第26話 告白

「さて、告白タイムと移りたいが いったいどうやって彼女と話すつもりだ?」

アスランはフェンに尋ねた。


「この者の精神に直接呼びかけるのではいけませんか?」


「それで この者がパニックしたらどうするのだ?」


「その時はその時です。

 この者なら それほど騒ぐこともないでしょう。

 これまでのふるまいをもとに考えると。


 いざという時の覚悟はできています。」


「まったくバカを通り越しての無鉄砲ぶりは もはや「やけくそ」の域に達しているようだ」アスランはつぶやいた。



フェンは静かに語りかけた。

「もしもし」


「あら フェン もう朝? 

 その割に ここはどこ?の世界ふたたびなんですが」


「すまない あなたは今眠った状態だ。

 そこで眠っているあなたの精神に私は直接語りかけているのだ」(フェン)


「あらまあ」


「しかしよく 呼びかけたのが私だとわかったな」フェンは軽い驚きを込めて言った。


「そりゃわかりますよ 雰囲気で。」


「ところで あなたの名前をまだ聞いてなかったような気がする」


「あー 今頃 それを言う?

 もう 名乗るほどのものでもありませんので」


「そんな意地悪を言うのなら 私の方で勝手に呼び方を決めてしまうぞ」


「まさか そんなことの為に 私をおこしたの?」


「いや 実は」かくかくしかじかと 今の状況をフェンは説明した。



「あの それって もしかして しばらくあなた方がこの世界に滞在する間

 私は 別の肉体の中に魂を宿して あなた方の案内係を務めるってこと?」


「ふむ まあ そういう見方もできるかな」


「そして 私がガイドをしている間 子ども達は あっちの世界で眠って待つということ?」


「そうだ。」


「そして 子ども達の目が覚めると・・

 母ちゃん 外見だけは 眠る前のまんまだけど 中身がすごくかわってました。

 この人だれ?偽物?」って思うわけ?


「なぜ そうなる?」思わず アスランが口を挟んだ。


「いや 普通は誰だってそう思うのでは?

 少なくとも うちの子らは ビンさといから

 今朝起きたら、母ちゃんの中身が変化してたって気付くと思うよ」


「・・・」

「・・・」


「予想外の未来予測だ」フェンとアスランはつぶやいた。


「それと うちの亭主の問題がすっぽ抜けてるような・・・」


「そもそも お主は 夫とこのまま家族としてやっていきたいのか?」

フェンがまじめな顔をして尋ねた。


「そんな 保留中の問題を突っこまないでよ。

 私としたら 双子と三つ子の育児にてんてこ舞いしている間に 転勤にかこつけて目の前から消えたあげくにあっちで別の女に慰めを求めている男のことなんか

もはや考える余裕もなく 子育てまい進中だったのだから。


下の子らが小学校に入学するまで保留しておきたかった問題を突っつかないでほしい」


「そこが不思議なのだ。

 お主の性格なら さっさと離婚しそうなもんだが」


「① 子どもになんと説明していいかわからない。

 

 ②子供達にある程度分別がつくまでは 自分の父親が卑劣漢だなんて説明したくない。


 ③離婚手続き=財産分割がめんどくさい

  日本の銀行員なんて 私が結婚前にコツコツと貯金していた定期貯金が満期になったので 私の名前で再度定期貯金にしようとしたら 子持ちの主婦が定期貯金にするのは脱税行為だと税務署から言われるとかかんとかほざくのよ。

