第49話 波乱のお茶会⑥※書き直しました

パチンと指を鳴らせば一瞬にして私とサビーヌ嬢の周りに氷壁が立ち並ぶ。高さはロゼ公爵家の屋敷よりも高く作らせてもらった。

私を敵に回すとちょっぴり厄介ですよ。

そのことを周囲にも教える為に透明な氷を選んだ。


「な、なに…これ…」

「ただの氷魔法ですよ。フォルス帝国の皇妃になりたいというならこれくらいは出来て当然ですよね」


嫌味っぽく言うとサビーヌ嬢は顔を青くしてふるふると首を横に振った。

どうやら出来ないらしい。

ただ彼女から感じる魔力量を考えれば出来ると思うのですけどね。練習量の差でしょうか。

唐突に出来上がった氷壁は周囲も驚かせていた。そして私を称賛する言葉を飛ばして来る。

今更私を褒めちぎろうとしても無駄なのに。


「サビーヌ様、この空間には私達しかおりません。壁も簡単に壊れたりしないようにしておきました。ですから存分に戦いましょう?」


アルディ王国では悪女に仕立て上げられて国を追い出されましたけど、今の私は完全に悪役ですね。

悪い顔をしていますから。

サビーヌ嬢は今にも泣き出しそうな表情で私を見つめてきた。まるで助けてくれと言われている気分になる。

ただ今の私に彼女を助ける選択肢はない。


「どうぞ、サビーヌ様から攻撃して来てください。戦わないと言うなら一方的なものになるだけです」


衆人環視の中で一方的に潰すのも寝覚めが悪い。出来れば戦って欲しいのだけどサビーヌ嬢は魔法を使うどころが動く素振りすら見せない。それどころか怯えたように腰を抜かして座り込む。

情けない姿に深く溜め息を吐いた。


「サビーヌ様が来ないなら私から行きますよ」


無数の光の矢が曇り空から雨のように降り注いだ。それらはサビーヌ嬢を取り囲むように地面に突き刺さっていく。

致命的な傷を負わさないように、殺してしまわないように制御しながら時折り彼女の足や腕を掠めさせた。治癒魔法で消せるような小さな傷が出来上がっていく。

自分の身体から血が流れて出ているのを見てしまったサビーヌ嬢。初めての経験なのか小さな絶叫を上げた。そして痛いと泣き叫ぶ。


「この程度で痛いと叫ばれると本気を出せないじゃないですか」


冷たく突き放せばサビーヌ嬢は絶望の表情を見せた。

光の矢を降らせることが私の本気だと思われていたのですか。今のはただの威嚇ですよ。


「もう、許して…」

「貴女は私のレオ様に追い縋ろうとした。許せるわけがありません」


サビーヌ嬢がレオンスに縋ろうとした瞬間、胸の奥底から怒りが湧いて出た。それこそ自分を悪く言われるより強く激しい怒りだった。

私は自身の頭上に大きな岩石を作り上げた。


「それ…」


さっきサビーヌ嬢が私に投げ付けようとした物と同種の物だ。

ただし大きさは三倍となっている。


「私、一度見せて貰った魔法は自分の物に出来ますから」


アルディ王国に居た頃は見様見真似で魔法の特訓をしていた。その結果、人の使う魔法を自分の物に出来るようになったのだ。

相手を良い気分にさせないことが多いので滅多に使わないですけどね。

逃げ場が少ない氷壁の中、地面に投げ付ければ逃げる間もなく潰されて死ぬだろう。


「逃げるか戦わないかしないと潰れて死に…きゃっ!」


後ろから抱き寄せられる感覚に吃驚して変な声が漏れ出た。巨大岩石は現れた人の放った業火によって消え去る。

抱き締め方も、匂いも、体温も、散々体に教え込まれたのだ。

誰に抱き締められているのか見なくても分かる。


「レオ様、なにをされているのですか…」


氷壁内に姿を現したのはレオンスだった。

誰も入って来れないように侵入阻害の結界を施したはずなのにどうやって入って来たのだろうか。すぐに結界が破られていることに気が付いた。


「勝手に結界を破って…。邪魔しないでください」

「すまない。アリアが『私のレオ様』と独占欲を出してくれたのが嬉しくて…」


見上げるとにやけた表情を向けられた。

確かにあれは独占欲みたいなものから湧いて出た言葉だけど。たったそれだけの理由で邪魔をされるのは微妙な話である。

ここからが良いところだったのに。


「そう不貞腐れるな。私はアリアが化け物扱いをして欲しくないから来たのだ」

「化け物?まだ大したことはしていませんよ」


氷壁を作り、光の矢を降らせ、大きめの岩石を作っただけ。

驚かれるようなことはしていない。

私の言葉にレオンスは困ったように眉を下げた。


「物理も魔法も通さない要塞、無慈悲に降り注がれた光の杭、投げたら周辺一帯が沈み込む隕石を見せたんだ」

「大したことじゃないですよ」

「全部、普通の人間は出来ない」


魔法の師であるエクレール家の母からはこれくらいは出来て当然だと教わったのですけどね。嘘をつかれていたのでしょうか。


「とにかく大切な人が化け物扱いは私が耐えられない。その女を苦しめるのはここまでにしておけ」


レオンスがそう言うなら仕方ない。

彼の腕から抜け出してサビーヌ嬢の前に立つ。


「サビーヌ様。勝負あり、ですわ」


失神寸前のサビーヌに淑女の礼を送った。


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