人形姫ローズ
ブリガンティア
小さな魔法戦士
第1話 誕生!そして新世界へ!
「ローズ!電車来たわ!乗り遅れっちゃうよ~!」
「は~い。今行くわ」
あれ? 隣の椅子の下にカバンが・・、とローズが気づいた。誰かの忘れ物かしら?あ、さっきの男性のかな?、と彼女はその男性を呼ぼうとした。
「ねぇ!忘れ物がっ・・」
ドーン!
次の瞬間、大きな爆発音と共にすべて暗くなってしまった。
ーー その日、とある国で爆発テロにより多数の犠牲者が出た、というニュースが流れた。ーー
時がどのぐらい流れているかが分からない。彼女がずっとゆらゆらという感覚になって、やがて落ち着いた場所へ止まった。
「お! 目覚めたわ!」
うーん、頭が重い、と彼女がそう思いながら動き始めた。けれど、目を開くと、そこは知らない天井だ。その近くで、女性の声と若い男性の声が聞こえている。
「おはよう、
一人の若い男性が見えて、優しい声で話をかけている。
けれど、薔薇?誰のことかが、分からない。彼女は瞬きながらその男性を見つめている。
彼は不思議な姿をしている。キラキラと光る緑色の目をして、肌が麦色で、長い髪が後ろに軽く束ねられて、白いシャツを着ている。その男性の頭と肩の周りには不思議な緑色な光がぽつぽつと見える。
「ここは?」
彼女は不安な声で尋ねた。
「君の家だよ、薔薇ちゃん」
その男性はにっこりと微笑みながら答えた。
「薔薇・・ちゃん?」
状況が飲み込めないまま、彼女がまた尋ねた。
「君の名前だよ。君は薔薇、俺の妹だ。俺は
その男性は彼女を見つめながら、そう答えた。
「いや、私は薔薇じゃない、ローズ・・」
あれ、なんて言う名前だったのか?、と彼女が突然気づいた。けれど、彼女はその名前以外を思い出すことができなかった。
状況が分からない。なぜ彼女がここにいて、「薔薇」と呼ばれているのか、彼女は分からない。そもそも彼女が駅にいて、電車を乗る予定だった。そう、友達と一緒に隣町まで買い物に行く予定だった。けれども、その友達がなんて言う人か、・・思い出せなかった。
「母上、薔薇ちゃん混乱してるみたい」
柳と名乗った男性は、後ろにいる女性に声をかけた。すると「母上」と呼ばれる女性がローズに近づいて来た。
彼女はとても美しい女性だ。でも何かが違う・・。人との何かがが違う気がする。ふわふわとした感じがする。しかも柳と同様に、瞳が緑色だ。彼女の肌が白く、頭や肩周辺と言うより、体全体に緑色の光が漂っている。「母上」は体が細く、金のような髪をしている。彼女の髪の毛は長く、美しく、きらきらと光っている。
「大丈夫ですか? 頭は痛いのですか?」
その女性は優しく声をかけた。
「ううん。あなたは・・母上?」
「はい、そなたの母ですよ、薔薇」
「いや、私は薔薇ではない、ローズというんだ。そもそもここはどこですか?病院?私は爆発に巻き込まれたの?友達は?彼女は無事ですか?」
なぜかローズが必死になって、その「母上」とされた人物に問いかけた。突然たくさんの質問をされたその女性は、目を閉じて、息を整えた。その後、彼女が目を開いて、にっこりと微笑んだ。
「その説明はそなたのお父上が説明した方がよろしいかと思います。さぁ、行きましょう!」
すると、その白く細い手がローズの手を取って、寝台から起こした。しかし、ローズは長い眠りから起きたばかりだから、体がうまく動けなかった。
「歩く力がまだなさそうですね。柳、妹をお父上の所まで運びなさい」
「はい!」
柳が嬉しそうに彼女を見た。そして彼が両手で彼女を持ち上げた。まるで、お姫様だっこのような格好だ。
