第2話 アルハトロス王国 青竹の里 散策

「おはようございます。よく眠れましたか?」


この屋敷の侍女に声をかけられた。見た目はまだ若い、多分20歳前後だ、とローズは思った。髪の色が黒く、ポニーテールできれいに束ねている。きれいな紅色のリボンが目に付いた。


「うん。おはようございます。きれいな赤いリボンですね」


ローズがそう言いながら起き上がった。


「リボン?ああ、これは髪紐かみひもと言うのですね。これは奥様から頂いたものですよ。とても美しくて、私の自慢の宝ですよ、薔薇様」


彼女がにっこりと笑いながら言った。


「ローズと呼んで下さい。父上からその名を使って良いと言われたの」

「あ、そうなんですか?分かりました、ローズ様。私はモイ、これからローズ様のお世話を担当させて頂くことになります。どうぞよろしくお願いします」


モイはにっこりと微笑みながら言った。


「こちらこそ、よろしくお願いします、モイさん」

「モイだけで良いですよ、ローズ様」 

「では、私もローズだけで呼んで欲しいなぁ」

「それはなりません。ローズ様は領主様の娘であって、この里にとって姫様ですよ。私ごときが「様」をつけずに、呼び捨てをしてしまったら、絶対に侍女長に怒られます」


モイは首を振って、拒否した。


「うむ。仕方ないのか。でも慣れてないからなんかむずむずと、かゆい気がする」

「時期に慣れますよ。だって、ローズ様はお目覚めしたばかりなんですもの、一年間もずっと眠ったままで、やっと昨日起きたのですから」


一年間!


ローズは驚きを隠せなかった。そんなに長い年月でずっと眠っていたのか、と考えると信じられない。でも、そういえば、昨日「父上」に言われたことが気になった。自分の体は「母上」が作った物だった、と。それを聞かされても、良く分からない、とローズは思った。けれど、そのことについて、なんだか違和感がある。なぜなら、ローズの記憶の中で、自分は普通の大きさの女子高生だったからだ。


しかし、ローズはその記憶がとぎれとぎれで、確信がない。


ローズは自分の手を見て、やはり小さい、と思った。まるで幼稚園児の手と同じぐらいのサイズだ。いや、もっと小さいかもしれない。この寝台の大きさに比べると、自分が本当に小さい、とローズは分かった。結局、自分の身長ってどのぐらいあるのか、と気になってしまった。


見たところ、およそ40センチか50センチぐらいだ。


とても小さい。


昨日、あまりにも混乱してしまったから、自分の体のことに気が回らなかった。ダルゴダスと対面してから、再び眠りに落ちて、気づいたら今朝になったことだ、と彼女がまたため息ついた。


そういえば、昨日、柳が自分の体にトゲがちくちくすると言ってたような・・、とローズが思い出した。


「モイ、私の体ってちくちくするの?トゲがあるの?」


ローズが恐る恐るとモイに聞いた。


「え?えーと、ローズ様は薔薇の木のお嬢様ですから、トゲがあってもおかしくないのです。しかし、普段は出ませんよ。一年間も眠ったままのローズ様のお世話した私ですから、分かります」


モイが微笑みながら言った。


「それに、昨日、かなり興奮しておられたようで、トゲが出てしまったかと思われます。ほら、ご覧下さい。今は、トゲが出ていませんよ?」


モイが微笑みながらあっさりと答えた。薔薇の木のお嬢様だなんて・・、この世界では、これが普通なのか、よく分からない、とローズが瞬いた。


「さて、起きます。モイ、シャワー室を案内して、体を洗いたい。あと着替えも欲しい」


ローズが寝台から降りようとして、動き始めた。


「シャワーとは・・、よく分かりませんが、湯船なら隣の部屋でご用意致しました。私はローズ様のお体を洗いますので、今から寝間着を脱ぎましょうね。」


そう言いながらモイはローズの寝間着のボタンを触ろうとした。すると、ローズが慌ててベッドから起きあがって、距離を取った。


「なっ・・何をする?!」


ローズの叫びで、モイが困った顔でローズを見ている。


「ですから、お風呂の準備なんですが・・」

「いやいやいや、自分でできるよ。このぐらいは・・」


ローズは慌てて走って、隣の部屋に走って逃げ込んだ。寝室の隣にある風呂場はとても感じが良い部屋だ。壁に金色の蛇口のようなものが二つあって、お湯か水かどれも選べるようになる。フタを開けば、お湯が流れるシンプルな仕組だ。湯船はきれいな白と黄色を混ざった石でできている。白っぽい壁に赤い色の飾りがあって、とても美しい。また灯りのようなものが壁に付いていて、ほどよい明るさで部屋を照らす。火だと思ったけれど、違った。何かの光る玉みたいな物がガラスの中で浮いていて、それが光っている。どういう原理で光るかが分からない。本当に不思議だとローズは思った。


