第25話 兄弟の会話

「兄上 これからどうしますか?」


すやすやと眠るリンを見ながらフェンがアスランに尋ねた。


「どうしたもこうしたも 果たしてこのまま無事に連れ帰ることも

 子供達も呼び寄せることもできるかもわからない現状で」


「しかし 兄上 この者は我らを信じ切っております。

 その信頼を裏切れません」


ベスから念話が届いた。


「肉体だけなら こちらに呼びもどすことができます。

 あるいは子供達の精神だけをそちらに送り出すこともできます。

 でも 肉体と精神を一対で正確な時間軸で送迎することは まだ無理だと思います」


「はぁ」アスランは 机に向かって頬杖を突きながら深いため息をついた。


「正直に リンに話しましょう。

 私の力不足で 肉体と精神が一対となった界の移動では 時間軸を調整することができないと。」


「だから 兄上 リンの肉体だけをあちらに送り、リンの精神が新たに入ることのできる肉体をこちらで作ってください」


「フェンよ その為には 我らもしばらくこの者といっしょに こちらの世界にとどまらねばならなくなるぞ」


「かまいません。どっちみち こちらの世界も見て見たかったので」


「で そのあと どうする」


「兄上のお許しさえいただければ この者の肉体もあちらに居る者たちも 全てを眠らせ眠りの世界で保存しましょう」


「そのあとは?」


「リンが了解してくれれば、こどもたちの精神をこちらに呼び リン同様に新しい肉体と生活をあたえるか、

さもなくが リンがあちらに戻って子供達と共に暮らすかの選択をすすめてはどうでしょうか?」


深く深く さらに深くアスランはため息をついた。


「おまえ そこまで大きく 界の関わりに干渉してしまっては お前の持つ神聖が大きく減じ 場合によっては お前の神格が失われる可能性があることもわかっているのか?」


「はい すべては 私の短慮から 安易にこの親子を我らの世界に引っ張り込んだのが事の始まり。

 ですから 私の命に代えても この親子の幸せは守ってやりたいと思います」


「ふむ」アスランはさらに深く考え込んだ。


「で お前が躍起になっておった あの城や城下の人間達の問題はどうなる?」


「我らの力ではどうしようもないと言うことがわかりました。

 あとは 彼ら自身の力で 運命を切り開いていかねばならぬこと。

 変化の種は すでにまきました。

 その結果芽生えた新しい芽をどう育てるかは あの者達自身の手で成し遂げるべきことです。」


「まったく 切り替えの早い奴だ。

 言っていることに誤りはないが 情がないと批判する者もいるのではないか?」


「その批判は 甘んじて受けます。

 ただ この者に これ以上の負担を負わせることはできません」


「フェンよ お前の決意を受け入れよう。

 さて あとは この者が どのように この事態を受け入れるかだ」

アスランは 悲しそうに言った。


リンが フェンの提案を受け入れなければ

最後の手段として フェンの生命エネルギーを使って リンの子供達を肉体と精神を損なうことなく明日の朝までにこちらに呼び戻さねばならないことは 暗黙の了解として 二人は理解していたからだ。

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