頃、筋肉痛で毎晩モイに薬を塗ってもらった時期もあった。けれど、今は平気だ。
文字も、読み書きが少しできるようになった。難しい言葉は、まだ無理だけれど、少しずつ柳からもらった魔力関係の本を読めるようになった。
今日は気分転換に自分の部屋の中ではなく、屋敷内にある家族のリビングルームで本を読むことにした。その部屋には大きなソファがあって、灯りもちょうど良いぐらい明るい。ダルゴダスはいつもあそこで休んで、本や会話を楽しむこともたまに見かけている。
ローズがソファに登ろうとすると、その部屋にいつもいる黒猫のリンカは鼻でチューしてから、ひょいとローズの後ろを頭で押して、登れるようにした。
ありがとう、リンカ!、とローズは嬉しそうに言った。
リンカが何もなかったのように、ソファを登ってローズの隣に座った。そして、リンカは本を一緒に見ているような仕草をした。
とてもかわいい、とローズが微笑んだ。リンカはこの屋敷のペットで、よく料理長の料理を盗み食いして、とても賢い黒猫だ。真っ黒な色の毛で、フサフサで絹のような毛並みで、青く光る目に、尖った耳をしている。とても美しい猫である。しかし、この猫の高さは1メートルぐらい、大型猫だ。体がスリムで、とても美しいラインをしている。昼間はいつもいないけど、日が暗くなると、いつもこのリビングにいる。
「ねぇ、リンカも魔法勉強する?」
ローズが話しをかけると、リンカがただ目を閉じたり開けたりしただけだった。まぁ、猫だもんな、とローズが笑いながら、また本に視線を移した。
「リンカは賢いから、もしかすると本も読めるかもしれない。私より上手にできたりして、ははは」
リンカの頭をなでると、耳とほっぺを舐めた。本当に大きな黒猫のリンカ、大好きだ、とローズはそう言いながら笑った。
「さて、頑張って読まないと、いつにたっても上手にならない」
そう言ったローズが一文字ずつ読み始めた。一つ一つと、どういう意味をしているか考えながら、文字や図面を細かく見ている。
『魔法の原理』
魔力という自然の力を利用する技である。個体によって、魔力の量が違う。けれど、訓練や経験によって、その差も大きくなるという。生まれながら魔力の素質が大きい者がいれば、まったく無い者もいる。
多くのモルグ人には自然な魔力がほとんどないに等しい、と書かれている。やはり種族が違えば、その差も大きいようだ。だからモルグ人は、魔法ではなく魔術を使うことになったのだ。魔力がある種族を捕まえて、それをエネルギーの源にするという禁断な術だ。
怖い、とローズが思った。モルグ王国はいつここを襲って来るのか分からないから、柳たちは日頃の訓練や鍛錬をやっている訳だ。
「ローズか。何を読んでるの?」
ダルゴダスがそのリビングルームに来て、近くに座った。
「あ、父上。こんばんは。これは柳兄様から魔法制御という本です。この前、貸してもらって、まだよく分からないんだ」
ローズが本を見せながら、言った。
「柳が?ほう。どれ、分からないところがあるか?」
「まだ魔法自体と言う物がピンと来ないんです」
ローズが正直に答えた。実際に、彼女が魔法とはどういう物か、さっぱりと分からない。ゲームの中でしか見たことがないけれど、実際にどう使うのか、分からない。
「蔓ならそなたも出した。あれは魔力で使用する物だ。柳の武器である鞭も、魔力による強さや効果も制御できる」
ダルゴダスが簡単に説明すると、ローズが彼を真面目に聞いている。
「私もそのような武器が使えるのですか?」
「それはそなた次第だ。使おうと思えば、使えると思うぞ」
「父上は使えるの?」
「わしは純粋な鬼神だから、できないな。残念ながら柳みたいな技は無理だ。だが、簡単な魔法ならできるぞ」
ダルゴダスがうなずきながら言った。
「そうなんだ」
「例えばな、この部屋の灯りは、調整できる。気づいたと思うけど、この屋敷中の灯りはすべて魔法による灯りだ。暖かさや過ごしやすい気温、温かい水や冷たい水、ほぼ魔法で制御されている。こういう使い方は当たり前に感じるが、本当は当たり前ではないんだ」
ダルゴダスはそう言いながら近くにある灯りに魔法で大きくしたり、小さくしたりした。
「すごい」
ローズが言うと、ダルゴダスが笑った。
「一般の家だと油を燃やして灯りを得る。柳の部屋は、なんども行ったようで、このような魔法の灯りを見た?」
「いいえ、一度も見たことがない。いつも明るい時に行って来たのだから、灯りが必要なかった」
ローズが首を振って、正直に言った。
「そうか。柳は魔法の調整や制御に苦しんでいるんだ。力がありすぎて、それを灯り程度、ほんの少しの魔力しか必要ないのに、なんども失敗した。どのぐらい魔法用ランプを壊してしまったか、数え切れないほどだ」
「そうなんだ」
「意外だった?」
「はい」
ローズがうなずいた。
「あの子は、小さい頃から自分の力に悩まされてきたんだ。その為か、同じぐらいの子どもたちに恐れられて、人間関係があまり上手にできてない。でも、本当はとても優しい子だが、その力が暴走することもあったから、母であるフレイは柳の腕に黒い腕輪つけて、魔力の制限をかけた。だから鬼神になると、すぐに力尽きてしまう」
「ふむ、そうだったんだ」
ローズがそう思いながら、うなずいた。
「そういえば、そなたが見たあの日の柳は、恐ろしかった?」
「いいえ。最初はびっくりしたけど、ものすごく大きな力を解放して、いきなり変身したみたいだ。けれど、彼がとても強かったよ」
ローズが言うと、ダルゴダスが彼女を見つめている。
「変身か」
「違うの?」
「あれは変身ではないよ、ローズ」
「よく分からない。どういう意味ですか?」
ローズが首を傾げた。
「あれは、柳の本当の姿だ」
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