 その中で 守り通して来た私の個人財産を 離婚のどさくさで 夫に奪われるのは嫌だし それを防ぐためには かなり戦略的に動かないとダメなの。今の日本は。


④女性の自由と自立は 建前であって、 それらを現実のものとしてその一部なりともこの手にするために 物心ついた時から戦い抜いてきた私としましては、

子ども達が幼い間だけは 人間の卑しさとみにくい現実に子供達をさらしたくない。


無条件で身近な人間を信じられる子供時代をもつことが、その後の厳しい環境を生き抜くなかでも人間不信にならない魂の核となる、と私は考えているから。


⑤シビアな現実に生きているからこそ、私は子供達を守る城壁であり 子ども達をはぐくむ優しい存在であり続けたいけど、

そしてそこまでは やり通して来た自信とやり抜く覚悟を持って生きているけど、

そこに夫というもはや外敵となってしまった人物とその係累相手に戦い抜くという 3番目の役割までは 一度にこなすことは無理・不可能。


だから 子育て真っ最中は 離婚だなんだと もめたくないのよ。

彼が転勤先でおとなしくしている分には ほっとく って感じね。今は。」


フェンとアスランは互いに顔を見合わせた。


「あー 今となってはすでに昨日になってしまった 先ほどの話では

 今の状況は うっかりすると 母子6人行方不明事件になりかねないということではあるのだな?」アスランが ためらいがちに聞いた。


「精神の入った 外見上は何の不連続も感じさせない肉体が 今朝にはこの家でその存在が確認されないと ご近所さんに「行方不明」と思われる可能性が高まりますね」


「うーん あなたとしては 昨日と今日と明日と 同じ時間軸で 同じ肉体でここで生きていきたいのか?

 それとも あなた方6人のこの家での人生を終わったことにして あなた方6人で新しい人生を生きたいとは思わないのか?」フェン


「あのねえ 子どもの立場に立って考えてよ

 単なる休暇で別世界で暮らすのは 子ども達にとっては面白いかもしれない。

 でも あの環境で 同世代の子供がいないあのお城で 長く暮らすのは無理よ。


 そして あの おぞましい女たちが育てている子供らと親子づきあいするのも

 私はごめんこうむりたい」


「私が考えているのは この星の別の環境で新しい人生を築くと言うことなのだが」

アスラン


「一見 魅力的ご提案ですが そんなのすぐには決断できない

 私一人で 子ども達5人分の人生に関わる決断を そんな瞬時に何の予備情報もなく決めろと言われても困る」


「僕がね 最初に考えていたのは 僕達3人で この世界をいろいろ見て回って

 そのあとで あなたに 元の生活の続きをするのか 新たな人生を始めるのか選んでもらおうと思ってたの。


その技術的には なかなかむつかしい問題があって 今すぐ あなたの子供達を狙い通りの時間に呼び寄せることができないんだ。


でも 最後の手段として 僕の生命エネルギーを使ってでもなんとかしたいから

しばらくは 僕達につきあって この世界を見て回って そのあとどうするか考えて」フェン


「それって なんか すごくヤバイ気がする・・・

 そもそも 自分の命を使って 人を脅迫しないでよ。

 そんな 駆け引きの材料に自分の命を使ってはダメ。 

 そんなの 絶対に受け入れられない」 リンはきっぱりと言った


「だったら はっきり言おう。

 この家に隕石が落下したか 車が突っ込んだか 爆弾がおちたか 何かが爆発して

 君たちは あとかたもなく死んでしまったことにしよう

 それ以外の解決策はない!」 アスラン


「実況見分で 肉片骨片のかけらもなければ怪しまれる」


「だいじょうぶ。 とりあえずは爆死として書類上処理されていれば

 あとで あなた達が 元の生活に戻りたくなった時に 記憶喪失で発見されましたにしてしまえばいいから」フェン


「あのねえ それこそ 私の個人財産すべてが 夫の手におちてしまったあとで

 私生きてましたって出てきても すべを奪われた後なら 私の生活が成り立たないわよ。

 あいつなら 私の財産が自分の名義に変わったとたんに すべては俺のもの お前が出て来ても絶対に渡さない もう使い切ったとほざくにきまってる」


「子供の生活費すら奪われて戻ってこないわ。 バカ言わないで」


「なんなんだ この世界は!!

 死んだと思われた人間が現れたら 喜ぶどころか再び墓に埋めるのがこの世界の流儀か!」アスランは叫んだ。


「だったら 母子6人行方不明事件でいいんじゃない?

 それなら 相続という名の乗っ取りは成り立たないでしょ?」フェン


「なんか それって もう私や子供達が今朝の6時に戻ってくるという前提を放棄した発言にしか思えないのですが・・・」


「かなり難しいと言ったろ。

 フェンの覚悟が受け入れられないなら・・その前提を放棄したほうが 話しがはやいかと・・」アスランが 申し訳なさそうに言った。


「あー もう ぶちなぐりたくなってきた!!!」


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