「ローズ様、体を洗うための洗浄油せんじょうあぶらは、ここにご用意致しました。どうぞお使いになって下さいね」


初めてそのような風呂を見たローズの後ろで、モイがいくつかの小さな瓶を近くに置いた。液体石鹸かシャンプーのような物なのか、とローズがその中から一つ取って、香りを嗅いだ。とても良い花の香りだった。


「うん、ありがとう。じゃ、これからお風呂なので、モイは隣の部屋で待ってて・・」

「本当に大丈夫ですか?」

「大丈夫!なんとかなる、と思う・・」

「そうですか?私は隣の部屋におりますので、なにか必要なことがあれば、お声をかけて下さいね」


そう言いながら、モイは心配そうな顔で部屋を出た。


さて、お風呂だ、とローズは嬉しそうにまたお湯に触れた。そして服を脱いで、体を濡らし始めた。ちょうど良い暖かさのお湯で体を濡らし、髪の毛を洗おう、とお湯で濡らしてから洗浄油と呼ばれる液体石鹸を頭にかけてみようと・・。


あれ?


しまった!手が短くて・・、頭に届かない、とローズは泣きながら思った。


「モ、モイ?」

「はい?」

「お願いしても良い?」

「はい!喜んで!」


モイの声がとても嬉しそうに聞こえて来た。結局その日は、モイに体を洗ってもらって、仕度した。





朝風呂が終わって、ローズはさっぱりした気分になった。それだけではなく、とてもかわいらしい服まで着せられた。このフリルフリルな服装でちょっと恥ずかしい、とローズは思った。けれど、近くにいた侍女達にかわいいと言われたため、照れてしまった。


部屋を出て、食堂に向かう途中に庭がある。朝日が中庭を照らし、とても美しい庭だと感じる。道案内をしているモイは、時に心配そうに彼女を見たりしている。ローズにとって、ここは彼女の家だ、と言われてもピンと来ない。というよりも、この家のスケールが大きい。何もかも、大きい。


扉も、部屋の大きさも、廊下、壁の高さも、ローズの記憶に残った建物の特徴に比べると2-3倍ぐらい大きい。まるで、どこかの国の王様が住む宮殿のようだ、とローズは周囲を見ながら思った。けれど、彼女ははっきりと覚えてない。もっとも今の彼女の記憶が怪しい、と彼女自身も思っている。だから確信がない。断片的に消えていて、覚えたり、思い出せないところも多く、正直に言うと、怖いぐらい自分の記憶を信用できない。


ならば、これからは新しい自分の、新しい記憶にすれば良い、と彼女は思った。


モイは小さなローズを気にしながら、一緒に歩いた。しかし、良く考えると、この屋敷は広い。特にこの小さなローズにとって、広すぎるのだ。部屋から食堂に行くのに、10分も歩いたような気がした。しかし、本当に10分たったかどうか、またこれも確信がない。まだ時間の流れが分からない。なぜなら、ここは地球ではないからだ。


「はい、着きましたよ、ローズ様」


ローズたちは大きな扉の前に止まった。扉の前に二人の侍女が立っていて、何も言わずに扉を開けた。すると、モイはローズの手を引いて、中へ入った。


とても広い空間だ、学校の体育館のような感じがした。白っぽい壁に、鮮やかな色の飾りが付いていて、大きな赤い柱が何本かあった。全体的に、空間そのものが素晴らしく天井まで続く高い柱があって、その柱に灯りが付いている。火でもない電気でもない不思議な灯りだ。床にとてもふかふかな厚い赤い絨毯が敷いてある。またその絨毯の上に低いテーブルがいくつも置かれている。部屋の奥に銀色っぽい皿がたくさん並べられている。


