第61話 家族とお出かけ③

装飾品店の商品はどこか見たことがあるデザインばかりだった。理由を教えてくれたのは母だ。


「ここ十年前に来た事があるのよ」


内装は大きく変わっているが過去に訪れたことがあるお店らしい。商品に既視感を感じた理由が納得出来てすっきりしていると兄に手招きされる。彼の立っている陳列棚のところまで向かう。


「どうかしましたか?」

「リシューへの贈り物どれが良いと思う?」


キスや求婚は出来ないへたれであっても兄は紳士としてよく出来ているのだ。

記念日派忘れたことがないし、贈り物と手紙はまめに送っている。こういうところがリシュエンヌの心を射止めている理由なのだろう。


「リシュー様はイヤリングが良いと思いますよ。先日お気に入りの物を無くしてしまったと言っていましたから」

「なるほど…」


すっかり尻に敷いているがリシュエンヌは兄にぞっこんなのだ。それを踏まえて考えると兄から贈り物をしてもらえたというだけで彼女は喜ぶだろう。

助言をすると兄はイヤリングが置かれている棚に向かってしまった。リシュエンヌの趣味をよく分かっている兄なら彼女の好みの物を選択出来るはず。邪魔をしないように入り口近くの母のところに戻った。


「あら、ジェイドは?」

「リシュー様の贈り物選びをしています。お父様はどちらに?」

「注文した商品を取りに行っているわ」


注文した商品?

どうやら父はなにかを注文しているらしい。母にあげる物だろうと思いながら父の戻りを待つ。

私もレオンスになにか贈ろうかと商品を見て回る。

どうせだったら普段使い出来る物が良いのだけど男性がもらって喜ぶ物が思いつかない。


「何か欲しい物でもあるのか?」

「ジェイドお兄様」


後ろから声をかけられて振り向くと小さな紙袋を持った兄が立っていた。どうやらリシュエンヌに贈る品を購入したようだ。さっき選びに行ったばかりなのに即決出来てしまうとは兄の決断力が羨ましい。


「レオ様に贈り物をしたいのですがどれが良いのか分からなくて。どれが良いと思いますか?」


兄ならレオンスの欲しい物を知っているだろうと尋ねてみると「アリアから貰える物なら何でも喜ぶと思うぞ」と言われてしまう。確かにレオンスの性格なら喜びそうだけどせっかくなら好みの物を贈りたい。


「ジェイドお兄様、お勧めの物を教えてください」

「うーん、あいつはあまり装飾品の類いを付けないからな。そういえば新しい筆が欲しいと言っていたぞ」

「筆ですか」


筆ならこのお店では買えなさそうだ。隣の文房具を取り扱っている店に行こうかと思っていると二階から父が降りて来るのが見えた。

手には小さな箱が乗せられており、真っ直ぐこちらに近づいて来る。


「アリア、これを」


父から箱を差し出されたのは母ではなく私だった。

開いた箱の中身は小さなブローチ。稲妻模様が刻まされた菱形の台座は銀張りに彩られ中央に一つ嵌められているのは私の瞳とよく似たエメラルドだ。

完全に特注品であろうそれは私の為に作られたようにも感じられる。


「結婚前のお祝いとして作って貰った。受け取ってくれ」


優しく微笑む父。受け取らない理由がなかった。

壊れ物を扱うが如く受け取った箱を両手で包み込む。

私も家族には贈り物を用意している。結婚式の当日に渡す予定だ。


「ありがとうございます、お父様。一生大切にしますね」


宝物が増えた瞬間だった。



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