第12話 ローゼンタール国の事情

部屋に戻ったら 王様が待ち構えていた。


うわぁ~ さすがの子供達も驚いて静かになりました。

私だって ビビったよ。


王様は にこやかに 子供達に話しかけた。

「少しの間 君たちのお母さんを貸してもらえるかな」


長男が代表で答える。

「母は 人間なのでお貸しできません。」


「私が 君たちのお母さんと話している間 君たちには隣の部屋で待っていてもらいたいのだ」


「扉をあけて ママが見える所に居て欲しい」(娘たち)


「こちらで 大変よくしていただき 私も子供達も感謝しております。

 しかしなにぶんにも 幼いゆえに 異世界に来た不安から母の姿が見えぬと不安になることを お許しください」私は頭を下げた。


「ふむ 静かにすると約束できるか」王様は厳しい声で子供たちに問うた。


「はい!」子供達は 一斉に声をそろえて返事した。


・・

王様には 申し訳ないが少しお待ちいただくことにして、子供達を寝室に連れて行き

お絵描き道具があればよかったのだが そういったものがなかったので

子供達一人一人に毛糸玉を一つづつ渡して 指編みをしながら待つようにと言って 扉をあけ放ち ドア越しに見える位置にソファセットを移動させて 王様と向き合って座った。


王様もおつきの方々も 寛容な方々で良かった。


王様は ちらりと子供たちの様子を見て言った。

「今朝がたの騒ぎはすさまじいものであったと聞いていたが、今はずいぶんと静かだな」


私は黙って頭を下げた。


「この城には 騎士と神官と魔導士がいる。

 10年前 この城の中から女・こどもが一斉に姿を消した。

 10年前姿を消したのは、城の中の女子供だけでなく 城の外の人間達もだ」


「この国では 王家と教会が長い間対立しておった。

 あの日は 法皇とわしとが決闘でかたをつけることになっておった。


 だから この城の中に 法皇や神官どももいたのだ。」


「しかし突然 一斉に眠らされ 目が覚めると 多くの人が消えておった。

 はじめは 双方 相手方の陰謀を疑ったのだが…

 魔導士も神官も これは神意であるとの神託を受けたので 今にいたっておる」


ひたすら傾聴を続ける私に向かって王は言った。


「質問があれば 遠慮なく尋ねよ」


「はい」


「うむ」

「質問がないなら続けるぞ」


「はい」


「この城で 魔法を使えるのは魔導士と神官たちだけだ。

 じつのところ あの者達はあまり仲がよくない。

 

お前達を呼び出したのは魔導士たちだ。

魔導士たちは さらわれた女こどもを助け出す勇者を呼び出すつもりであった。


しかし出てきたのはお前達親子だ。

 それも 実に 風変わりな親子だ。


お前たちを聖母子と認定したのは神官どもと騎士達だ。

お前たちの世話をしているのは 多くの神官たちとごく一部の魔導士 そしてわしの騎士たちだ。その違いはわかるか?」


「見た目で区別がつくかと問われれば わかりません」


「そうか。屈託のない親子だと聞いておったが、区別がついていないだけだったのか」


「実は 魔導士も神官も それぞれの方法で あらたな神託を得た。

  『女こどもをとりもどしたくば お前達親子を幸せにせよ。

  民人をとりもどしたくば お前達からその方法を学べ』と。


 おぬし この神託をどう思う?」


「一つの仮説としては、私たち親子を幸せにすることにより、女性や子供達がすこやかに暮らす社会を作る力が備わったことを示せという意味があるのかもしれません」


「ほーう。わしらの暮らしが 女子供が健やかに暮らすにふさわしくなかったというのか?」


「少なくとも こちらで最初に見せて頂いた女性や子供服は 女や子供の負担にならないものではないとは言えないと思います」


「女こどもに ぜいをつくした服を着せることこそ 男ぶりを示す一番わかりやすい方法であろうに」


「衣服とは 肌を守るとともに衛生をたもち、動きをそこなうことなく肉体に負担をかけぬものであってこそ意味があるのです。

 一人で脱ぎぎできず  体をしめつけ動きを妨げ その重みで体をゆがめるような服など、拷問具にすぎません」


「女性がみだりに服を脱ぐことは許さぬ!」


「話がすり替わっています」


「おそれながら」と騎士と魔導士と神官の代表らしき3人が進み出てきた。


「この方は お一人で5人のお子様を軽々とかつぎ上げて運ばれました。」

「落馬しかけたご子息を 隣の馬にまたがったまま お一人で片腕で瞬時に助けられました。

 あのような動きは 従来の女性服では不可能です」(騎士)


「お子達は日に5度は着替えをされます。皆さん自立され、手早く身支度みじたくされるので 学習時間を多くとることができるかと思います」(神官)


口々に 今私達が着ている衣服の利点を述べた。


「ですから 女性や子供の健康には 今のデザインのほうがこのましいと思えるので

異邦人の暮らしぶりから学ぶ点は大いにあると思われます」(魔導士)


「異なる視点を得るというのは 進歩を引き出します」(3人そろって)


「ふむ 神託は神託。 解釈はともかく 神託の指し示すことには従わねばならぬ」

王は言った。


「おまえは ここに来る前は 何をしておった」


「法学博士です。最近は子育ての専門家」


「なるほど。」

「神託を実現するために お前達にも協力してもらいたい」


「つまり 生活改善に向けた提案を遠慮することなくだ出せとおっしゃるのですね」


「そういうことだ。と言っても 我らにもできることとできぬことはあるがな」


「ならば 私たちが 知ること・考える事をさまたげないと約束して下さい」


「どういうことだ?」


「情報収集の自由 人と会う自由 移動の自由と安全の確保 などと言ったことです」


「認めよう。わしも 今の暮らしにはうんざりしているのだ。

 お前達がもたらす変化が呼び水となって 失われた人が戻ってくるのならば それに賭けようと思う」

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