モイは右側にある扉に向かって、扉を開けた。その部屋には別のダイニングルームのような部屋がある。その部屋には、椅子やテーブルがあって、とても上品な空間だ。しかし、やはり大きな部屋だ。もしローズがその椅子に座っても、テーブルに置かれているお皿に届かないかもしれない。この世界で、ミニサイズなローズには不便かもしれない。しかし、このようにして、生まれ変わってしまったら、仕方ないかも知れない、とローズは諦めてしまった。


「ローズ様はこの高い椅子にお座りになって下さい」


モイは他の椅子よりも台座が高い椅子を案内した。


まじか!、と一瞬目を疑うローズであった。それは「お子様チェア」と記憶の中にあった。レストランで小さな子どものために一般的に使われている椅子である。


なんかいやだ、と心のどこかのプライドが許さなかった。


「ここじゃないとだめなの?」

「何をですか?」

「お食事」


モイは困った顔してローズをみた。


「ここは領主様のご家族やお客様が使う特別な部屋です」

「え、前の部屋が良い」

「先ほどの絨毯が敷いてある部屋ですか?あれはダルゴダス様や他の者が普段お使いになる食事処です。お料理はその机に運ばれ、皆さんは絨毯の上に座って一緒に食事をする形になりますが・・」

「じゃ、私もそこで食事したい」


だめもとで、とりあえずねだってみる、と。なんにせよ、お子様チェアはやだ、とローズが思っているからだ。


「うむ。どうしましょうか・・」


困ったモイはしばらく考え込んだ。


「モイ、あとで母上に相談すれば良いんだ」


声が聞こえている。現れたのは柳だった。


「やぁ、ローズ、おはよう。朝餉か?」


柳は声をかけた。彼が食堂のもう一つの扉から入って来た。食堂の扉は3つあって、屋敷の中から一つと、厨房から一つと、そして前庭からの扉がある。柳はその前庭からの扉から入って来たのだ。


「おはようございます、柳兄様」

「おはよう。飯か?」

「はい、これからご飯なんですけど・・」


ローズが首を傾げながら言った。


「ローズは体が小さいからな。絨毯の上に座って食事の方が楽なんですよね」

「はい、そう思って、お願いしてみたけど・・」

「でも、そこで食べることって、正直に言うと、上品ではない。が、俺は父上と同様、そちらの方が好きなんだけどね、ははは」


柳は笑いながら説明した。


「ローズ様はダルゴダス家のお嬢様ですから、ちゃんと作法を身につけておかないと、私は侍女長に怒られてしまいます」 


モイは反論した。


「まぁ、今日は初めてここで食事するものだから、良いんじゃないか、モイ。あとで俺が母上に説明をするから安心して下さい」


柳がうなずいて、ローズの手を取った。


「ローズ、俺と一緒に朝餉を食べるか?」

「はい!」


柳は大きな笑みをして、彼女の手を引いた。彼は厨房に顔を出して、料理長に話しかけた。そして壁際に並べられた銀色の皿から一枚の皿を取って、ローズに見せた。


「ここだとね、各皿に名前が刻まれているんだ。これは俺の皿だ。ローズの皿はあるかな?」

「私の皿?あるんですか?」


どんな文字で書かれているのでしょう。この世界の文字が分からない。これは勉強しないといけない、とローズは思った。


「あ、あった!これだ。ローズの皿だ。ほらみて、きれいな薔薇の花の模様で飾られているんだね」


柳が笑いながら一枚の皿を取り出した。そこに薔薇の模様がきれいに刻まれているから、間違いはないでしょう。


「わー、きれい。ありがとう、お兄様」

「どういたしまして。さて、そこで座りましょう。あと少しで、料理が運ばれてくるからな」


ローズたちは、近くのテーブルに行って、そのテーブルを囲んで、座った。モイは厨房の手伝いをして、料理を運んできた。とても香りのよいスープや、卵料理や、肉や、野菜、次々と料理が運こばれて来た。どれもとても美味しそうで、思わずお腹からの「ぐ~」、と恥ずかしい音が聞こえて来た。


「ははは、ローズはお腹が空いたんだ。じゃ、食べましょう!頂きます!」

「頂きます!」 


これはこの世界の食べる前のマナーなのか。母が、昔、言っていた言葉のような・・。


あれ?


