第45話 波乱のお茶会②
私と兄は立ち上がり、シモーヌ夫人とサビーヌ嬢を笑顔で出迎える。一瞬二人は固まったように見えたが同様に笑顔を向けてきた。
「ジェイド様、アリアーヌ様、ようこそいらっしゃいました。本日のお茶会で主催を務めさせて頂いております、シモーヌ・ロゼと申します。こちらは娘のサビーヌでございます」
「サビーヌ・ロゼでございます」
シモーヌ夫人はともかくサビーヌは私を出迎える気はなさそうですね。
先程から視線を向けるのは兄ばかり。ただ熱視線を送るわけではなく私と目を合わせたくないのだと察する。
「本日はお招き頂きありがとうございます。ジェイド・オノレ・エクレールです」
「本日はお招き頂きありがとうございます。アリアーヌ・エクレールでございます。よろしくお願い致します」
挨拶を終えると二人は去って行く。
去り際にサビーヌ嬢が私の同席者達に視線を送っていたのは意味があるのでしょう。
どのような仕掛けにも臆することなく立ち向かうのがエクレール家の信条です。
着席をするとすぐに会話が始まる。
「アリアーヌ様、サビーヌ様は素敵な方でしょう」
「ええ、そうですわね」
似合わない金色のドレスはどうかと思いましたけどね。
屋敷にも金箔を使っていましたし、道中にあったガゼボのテーブルも金だった。
ロゼ公爵家は金色を使えば豪華に見えると思っているのでしょうか。
はっきり言って趣味が悪いですよ。
勿論、口汚く罵るのは心の中だけです。
「元々レオンス陛下とサビーヌ様が婚約される予定でしたのに…」
「ええ、残念なお話ですわ」
今度はそういう揺さぶりをかけて来るのですか。
別に動揺はしませんが苛立ちはしますよ。
どう足掻いてもレオンスの婚約者は私なのだ。
「ジェイドお兄様、そうなのですか?私が聞いた話によればレオ様の婚約話はなかったそうですけど」
「ああ、なかったよ。レオはずっとアリアと婚約する為に動いていたからな」
私の問いかけの意図を察した兄は完璧な答えを返してくれる。
周囲が聞けば話を盛っているように感じるでしょうが事実なので笑ってしまいますよ。
にっこりと微笑むと兄も真っ黒な笑顔を見せた。きっと他の人から見た私の笑顔も黒いのだろう。その自覚はある。
一頻り微笑み合ったところで同席者達に視線を戻すと全員が気不味そうな表情をする。
「そ、そうでしたっけ…」
「そういえば、サビーヌ様は婚約者候補として名前が挙がって…」
「アリア、周りが勝手に自分がレオの婚約者候補だと名乗りを挙げていたみたいだけどレオ自身は興味すら示していなかったよ。変な勘違いをしないように」
伯爵令嬢の言葉を遮った兄は水を得た魚のように生き生きとしている。
楽しくて仕方ないのでしょうね。
性格が悪いです。
「分かっておりますわ。私はレオ様から愛のお言葉を頂いておりますから。勘違いをするはずがありません」
兄のことを言えないくらい私も性格が悪い。むしろ性格の良い貴族の方が遥かに少ないのだ。
「それもそうだな。先日の花祭りの際も二人仲睦まじく歩いていて、微笑ましくなったよ」
微笑ましくってどの口が言っているのだろうか。
二人の時間を邪魔しましたよね?
目で訴えかけると頭の中に『邪魔するに決まってるだろ』と言う声が響いた。
「は、花祭りに行かれたのですか?」
「平民達の祭りですわよ!」
花祭りは平民が多く参加しているがそれと同じ数だけ外国から観光客も来ている為、国にとっても大事な収入源となっている。
決して馬鹿に出来る催しではないのに。
行ったことがないのか、それとも自分達に国の財政は関係ないと思っているのか彼女達は罵りの言葉を続けた。
「下賤な場所に皇帝を連れて行くとは非常識ですわ」
「不敬にも程がありましてよ」
全くもって面倒な人達だ。
ここにレオンスが居たら既に怒っていそうですね。
「花祭りは伝統ある祭りだ。馬鹿にするのが許される事と思っているのか?」
隣から低い声が聞こえてくる。
そちらを見ると兄の瞳には怒りが浮かび上がっていた。
公爵家に睨まれたくないのか、それとも兄自身に嫌われたくないのかご令嬢達は慌て始めるがその前に私が言葉を発した。
「花祭りに行ったのはレオ様からお誘い頂いたからですわ。初めて行きましたが大変有意義な時間を過ごせました」
真っ昼間から宿屋に連れ込まれてあれこれされましたけどね。それを彼女達に話すのは刺激が強過ぎるので止めておきましょう。
「そのネックレスもレオに買って貰ったのだろう。アリアはレオの色がよく似合うな」
「ありがとうございます、ジェイドお兄様」
馬鹿みたいな自慢話を続けていると同席者達は悔しそうに目を背けた。私一人だけの言葉なら信じてもらうのは面倒でしたが今日はレオンスの親友でもある兄が一緒ですので否定の言葉をかけ辛いのでしょう。
「ご令嬢達もレオに関する面白い話を持っているのかな?」
身を乗り出しながら尋ねる兄は意地悪だ。
なにも言えない彼女達は目を逸らすだけ。
しかしあの程度の嘘で私を出し抜けると本気で思っていたのでしょうか。
彼女達は知らないかもしれませんが幼い頃から王太子の婚約者として育ってきたのですよ、嘘くらい簡単に見抜けます。
完全に黙りこくるご令嬢達の後ろから姿を現したのはサビーヌ嬢だった。
先程からこちらを見ていましたし、耐え切れなくなったのでしょうね。
「サビーヌ様もご一緒にお話しませんか?」
今日一番の悪い笑みを見せた。
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