第44話 波乱のお茶会①※書き直しました
兄ジェイドとその婚約者リシュエンヌが帝都に訪れてから二週間が経過した。
二人は私とレオンスの婚儀が終わるまではこちらにいるそうだ。
そして二人がやって来て以降レオンスに呼び出される回数が増えた。
ほぼ毎日のように皇城に訪れているのだ。
相変わらず原因不明の動悸に襲われることもあるけど最初ほど酷いものじゃないので気にしないようにしている。
ただ激しいスキンシップをされると心臓が壊れそうになるので今のところはキス止まりだ。そのおかげもあって純潔は守れている。
実は本日もレオンスから呼び出されていた。ただ外せない用事があるからと断らせてもらった。
「アリア、準備出来たか?」
「ええ。ジェイドお兄様も準備出来ましたか?」
「おう、ばっちりだ」
部屋に尋ねて来た兄は黒のタキシード姿。私は深い青色のドレスだ。
今日はとある公爵家のお茶会に呼ばれており、兄と一緒に参加する事になっている。その為レオンスの誘いを断ったのだ。
「レオからの誘いを断って良かったのか?わざわざ出向く必要のないお茶会なのに」
「事情があるのです」
「事情?」
「それはまだ秘密です」
唇の前に人差し指を立てて小さく「しーっ!」と声を出す。
「そのポーズは可愛いからやめてくれ」
「訳が分かりません」
よく分からない理由で悶える兄に苦笑いをしながら馬車に向かって歩き出した。
本日私と兄が出向くのはロゼ公爵家。
多くの公爵家が長い歴史を持っていますがロゼ公爵家だけは特殊な存在である。伯爵家から陞爵した過去を持っているからだ。
その過去のせいで多くの高位貴族からは『成り上がり公爵家』『お粗末公爵家』と揶揄されている。
現当主の名はアダミ、夫人の名はシモーヌ、そして二人の兄妹の名前がそれぞれアラミスとサビーヌ。
「で合っていますよね?」
馬車の中、目の前に座る兄に尋ねると大きく頷かれる。
「私達を招いて下さったのはシモーヌ夫人ですわね」
「その通りだ」
シモーヌ夫人は自身が公爵夫人であることを見せびらかす為に様々な催している。
公爵家だから当然という口ぶりだけど実のところは違う。陰口を気にしているからこそ豪華な催しで公爵家をアピールしようとしているのだ。
「本日シモーヌ夫人の補佐を務めているのはサビーヌ嬢であっていますよね?」
「それも正解だ。彼女はレオを好いている。元々レオの婚約者候補として名前が上がっていたからな。選ばれなかった事でお前を恨んでいる可能性がある」
この話は兄が帝都にやって来た日に教えてもらった。知っているからこそ本日のお茶会に出向いたのだ。
婚約者披露式の日ファーストダンスを終えたレオンスに声をかけたのはサビーヌ嬢だった。そしてオロル伯爵家に暗殺を唆したのもおそらくは彼女。もしくはロゼ公爵家だ。
私が敵地に出向くことで彼女達がどう反応するのか見たいから参加するのだ。
もし嫌な絡まれ方を確実に潰してみせましょう。
「アリア、ちょっと怖い顔になっているぞ?」
「気のせいですわ、ジェイドお兄様」
にっこりと微笑むと「やっぱり怖い」と返された。
それから馬車で揺られること約一時間、ロゼ公爵邸に到着する。
兄のエスコートを受けて降りた先に見えたのはやたらと豪華な外観をしている屋敷だった。正門前には二体の獅子もどきの像が眼光鋭く来客者を出迎え、門を抜けた際にあるのは楕円型の立派な噴水、さらにその奥に存在している本館らしき建物は全てが金箔で覆われており黒い屋根を携えている。
新築にも見える本館はあまり趣味が良いとは言えない。
「成り上がりだと馬鹿にされないよう無駄に金をかけているんだ」
本館をじっと見つめていたからか隣から兄が補足をしてくれた。
なるほど、馬鹿にされないように…。
「この外観の方が馬鹿にされませんか?」
「みんな思っている事だ。あまりはっきり言ってやるな」
つまり暗黙の了解ということらしい。
それにしても金箔はないと思うわ。
白壁で荘厳さを見せるエクレール公爵邸と黒壁で威容を誇る皇城ばかりを見ていたせいか無駄に眩い輝きを放っている目の前の屋敷は付け焼き刃のお粗末な物に見えてしまう。
「中に入るぞ」
「ええ」
サビーヌ嬢のことばかり考えていたから忘れかけていたけど披露式で彼女と一緒に居たご令嬢達も招かれているのだろうか。
一瞬ではあったが彼女達の顔も、名前も、家の爵位も覚えている。対処は簡単なはず。
「アリア、今日はあまり俺から離れるなよ。お前の身に何かあったら俺がレオに殺される」
「心配してくれているのですか?」
「当たり前だ。ロゼ公爵家はエクレール公爵家を目の敵にしている節がある。表向きは笑顔で交流を続けているけどな」
「どうして目の敵にしているのですか?」
「うちは歴史ある名家、皇族に継ぐ権力を持っている。ただの妬みだろ」
どこの国にも睨み合う貴族達は存在する。
同じ国の仲間なのだからもっと仲良くすれば良いのに。
これはあくまで理想論だ。現実はそこまで甘くない。裏ではどろどろした駆け引きが行われているのを私もよく知っている。
「さてお喋りはここまでだ。気合いを入れろよ」
「分かりましたわ」
お茶会の会場はロゼ公爵邸の庭園。
色とりどりの薔薇が咲き誇るそこは噎せてしまいそうな強い匂いとひりついた空気を纏っており自然と背筋が伸びた。
会場に足を踏み入れると既に入場を終えていた貴族達からの視線が一瞬でこちらに向く。
羨望、好奇、色情あるいは憎悪。
分かりやすい視線を送ってくれるのは敵味方の判断が簡単だ。扱いやすくもあるのでどんどん送ってもらって構わない。
ただ感情をひた隠しにされるとなかなかに厄介ものだ。
今日の会場には居ないみたいですけどね。
案内を受けた席の顔ぶれを見ると悪意が篭っているとしか思えなかった。
全員がサビーヌとよく一緒にいる友人、口汚く言うなら彼女の取り巻きだったのだ。
『ジェイドお兄様』
『どうした?』
念話の魔法を使って隣に座る兄に声をかけるとすぐに返答がやって来る。
『同席者は全員敵です』
『だろうな。敵意を隠し切れていない』
『お兄様には色情の視線を送っているみたいですけどね』
『やめてくれ。俺は婚約者一筋だ』
お互いに視線は交わさないし、表情も変えない。
端から見れば澄まし顔の兄妹がいるだけだ。
『嫌がらせの主犯が来たぞ。笑顔で挨拶をしてやれ』
『勿論』
兄が微かに向けた視線の先に居たのはお茶会の主催者であるシモーヌ夫人とサビーヌ嬢だった。
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