私のお母さん?日本という国の出身だったような、とローズは思い出した。けれど、日本はどこにあるのか、思い出すことができなった。それどころか、ローズは彼女の顔や名前すら思い出すことができなかった。


「ローズ?どうしたの?ぼーっとして・・」


考え込んでしまったローズに柳は声をかけた。


「あ、ううん。どこから食べようかと、迷っているだけです」


ローズは慌ててお皿をとって、スプーンを手にして、近くにある卵料理をとった。卵料理を一口と口に入れた瞬間、ローズの世界が一瞬で変わってしまった。なんという味だ、と彼女が衝撃を受けた。


これは美味しい! 


この世界で初めて口にした食べ物が、何を言えば良いのかが分からない。とてもクリーミーな味で、とてもやわらかく、絹のようななめらかさだ。ほどよい塩味で、美味しい!これは、ものすごく美味しいよ!、と彼女は涙を流すほど感動した。


「どうだ、ローズ?料理長の料理は天下一品だ、と父上がよく褒め称えている。俺もそう思っている。美味しいだろう?」


柳はローズを見て、嬉しそうに笑った。


「はい。とても美味しいです。お代わりしても良い?」

「もちろんさ。全部食べても良いぞ。元気になって大きくなるんだ、ローズ」

「うん!」


大きくなるかどうか別として、この料理は美味しい。他の料理も気になるし、絶対に食べる!、とローズは思った。しかし、乙女としてはしたないことだ。けれど、今はそれも気にしない。


食事に夢中になり、気づかないうちに、彼女の周りには何人かの見物人が集まってきた。厨房の人たち、侍女達、衛兵数名、そしてよく分からない立場の者たちもいる。


「すごい、全部食べたよ!」


「美味しいか、お嬢さん?」


「あの小さな体にどこに消えたのでしょう?」


「さすがだ! 良い食べっぷり!」


次々と彼らが勝手に話し合っている。


「こら!お嬢様に失礼なことを言っちゃダメですよ!」 


注意するモイの声が聞こえた。けれど、柳も彼らと同じく笑っただけだった。


「あ、全部食べちゃった。柳兄様の分まで、・・ごめんなさい」


こんなにもの珍しく見られると、なんだか恥ずかしく思う。ローズが頭を下げて、謝った。けれど、それ以上に、自分の食欲に負けて、兄の食事まで全部平らげた。


「気にするな。美味しく食事できることって、良いことだよ。これでローズも早く元気になる。俺達も安心だ。なぁ、みんな?」


柳が言うと、その場にいる皆がうなずいた。


「その通りだ。良かったね、ちっこいお嬢さん」

「ははは、その通りさ!」


笑い声がたくさん聞こえた。なんだか安心した、と彼女が思った。少し安心したのか、彼女も笑った。


「ところで、皆さんはこれからお食事ですか?」


ローズが尋ねると、柳は首を振って、笑った。


「もう朝餉がとっくに終わったのさ。日の出る時と、日が沈むときに、2回みんなで食事するんだ。その他の時間帯は勤務時間の関係や、どうしても決まった時間帯に来れない者は、料理長に一言を言えば、食事を用意してくれる。お皿に名前があるだろう?そこでまだ食事をしてない者は、お皿の名前を見るだけですぐに分かる。各自で自分のお皿を持っているんだ」


柳が分かりやすく説明した。


「へぇ、そうなんだ?じゃ、父上や母上も?」

「いいえ。領主様や奥さまは特別な方々です。侍女も付いているので、食事のことはなんなりと一言あればすべていつでもこちらで用意させて頂きます」 


ローズの疑問に答えて、一人の大きな男性が現れた。彼はローズの「父」であるダルゴダスととても似ているような感じの人だ。


「料理長のセティさんだ、ローズ」


セティは頭を下げて、丁寧な挨拶をしてくれた。ローズは立って、セティの真似をして、頭を下げた。


「ローズです。どうぞよろしくお願いします」


そのような彼女の仕草に料理長が驚いた。そして彼は大きな笑顔を見せた。


「これはまいった。ははは、なんていうお行儀が良いお嬢様ですね。こちらこそ、よろしくね、お嬢さん」

「はい!後、料理長のお料理ってものすごく美味しかった!ありがとうございました!」

「ほほほ、嬉しいこと言ってくれたね。幸栄に思います」


料理長セティが笑って、お皿を持って厨房に戻った。彼の部下たちもお皿を片づけて、再び厨房に戻った。他の見物人も、次々と自分たちの持ち場に戻った。食堂にローズと柳とモイだけになって、静けさがもどった。


