第29話 侍女は怖い
小さな約束ごとを取りつけたのと同時に部屋の中に入って来たのはウラリーだった。彼女の表情が冷めている理由は一つ。私がレオンスに押し倒されているからだろう。
「陛下、お話が足りなかったのですか?」
「十分だったぞ…」
焦った声を出すレオンスを見上げると額に薄っすら脂汗をかいている様子。
侍女に負ける皇帝など今まで見たことなかった。普通なら幻滅するところなのだろうけど少し可愛いと思ってしまう。散々見てたからか、相手がレオンスだからなのかは分からないけど悪い印象は持たない。
「では何故アリア様を押し倒していらっしゃるのでしょうか?」
鋭く睨みつけられたレオンスは慌てて私を抱き起こした。彼の胸元にすっぽりと収まっているとばくんばくんと重音が耳の奥に響く。
心臓壊れてしまわないかしら。
少しでも楽になってくれたらとハンカチで彼の汗を拭った。
「アリア様も陛下を甘やかしてはいけません!」
「ご、ごめんなさい!」
予想外のお叱りに咄嗟に謝罪の言葉が飛び出した。圧を感じるウラリーを見てレオンスが彼女を恐れる理由が分かった気がする。
確かにこれは怖いわ。
子どもの頃だったら半泣きになっていたかもしれない。
「お二人ともここは公共の場ですよ!少しは節度ある行動をお取りください!」
ウラリーの怒声にレオンスと二人で「すみませんでした」と頭を下げた。
「アリアが謝る必要はないんだぞ。悪いのは私だ」
「いえ、私が受け止めていれば良かっただけの話ですから」
不意打ちで抱きつかれても倒れてしまわないように体を鍛えた方が良いのだろうか。いや、しかしレオンスとの体格差を考えると少し鍛えたくらいでは難しいかもしれない。
「私が君の可愛さにやられて抱き着いたのが悪かったのだ。今度から優しくする」
申し訳なさそうに頭を下げた後また抱き寄せられてレオンスの腕の中に囲われてしまう。抱きしめられるのは勿論嫌じゃないのだけど。
レオ、ウラリーが見ているって忘れてないかしら。
また怒られるのではないかと彼越しに彼女を見ると呆れた顔をしていた。
「陛下」
びくりとレオンスの体が震える。慌てたように離れていく彼に少しの名残惜しさを感じた。
もう少し抱きしめられたかったなんて思ってしまう自分が恥ずかしくなる。前までの自分だったらこんなこと思うことなかったのだから当然だ。
変わったのは全部…。
「良い加減にしてくださいと何度言えば悪いのですか!」
「わ、分かった!もうしない!」
「さっきも聞きましたわ!信用なりません!」
侍女に叱られてしょんぼりしている自分の婚約者の横顔をこっそり見つめながら小さく笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。