第46話 波乱のお茶会③※書き直しました

私からの誘いを聞いたサビーヌ嬢は一瞬引き攣った表情をした。

貴族というのは一瞬の隙が命取りになるのだ。社交の場では気を抜くことは出来ない。

サビーヌ嬢は二回も隙を見せてしまっていますね。


「サビーヌ様、どうでしょうか?」

「私もサビーヌ嬢の話が聞きたいな」


甘い笑顔を見せる兄に周りのご令嬢達は熱視線を送り始めた。そしてサビーヌ嬢には彼からの誘いを断るのかと非難めいた視線が注がれる。

会場にいる全員がサビーヌ嬢の味方というわけじゃなさそうだ。

おそらくロゼ公爵家の味方をするよりエクレール公爵家に恩を売った方が良いという打算があるのだろう。もしくは兄に目をかけられたい下心あっての行動かもしれない。

ぼんやりと考えているとサビーヌ嬢はゆっくりと礼をする。


「も、もちろん、ご一緒させて頂きますわ」


吃りながら言うサビーヌ嬢は頭を上げる前に一瞬にやりと口角を上げていた。

どうやらなにか仕掛けてくるみたいですね。

サビーヌ嬢が空席に着いたことによって同席者達が息を吹き返したかのようにくだらない話を開始する。


「サビーヌ様、本日もドレスがよく似合っておりますわ」

「ええ、完璧な淑女とはサビーヌ様の事を指すのですわね」

「サビーヌ様が国母となられたら良かったのに」


くだらない茶番劇を見せられると欠伸をしたくなる。

隣を見ると兄はどうでも良さそうにケーキを頬張っていた。

毒とか大丈夫なのでしょうか。

幼い頃からある程度の毒には慣らされているので死ぬことはない。ただ弱った姿を見せるわけにはいかないので食べることが出来ないのだ。


『食べないのか?』


兄から念話で声をかけられるので毒の話をすると納得したように笑った。

自分だけ食べているのが狡いので後でケーキを奢ってもらいましょう。


『それにしてもいつまでくだらん茶番劇を続ける気だ』

『気になっていたのですが、どうして彼女達はサビーヌに味方するのでしょう』


言い方が最悪ですけど皇帝の婚約者である私にくっ付いて回った方が彼女達にとって利益になるでしょう。

馬鹿な茶番劇を繰り広げる人達にベタベタされたくないので良いですけどね。


『ロゼ公爵家に借りがあるからだろ』

『そうなのですか?』

『向かって右三人の家はそれぞれロゼ公爵家に借金を肩代わりしてもらった過去を持っている』


サビーヌの右隣に座っているのはクリマ伯爵令嬢、ジェル伯爵令嬢、ブリズ子爵令嬢ですね。

父親は真っ当な文官であるが、母親が浪費家で有名な三人です。母親のせいで爵位に合わない生活を余儀なくされているとか。

続いてサビーヌの左隣の顔触れを確認する。


『左側の四人は新興貴族ですわね』

『ああ、成り上がり公爵家に憧れを持っている家の娘達だな』


陞爵した公爵家から国の母である皇妃が輩出されたら他の陞爵した貴族も新興貴族も家の歴史は関係ないと大きな顔が出来るきっかけとなりますからね。

もっと分かり合えたら良いのに。

そう思うけど現実的に考えると難しい話だ。

ふとサビーヌ嬢と目が合う。そしてにこやかに微笑まれた。


「アリアーヌ様はアルディ王国のご出身なのですよね?」


祖国についての話題を出されるとは。

いつかは誰かに言われると思っていたので動揺を顔に出さずに済みました。


「ええ、そうです」


サビーヌはにやりと気味の悪い笑みを深める。

彼女の様子からして婚約破棄と国外追放の件を知っているのでしょうね。

そう思っていると彼女は立ち上がり会場全体に聞こえるような大声を出した。


「皆様!アリアーヌ様は、いえ、アリアーヌはアルディ王国で罪を犯し国外追放を受けた罪人です!」


余計なことを言っちゃいましたね。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る