第48話 波乱のお茶会⑤※書き直しました

「貴様らは何をやっているのだ」


唐突に現れた皇帝陛下の眼光は鋭く、支配者たる圧倒的な空気を身に纏っていた。

凄まじい威圧を浴びせられ誰一人として口を開けないようだ。苦しそうな表情で頭を垂れた。


「レオ、早い到着だったな」


重苦しい空気の中で明るい声を出したのは兄だった。席を立ち上がり、レオンスの背後に立った彼はヘラヘラとふさげた表情をやめて厳しく周囲を睨み付ける。


「レオンス皇帝陛下。ご報告申し上げた通りサビーヌ・ロゼがアリアーヌに関する虚偽の発言を致しました」


兄は臣下としてレオンスに声をかける。

やっぱりずっと連絡を取っていたのですね。

そうでなければレオンスが怒りに身を焦がしながらこの場にやって来るはずがない。


「サビーヌ・ロゼ。頭を上げろ」


レオンスは威圧を身のうちに収めてからサビーヌ嬢に声をかけた。

好きな人に話しかけられたというのに彼女はなかなか頭を上げようとはしない。

おそらく身が竦み上がっていて動けないのだろう。


「頭を上げろと言ったのだ」


更に低い声が響き渡った。

サビーヌ嬢は震えながらゆっくりと頭を上げる。勝ち誇った笑みはどこかに消え去り今にも泣き出しそうに歪んでいた。

先程までの威勢はどこに行ったのでしょうね。


「貴様は私の最愛を陥れようとしたな?」

「ち、違いま…」

「黙れ。誰が声を出して良いと言った」

「ひっ…」


サビーヌの近くに落雷が発生する。

人工的に起こされたそれはレオンスがやったのだろう。


「よく聞け。アリアーヌは罪を犯してはいない。アルディの王太子によって濡れ衣を着せられた挙句に国から追い出されたのだ」


公爵家のご令嬢と国を治める皇帝陛下。

どちらの言葉を信じるのか聞くまでもない。

先程と真逆のことを言われた貴族達は真っ青な顔を白くさせていく。今にも吐きそうだ。

私が弁解しないのを良いことに彼らは言いたい放題だった。終いには皇帝の婚約者に出て行けと言ったのだから罰されることを恐れているのだろう。


「サビーヌ・ロゼ。碌に調べもせず適当な事を言えたものだな。おまけに私が自ら望んで連れて帰った最愛に国から出て行けと言ったそうだな?」


レオンスが私をお持ち帰りした事実を知っているのは当事者である私達とエクレール公爵家、それからごく一部の人間だけだ。

サビーヌ嬢が知らなくても無理ない。彼女は信じられないと目を大きくさせてレオンスを見つめた。


「わ、わたくしはなにもしらな…」

「お前がアリアを陥れようとしたのは今回だけじゃないよな」


震えるサビーヌ嬢に声をかけたのは兄だった。今にも人を殺しそうな目をする彼はゆっくりと彼女に近づいていく。


「お前は幾度ともなくアリアの命を狙おうとした」

「なっ…」

「先日処刑されたオロル伯爵の娘を唆し、アリアーヌに刺客を送らせたのもお前。そして花祭りでもアリアーヌを殺そうと暗殺者を雇った。既に調査は終わっている。言い訳をしても無駄だからな」


オロル伯爵令嬢を唆したのはサビーヌ嬢だったことは私自身も調べがついていたので驚きはしない。

怒りはある。ただ同じ貴族令嬢として彼女の愚かな振る舞いを理解出来ないわけでもないのだ。複雑な気持ちである。

今まで恐怖で黙りこくっていた周囲が騒つき始める。聞こえてくるのはサビーヌ嬢への中傷、暴言ばかりだ。


「アリアーヌ様を嵌めようとした挙句に殺そうとしたのか…」

「オロル伯爵家が潰されたのはあの女のせいか」

「これだから成り上がり公爵家の人間は信用ならない」

「ふざけるな、国を出て行くべきなのは貴様だろう」


どの口が言っているのか。

今にも失神しそうなサビーヌ嬢は立っていることすら出来なった。ふらりと地面に座りそうな彼女を引っ張り上げたのは兄だ。


「お前は敵に回しちゃいけない人間を敵に回したんだ。楽に死ねると思うな」


兄は悪魔の如く顔を歪め、サビーヌに囁いた。

遠くには聞こえない程度の声だった為、聞こえてしまった同席者達は一斉に失神する。

震える足で立ち上がったサビーヌ嬢は勢いよく顔を上げてレオンスを見つめた。


「レオンス皇帝陛下!どうして、何故その女なのですか!私はずっと貴方をお慕いしていたのに!こんなにも愛しているのにどうして私を見てくださらないの!」


狂気じみた告白が木霊する。

レオンスは冷たくサビーヌ嬢を見下ろすだけだった。


「その女がいけないのですね!私からレオンス皇帝を奪った悪女め!あんたなんか死んでしまえば良いのよ!」


サビーヌ嬢の頭上に巨大な岩石が作り上げられていく。

魔法を使って私に攻撃するつもりなのですね。

良いでしょう、相手になってあげますよ。

席を立ち上がり、パチンと指を鳴らせばサビーヌの魔法が一瞬にして消滅する。


「へっ…」


間の抜けた声がサビーヌ嬢から聞こえてきた。表情も呆けたものになっている。

これくらいで驚いてもらっては困るのですけどね。


「サビーヌ様、私の魔法じっくりとお楽しみください」


兄のように上手く出来ているかは分かりませんが悪魔のような微笑みを作ってみせた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る