「あわわ」
「こら、薔薇ちゃん。じたばたしないで、おとなしくしてよ。君のトゲはちくちくするから」
柳が文句を言いながら、彼女を抱きかかえている。
それにしても、トゲ?、と彼女が首を傾げている。
なんのことだったか、よく分からない、とローズが思った。しかし、それで彼女がじたばたするのをやめて、おとなしく柳に抱きかかえられた。
柳は部屋から、外へ出て行った。部屋の前にある縁側のような廊下があって、その周囲には各部屋が見えている。中庭のような美しい庭が見えた。しばらく歩くと、芝生が広がっている庭が見えて、花々に囲まれている。その庭で、小さな池があって、複数の人形に囲まれている。人形の頭にそれぞれの花々があって、とてもかわいいらしい感じがした。池の近くには、一本の高い木があって、その木の葉っぱが赤い。季節が秋なのか、とローズが思うと、違う気がした。
確かに電車を乗るために、出かけたのは冬だった、と彼女が思い出した。それにしても、目の前にある芝生が青々としていて、花も木々も、まるで真夏の風景のように見える。この状況は理解できない、と彼女がまた首を傾げてしまった。
母上と呼ばれる人を先頭にして、柳にだっこされている彼女が屋敷の中に入った。長い廊下をしばらく通ってから、一つの大きな扉の前に止まった。扉の前に、二人の男性が立っていて、衛兵なのか、長い棒のような物を手にしている。どうやら彼らはその扉を守っているようだ。
「あなた、入ってもよろしいですか?」
母上が扉の前に声をかけると、中から返事が聞こえた。
「どうぞ」
重い男性の声が中から聞こえた。すると、二人の男性は扉を開けて、中へ入るようにと丁寧に頭を下げて、手を伸ばして、合図した。
中に入ると、大きな机の向こう側に座っている一人の男性が見えた。母上が頭を下げて一礼をしたら、男性が椅子から立ち上がった。
彼はとても大きな男性で、顔が凛々しく、口元やアゴがひげで隠されている。肌の色が暗い麦色で、筋肉質でがっちりとした体格だ。とても強そうな男性だ、とローズは感じた。
「目覚めたのか?!」
彼はとてもうれしそうに声をかけた。ひげに隠れた白い歯が見えて、そして一瞬息が止まるような・・、と彼女が思った。なぜなら、その男のの目の瞳の色が赤いからだ。
「薔薇、お父上ですよ。挨拶しなさい」
母上が優しく声をかけてくれたが、彼女がどうしたらいいのかが分からなかった。なぜなら、その人は、彼女が知っている身内ではなかったからだ。
そもそもこの場所はどこなのか分からない。なんだか怖い。夢なら早く目覚めて欲しい、と彼女が恐怖と不安で、思わず泣いてしまった。
「薔薇ちゃんどうしたの?泣いちゃった・・」
柳は困った顔で彼女を見つめた。すると、その大きな男性が笑いながら柳に近づいた。
「よしよし。ほら、おいで」
父上と呼ばれた男性がローズを優しくなでて、柳から取り上げて、自分の腕で彼女を抱っこすることになった。
「よしよし、もう泣かない。大丈夫だよ。びっくりしたかな?ははは」
小さな子どもに言い聞かせるような台詞を聞いたからか、なんだか恥ずかしく思った、とローズは泣くのをやめた。その大きな男性はその部屋にある大きなソファに座った。母上は柳に部屋を出るように命じた。柳は頭を下げて、礼をした後、退出した。彼が出た後、再び扉が閉じられた。
母上がその男性の隣に座って、にっこりと笑いながらローズを見つめている。この二人は夫婦のようだ、とローズが思った。では、この強そうな男性は、ローズにとって父上、ということなのか?