「じゃ、ローズ、行こうか?」

「え?どこに?」

「里を案内するさ。父上に許可を取ったから、大丈夫だよ。モイは一緒に行かなくても良いよ。ローズは後で俺が連れて帰るから、安心して下さい。母上に、食事の件は後で俺からお話もするから、このことを侍女長にも伝えていてね!」


柳が言うと、モイはうなずいた。分かりました、と。


柳が立って、ローズに手を伸ばした。ローズが彼の手を取って、前庭に向かって、歩いて行く。


「いっていらっしゃい!」 


モイは頭を下げて、見送った。





食堂の外にある前庭は、とても広い庭だった。けれど、あまり飾りのない空間である。どうやら、これはこの屋敷で働いている者たちの為の空間で、食堂へのアクセスや、衛兵の待機所や、一休みスペースなどに整備されているようだ。衛兵が至るところにいて、やはりそれなりの警備があるようだ。


しばらく歩いていたら、柳は横庭を見せてくれた。そこには、医療棟、職員寮棟、上位管理職寮棟、蔵も完備されている。また横庭に二つの門があって、職員はそこから出入りする、と柳が説明した。


「毎朝、日が出る前に子どもたちがここで集まるんだよ」


柳は横庭にある池の近くに手で示した。


「え?朝ですか?何しに?」

「走るんだ。小さな子どもたちやレベル0の子たちはね、必ず毎朝走るんだよ」

「なぜ?雨の日も?」

「体力作りのためさ。雨の日は免除されるけどね」

「どのぐらい走るの?」

「大体屋外壁を一回り走るんだ」

「げっ!結構な距離ですね」

「明日からローズも走るんだよ」

「えええ!」 


まじか、と彼女が思った。ただですら、この屋敷が広いというのに、と。


「俺たちは戦闘部族だからな、体力作りは重要だよ」


柳がそう言いながら、うなずいた。


「戦闘部族?」

「ああ」


彼がまたうなずいた。


「子どもが歩き出せたその瞬間から、体力作りの修業が始まるんだ。まず、毎日走る。そしてある程度力がついてきたら、レベル0の基礎修業が始まる。合格したら、レベル1になれるんだ」

「そこはよく分かりません」

「まぁ、ようするに教育のレベルさ。この里だと、年令とは関係なく、実力でレベルをあげていくような感じだ」


つまり学校みたいなことなんだ、とローズは思った。ただ次元が違いすぎるのだ。どんなことを勉強したのか、気になる、と。


「柳兄様は今レベルいくつ?」

「俺はレベル3だ。だから、今日は特別な許可を得て、ローズを里の外壁あたりまで案内できるんだ」

「レベルが低いと外へいけないの?」

「ダメだよ。外は危険だから、レベルが低い者はだめだね。レベル0と1は、まず遠くても屋敷周辺だけになる。レベル2はペアで里の外壁の内側まで行ける。レベル3はペア、またはもっと上のレベルの者と組んで、周辺の森まで、狩りや巡回までができる。レベル5以上になると、討伐や傭兵、婚姻、国の正式兵士や幹部などにもなれるさ」

「なるほど。でも、戦闘に不向きな者だっているんじゃないの?その者たちは、どうしたら良いの?」


ローズが首を傾げながら聞いた。


「生産部や医療など、生活を支えるための生産や知識、やることがいっぱいある。生産部は生活用品や、武器、部品、食料まで生産するからかなり重要だ。当然各部にはレベルがあるんだ。ちゃんと教育棟も完備されている」

「そうなんだ・・」


柳の説明を聞いたローズがうなずいた。なるほど、と。


「さて、会いに行こうか」

「会いに行くって、誰ですか?」

「俺の弟、ローズのお兄さんだな。けやきだ」


そう言いながら柳はローズを抱きかかえた。そして、楽しそうに屋敷の外へ足を運んだ。

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