第33話 帰りの馬車

レオンスに手を引かれて馬車に乗り込む。

狭い車内だというのに彼は膝の上に私を乗せて軽く口付けをしてきた。


「ジェイドお兄様にバレたら怒られますよ」


兄との約束をあっさりと破ったレオンスに言うと苦い顔を向けられる。


「アリア、ジェイドとは仲が良いのか?」

「普通の兄妹くらいには良いと思いますけど」


ジェイドとは従兄妹であった頃から兄妹のように接してきた。お互いに一人っ子だったから「兄妹だったら良かったのに」って会話を良くしていたのだ。

そのこともあって彼が本当の兄になったところで違和感はない。これからも仲の良い兄妹としてやっていけるだろう。

そう思っているとレオンスから噛み付くような口付けをされる。

急に奪われた呼吸に苦しくなり、解放の合図を送ると素直に離れてくれたが睨まれてしまう。


「アリアが私以外の男と仲良くしているのは嫌だ」

「嫌と言われても…。相手は兄ですよ」


兄と、家族と仲良くするのは当たり前のことなのに。

レオンスは顰めっ面を浮かべたまま言葉を続ける。


「血筋的には従兄妹だろ」

「そうですけど今は兄ですよ」

「アリアと一つ屋根の下で過ごせるあいつが羨ましい」


頭を鷲掴みにされて、強く抱き締められる。

私は恋愛に関してかなり疎いのでよく分からないが彼が兄に対して良い感情を持っていないのは確かだ。


「レオはジェイドお兄様が嫌いなのですか?」

「あいつは親友だ。嫌いになる事はない」

「だったら…」

「それでもアリアと仲良くしているのは嫉妬する」


嫉妬。

どうやらレオンスは兄に嫉妬しているらしい。

でも、どうして?

嫉妬する要素が見当たらない。兄とは仲良しだと思うがどこまでいっても兄妹だ。

男女の仲になることはあり得ない。


「レオが妬く理由が分かりません」

「惚れている女が他の男と仲良くしているのは妬いてしまうんだ」


そういうものなの?

自分の立場で考えてみた。

もしレオンスが自分以外の女性にベタベタ触られていたらと考えたところで胸が痛んだ。

きっと触らないでと思ってしまうだろう。


「なるほど…。確かに妬きますね」

「分かってくれるのか?」

「はい。今レオが他の女性にベタベタされていたらと考えたらムカつきました。きっとこれが妬くってことですよね?」


恋愛初心者なので確認を取るとレオンスは目を大きく開いて、そして嬉しそうに笑った。

さっきまで怒っていたのに…。

急な変化についていけず唖然としている私に彼はまた口付けを落とす。


「アリアも嫉妬してくれるのか」

「それは…しますよ?レオの婚約者は私じゃないですか。他の女性に触られるのは嫌です」


彼の立場を考えたらベタベタされる機会は多いのは分かるけどそれでも嫌なものは嫌なのだ。

今まで気が付かなかった自分の独占欲を知って苦笑いになる。


「そうか。それなら他の女に触られないようにしないとな」

「出来るだけそうしてください」

「アリアも私以外の他の男に触れさせるな」


兄でも駄目ですか?と言う質問は飲み込む。

答えが分かりきっていたからだ。

頷けば嬉しそうに微笑まれた。


「アリア、好きだ」


いきなりの告白。

言葉を返す間もなく私の口は塞がれてしまった。


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