第33話 兄がやって来た④
「お兄様、屋敷に戻られないのですか?」
お店を出てすぐに兄から言われたのは「城に行くから今日は帰れないんだ」という話だった。一緒に帰ると思っていたから少し驚く。
「僕も可愛い妹と話したいんだけどね。急務なんだ」
こっちに来て早々に泊まり込みとは兄も忙しい人だ。ゆっくりお話が出来ると思っていたから少し残念な気持ちになる。
「そうなのですね…。明日はお戻りになられるのですよね?」
「あぁ、勿論だ。明日はゆっくり話をしよう」
兄から伸びてきた手は私の隣に立っていたレオンスによって阻止されてしまう。強めに握られているのか簡単に振り解けず「頭を撫でるくらい良いじゃないか…」と兄は不満を漏らした。
「アリアに触れて良い男は私だけだと何度も言ってるだろ」
恥ずかしそうに「息子が産まれたら別だがな」と呟くレオンスに余計な話をしてしまったかもしれないと苦笑する。
「レオ、狭量な男は嫌われるぞ?」
兄の言葉にレオンスは苦い顔をした。目が合うと「嫌いになるか?」と聞かれるのでどう答えれば良いのか分からず曖昧な笑顔を見せる。
「嫌いになったりはしませんけど束縛ばかりされるのはあまり好まないですね」
レオンスに縛られるなら別に良いと思っている自分もいる。ただ家族相手にまで妬かれるのはやはり困ってしまう。
「嫌だってさ」
「そうか。それはすまない事をした」
「いえ…」
露骨に落ち込むレオンスをどうしたら良いのか分からずにあたふたしていると声をかけてくれたのは兄だった。
「アリア、僕達は皇城に行くよ。気をつけて帰って」
「あっ、はい。レオ様、また今度お会いましょう」
名残惜しいが何時間もここにいるわけにはいかない。お別れを言って馬車に向かおうとすると後ろから腕を掴まれる。振り向くとその犯人はレオンスだった。
「屋敷まで送ろう」
「ですが…」
「もう少し一緒にいたいんだ。送らせてくれ」
レオンスの帰城が遅くなるのは良くない。頭では分かっているのに彼と同じ気持ちだった。わがままな私は断ることも出来ずに「よろしくお願いします」と返す。
「ジェイド、アリアを送って来る」
「それなら僕も一緒に…」
「二人きりにさせてくれ」
レオンスはこちらに近づいて来ようとする兄に対して首を横に振った。もちろん簡単に折れる兄じゃない。
「駄目だ。アリアに変な事をする気だろう」
「しないから先に城に行け」
今にもレオンスに噛みつきそうな兄に「私からもお願いします」と言う。私に言われると思っていなかったのだろう兄は深い溜め息を吐いた。乱暴に髪を掻きむしり、真っ直ぐ見つめられる。
「アリア、変な事をされそうになったらすぐに僕を呼ぶんだよ。良いね?」
「分かりました」
兄は視線をレオンスに移すと「アリアに変な事をしたら殺すからな」と睨みつけた。友人でなければ速攻で首と胴体が離れ離れになっている発言だ。見てるこっちがひやひやさせられる。
「安心しろ、変な事はしない」
「信じるからな?」
「勿論だ」
レオンスの力強い返答に満足したのか「アリア、また明日」と笑った兄は私達が馬車に乗り込んだのを確認してその場から姿を消した。
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