「あのぉ~」
ローズが恐る恐ると声をかけた。
「なんだい?」
父上と呼ばれる人が答えた。彼が彼女を腕の上から降ろして、前にある椅子に座らせた。
「私は今どこにいるんですか?ここは病院ですか?」
「ここは君の家だよ」
「あのぉ、意味が分かりませんけど・・。私はついさっきまで駅にいて、友達と出かける予定でした。しかし、爆発が聞こえて、気づいたら、今ここにいるんですが・・」
自分が覚えていることだけをしっかりと言うように、と彼女が思った。
「そうだったのか。それがきっと君がここに来る前の記憶だね」
男性はため息をついてから、座り心地を直して、再びその重い声で彼女に話をかけた。
「記憶って・・、私が、死んだの?」
「そうなるだろう」
彼が即答した。
「薔薇、それは今の君の名前だ。わしはダルゴダス、この屋敷の主で、君の父である。隣にいるのが君の体を作った私の妻、フレイ、君の母だ。分かる?」
「よく・・分かりません」
再び不安がいっぱいだ、と彼女が思った。
「一年前、君の魂の光が、この庭に漂っていた。それを見つけたわしが捕まえた。どこから来たか分からない」
彼が少し記憶をたどり着きながら言った。
「が、君がここに来たのがきっと天の導きだとわしが思う」
「うむ」
「君の魂はとても小さく、弱々しく、壊れそうでな。早く器に入れないと、そのまま消えてしまうと思った。だが手元にある器は、フレイが作った人形だけだった。そこでそなたの魂を入れ、龍神様から頂いた神水で清め、魂と器が混じり、生き物として生まれ変わった」
彼がそう言いながら、彼女の頭をなでた。
「よって、君は今、わしらの第三娘、薔薇と名付けた」
信じがたい話だった、と彼女が首を傾げている。
「私が・・死んだの・・?」
「魂になった状態だと考えたら、君は一度は死んだのだろう」
「・・・」
「でも、ここに再び生を受けたと思えば、天の導きだとわしが思う」
そうか、と彼女が思った。あの駅での爆発に巻き込まれて、死んでしまったようだ。魂になって、なぜかここに流れついた。
でも、ここって、いったい、どこ?
「あのぉ、ここはどこの国ですか?ここは地球ですか?」
「地球?それは君がいた国かな?それなら、答えは否だ」
地球じゃない! と彼女がびっくりした。
「この世界はガイアという世界だ。ここは龍神の国、アルハトロスだ。そして、この里は青竹の里と言って、アルハトロスの北にある。わしはここの領主であってな」
そうなんだ、とローズは瞬いた。ここは地球ですらない。彼女はまったく別の世界で生まれ変わったことになった。
「理解しました。ダルゴダス様・・」
ローズは緊張した声で言った。
「父上だと呼びなさい。君はわしの娘だ。かわいい、小さな娘だ。分かったかね、薔薇?」
「私の名前はローズ・・」
「それが以前の君の名か?」
彼が問いかけた。
「分からない。多分そうだった。それ以上、何も覚えてないんだ」
彼女は首を振りながら、ただ「ローズ」という名を主張した。
「良かろう。君は普段ローズだという名前を使っても良い。だが、正式名は、薔薇・ダルゴダスだ。これは変更なしだ。それだけは覚えなさい」
「はい、父上。よろしくお願いします」
「ははは、かわいい子だ。ねぇ、フレイ」
彼は母上に向かって言った。母上も微笑んで、彼女を見ている。
「ふふふ、これからが楽しみですね、あなた」
部屋は二人の明るい笑い声に包まれた。けれども、ローズが瞬いただけだった。彼女はまだこの状況を飲み込めなかった。知らない人々に囲まれて、これから彼らのことを父と母として付き合わなければならない。
「さて」
彼が立ち上がって、ローズを両手で取って、また抱きしめた。
「今宵は宴だ!」
その言葉が最後に聞こえた。ローズがまた途轍もない眠気に襲われ、眠りに落ちた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます