第19話 視察⑤

アラールの説明を受けながら砦の中を進む。改築されたばかりとあって内装は綺麗になっていた。

外敵からの攻撃に対処する為に造られた防衛拠点。当然の事だけど内部は軍事的な機能を担う構造となっている。強固な魔法障壁が施されていた外観からして耐久性の高そうであったが内部も簡単に落とさせる気がない造りとなっている。


「内部の造りが複雑ですね」

「敵が侵入しても簡単に乗っ取らさせませんよ」


無骨そうな容姿にそくわず快活に笑うアラールはやけに得意気だ。

入ってから数十分しか経っていないが頭の中がこんがらがる。とにかく内部構造が複雑なのだ。記憶力には自信がある方だけどここに関しては一回入ったくらいでは到底記憶しきれないだろう。

案内がなかったら丸一日は彷徨いそうね。

指揮所から始まり観測所、武器庫、待機所、医療施設などを見て回る。

アンフェールの砦はつい数年前まで最も攻め落としやすい砦と呼ばれていたらしい。増築、改築を重ねてすっかり鉄壁と呼ぶに相応しい場所に変わったそうだ。攻め落としやすいというのはあくまでも帝国側の見解。他国から来た身から言わせてもらうと改築前から十分に難攻不落だ感想を抱く。

流石は戦大国ね。

どこの国も勝てない理由の一端を知った気がする。随所にある高い塔の一つに登ると設置されていたのは。


「こちらは魔法砲台です」


塔の上部に複数設置されていたのは特殊な金属で造られた砲台。自身の魔力を流し込む事によって遠くまで魔力砲弾を放つことが出来る代物だ。魔力が強ければ強いほど威力も上がる。ちなみに砲台自体にも魔力増加の魔法が施されている砲台である為、魔力が弱い人でもそれなりの威力が出せるらしい。

試してみたい気もするが自分の魔力を考えると……。

やめておいた方が良さそうね。

どうなるか分かったものじゃない。それに砲台を使わずとも本気を出せばこの辺り一帯を焼け野原にすることは可能だ。


「新しくなったのだな。試してみても良いか?」

「いけません!」


目を輝かせて尋ねるレオンス。子供のような無邪気な笑顔を向けられたアラールは焦ったように返事する。レオンスの魔力を考えると国境先に酷い被害が出てしまうだろう。戦争が起こっているならいざ知らず向こう側は友好国だ。こればかりは誰も賛同出来ない。

残念そうな表情で「分かった」と言うレオンスだったが名残惜しそうに砲台を見つめていた。

そのうち皇城にも設置されそうね。

もし完成したとしても軍事利用をされるわけじゃなく主に皇帝の憂さ晴らしとして活用されそうだ。

塔から降りると案内を受けたのはこれまた綺麗に改装された食堂だった。私達が来ることを事前に知らされていたのだろうお昼時であるにも関わらず騎士は誰も居ない。

気を遣わなくても良かったのに。

そう思うが自分の立場を考えて口を噤む。


「皇妃様がよろしければこちらでお食事を……」


アラールの誘いの言葉を遮ったのはレオンスとウラリーの眼光だった。おそらく私に気遣ってくれたのだろうけどここで食事をすることに抵抗感はない。むしろ皇城で出されている料理と違ったものを味わうことが出来るのだから楽しみというものだ。

牽制する二人の前に出ると困惑状態のアラールに手を伸ばして「普段皆様が食べている物を頂けますか?」と笑いかけた。


「レオ様も良いですよね」

「……アリアが食べたいと言うのなら構わない」


渋々ながら許可を出してくれたレオンスに「ありがとうございます」と微笑めば顰めっ面も幾分か和らぐ。

心配そうな表情でこちらを見つめてくるウラリーにも同様に笑いかけた。

二人が心配してくれるのは有り難いけど温室育ちのお嬢様ってわけじゃないのよね。

言うと心配されそうだから控えるけどこれでも戦に参加したことがある身だ。無理やり行かされたと言った方が正しいけど。士気を高める為だからって成人前の小娘を戦場に放り込むって今考えると非常識的過ぎる。

それは置いておくとして私が赴いた戦場で出されていた食事は美味しいとも不味いとも感じないお腹を満たすものだった。戦なのだから仕方ないと分かっていたけどかなり酷かったと思う。

流石にあれよりはまともでしょ。


「それでは準備して参りますね」


嬉しそうに笑ったアラールに「お手伝い致します」と続いたのはウラリーとレナールの二人だった。

彼女達が行く必要はあったのだろうか。疑問に思っていると解決してくれたのはレオンスだ。


「毒を仕込まれない為の見張りだ」

「ここで私達を殺そうとする人は居ないと思いますけど」

「本当にそう思うか?」


改めて聞き返されると頷くことは出来ない。

つい先日も皇城で毒見係が鬼籍に入ったばかりだ。常に毒の警戒は怠るわけにはいかない。帝国を守る役目を担っている人達が暗殺を企てると考えたくないが身内まで疑わないといけないのが皇族だ。

悶々とした気分でいると頭を撫でられる。


「あまり気に病むな」

「分かりました」


あっさりと私の心情を読み取ったレオンスに苦笑いを返した。

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