第60話 家族とお出かけ②

「結局レオから求婚されたのか?」


フードルの中を歩いていると隣にいる兄から問いかけられるので吹き出しそうになる。

真っ赤になって動揺を見せたのだ。どうだったか聞かなくても分かるだろう。兄はにんまりと揶揄うような笑みを見せて近づいてくる。


「詳しく聞かせろよ」

「嫌ですよ」

「レオにも同じ事を言われたよ。アリアなら教えてくれると思ったのに」


婚約者からの求婚話を家族にするのは恥ずかし過ぎる。しかしレオンスが兄に話していなかったのは意外だ。兄に求婚するように唆されたのだから相談していると思ったのに。

昨日の求婚はレオンスが一人で考えたのかしら。

夜景が綺麗な場所で求婚と恋愛小説に出てきそうなことを彼が思い付くとは思わない。


「レオ様になにも相談されなかったのですか?」

「こういうのは自分で考えないと意味がないって頭を抱えていたぞ」


ということはあれは全てレオンスが考えたということになる。意外だと驚いていると兄から「ウラリーから恋愛小説を借りていたぞ」と言われる。

帝都の景色を見せたかったって気持ちが強いだろうがおそらく小説から良いものを選んだのかもしれない。

それにしても恋愛小説を読んでいるレオンスが想像すると面白くて堪らない。

顰めっ面になりながら読み進めて途中で投げ出したくなるのだろう。それでも真面目な人だから最後まで読み切って深い溜め息を吐く。

そこまで容易に想像出来てしまう。


「ニヤニヤして何を思い出しているんだ?」

「レオ様が恋愛小説を読んでいるところを想像したら面白くて」

「あの厳つい男が読んでいたら違和感しかないだろ」


違和感はあるけど可愛らしくも感じる。

今度レオンスに紹介した小説をウラリーに教えてもらいましょう。


「で、結局どんな求婚を受けたんだ?」

「教えませんよ」

「減るものじゃないだろ」


肩を揺らしてくる兄を振り払って前を歩いている母のところに逃げると「どうしたの?」と尋ねられる。


「ジェイドお兄様がしつこくて」

「何かされたの?」

「レオからの求婚について聞いていたんだ」


後ろから追いかけて来た兄が言うと母は目を輝かせて「あらあら」と嬉しそうな声を出す。

嫌な予感がする。逃げようとするが素早い母から腕を組まれてしまう。


「私も聞きたいわ。どんな風に求婚されたの?」

「お、お母様まで…」

「母様も聞きたがっているんだから教えてくれよ」

「嫌です」


父に助けを求めようと見ると何故か耳を塞いで歩いていた。どうして耳を塞いでいるのだろうか。

首を傾げていると母から「旦那様は娘の恋愛話を聞きたくないのよ」と教えてもらう。

私には分からないが娘を持つ父親はみんなそういうものらしい。


「折角出来た愛娘の求婚話を聞きたいわけがないだろ!」

「あら、私は聞きたいわよ。アリア、後でお母様に教えてね」


異性である父と兄に教えるのは気が引けるが母には教えても良いだろうと「後で教えますね」と笑う。

嬉しそうにはしゃぐ母の後ろには拗ねた表情を見せる兄が立っていた。


「ジェイドお兄様がリシュー様と結婚する際に教えてあげますよ」

「何年後だよ」


兄もリシュエンヌも二十四歳と結婚適齢期を過ぎている。どうして結婚しないのか本人に聞いたことがあるけど「一人前の男になるまでは無理だ」と返された。


「あら、早めに身を固めれば良いじゃない」

「そうですよ。リシュー様も待っていますよ」

「うっ…」

「へたれだから出来ないのよ」

「リシュー様が可哀想ですよね」


母と一緒に兄に視線を向けると父の後ろに隠れていた。

いい歳してやることじゃないでしょ。

成人男性の兄が父親に助ける求める光景は見ていて情けない気持ちになる。


「ジェイド、待たせ過ぎるとリシューちゃんに愛想尽かされるわよ」

「分かっていますよ」

「そのうちブリュイヤール公爵に文句を言われるぞ」

「それも分かっていますよ。近いうちに……求婚します」


変な間を作らず言いきってほしいところなのだけど。

しかし、この様子では兄とリシュエンヌの結婚はもうちょっと先の話になりそうだ。

今度彼女の愚痴に付き合ってあげたいと思う。


「俺の話は良いですからもう店に入りましょう!」


逃げるように目的の装飾品店に逃げ込む兄を見て両親と一緒に溜め息を吐いた。

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