第50話 波乱のお茶会⑦※書き直しました

氷壁を崩して外に出ると招待された全員が怯えた表情をこちらに向けていた。

レオンスの言う通り、あれ以上やっていたら完全に化け物扱いでしたね。

そこまで大したことはしていないのに。


「サビーヌ・ロゼ、お前を拘束させて貰う」

「まっ…」

「連れて行け」

「了解」


軽い返事をしたのは兄だった。

まだ駄々を捏ねようとするサビーヌ嬢。ジタバタと暴れる細い身体が無理やり押さえつけられる光景は見ていて気分の良いものではない。

さっきまで彼女と対峙していた人間が言うことではありませんけど。

手と足を振り回すサビーヌ嬢に拘束魔法をかけたのは私だった。急にかけられた魔法に驚いたのか兄がこちらを見てくる。


「出しゃばってしまい申し訳ありません」

「手間が省けた、助かったよ」

「いえ」


サビーヌ嬢を連れて兄は転移魔法でどこかに消えてしまった。おそらく牢に入れる為に連れて行ったのだろう。

最も騒いでいた人物が居なくなり、周囲の騒がしさが戻ってくる。

どうやって収集をつける気だろう。

レオンスを見上げると誰かを探しているのか回りを見ていた。


「シモーヌ・ロゼはどこに行った?」


レオンスが探していたのはサビーヌ嬢の母親であるシモーヌ夫人だった。罪を犯した娘を持つシモーヌ夫人も拘束しようとしているのだろう。

そう思っていると後ろから意外な人物の声がした。


「ここに居るわよ」


転移魔法で現れたのは母と拘束魔法をかけられてぐったりしているシモーヌ夫人だった。

どうして母がシモーヌ夫人を?

驚いている私と違ってレオンスは冷静に二人を見つめていた。


「どうやら逃げようとしてたみたいだから捕まえておきましたわ、陛下」

「ご苦労だった」

「いえ、娘を殺そうとした薄汚い女を捕まえる手伝いが出来て光栄ですわ」


私を殺そうとした?

サビーヌ嬢が私に敵意を剥き出しにしていたのは分かっていたけどシモーヌ夫人が私を殺そうとした形跡はないと思う。

なにか見落としたのだろうかと考えているとシモーヌ夫人の甲高い声が聞こえてくる。


「わ、私がアリアーヌ様を殺そうとするはずがありませんわ…!」

「あらあら。じゃあ、アリアが座っていた席のケーキを食べてくれるかしら」

「なっ…」


母の言葉に納得する。

やっぱりあのケーキには毒が仕込まれていたのですね。食べなくて正解でした。

安心していると母はシモーヌ夫人を地面に放り投げて私の席にあったケーキを持ち上げる。


「腕が縛られていますし、私が食べさせてあげますわ」

「や、やめ…」

「どうして?貴女が用意させたケーキなのでしょう?残したら勿体無いのでぜひ食べてくださいな」


涙目になって震え上がるシモーヌ夫人の口にケーキを持っていく母。

その表情は満面の笑みだ。


「毒を仕込んだって認める?それなら今殺すのはやめてあげるわ」

「み、認める!認めるから殺さないで!」


みっともなく泣き叫ぶシモーヌ夫人にほそく笑んだ母は優雅な動作で立ち上がり、レオンスに向かって礼をした。


「差し出がましい事を致しましたわ、陛下」

「いや、良い」


もう一度深く礼をした母がこちらに近づいてくる。


「アリア、大丈夫だった?」

「問題ありません」

「そう、強い子ね」


優しい微笑みを向けてくる母に頭を撫でられていると周囲から聞こえてきたのは耳障りな言葉ばかりだった。

自分は何も悪くない。

ロゼ公爵家の嘘に騙されたのだ。

何も知らなかった、許して欲しい。

自分自身を擁護する言葉は聞くだけで不愉快な気持ちになる。


「黙れ!」


レオンスの怒声が響き渡った。厳しい表情を浮かべながら静まり返る会場の中心に向かって歩いていく。


「貴様らへの処罰は追って連絡させて貰う。それまでは謹慎とする」


サビーヌ嬢の言葉に誑かされた被害者であるが碌な証拠もない中で私を非難したのだ。

この件で大きな罰を与えられることにはならないだろう。

これで波乱のお茶会は終幕した。

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