第27話 休憩⑤

レオンスと入れ替わるように入ってきたウラリーは乱れきった私の姿を確認すると震え出した。


「ウラリー?」

「あの馬鹿殿下…。いや、今は陛下だったわね。後で説教してあげるわ」


いきなり低い声を出すウラリーに固まっていると彼女は私の肩をしっかりと掴み、にっこりと笑った。

笑顔なのにちょっとだけ怖い。


「アリア様、もう少しだけ危機感を持ってください」

「え?」

「あの馬鹿陛下は獣です。このままでは婚姻される前にぺろりと食べられてしまいますよ!」


勢いよく言われて苦笑いになる。

彼女の言っている意味が分からないほど初心ではないがもう色々と手遅れな気がする。

ただレオンスは結婚するまで私を抱かないと…。

あれ?約束してもらったっけ?


「良いですか、アリア様。あれに流されてはいけません。もっとご自身を大切にしてください!」

「えっと……はい。分かりました」


ウラリーの気迫に負けて思わず返事をしてしまう。

手短に私の支度を済ませた彼女は「ちょっと陛下のところに行ってきますのでアリア様は待っていてください」と言って部屋を出て行った。


「レオ、大丈夫かしら」


明らかに説教をしてくると言った風に出て行ったウラリーを見て小さく呟いた。

少し経ってから聞こえてきたのは彼女の怒声。叱られているのはレオンスだ。

変態、馬鹿、間抜けなど皇帝に浴びせてはいけない単語が聞こえてくる。


「ウラリー、凄いわね…」


やっぱり彼女の怒りに触れるのは良くないのだと改めて教訓を得た。


「失礼します…」


ウラリーの説教が終わるのを待っていると部屋に入ってきたのはぐったりした様子のレナールだった。扉を開けっ放しにしているのは不貞を疑われないようにする為だろう。


「どうしたの?」

「ウラリーさんの説教が強烈で避難を……あ、いえ、なんでもありません」

「そこまで言っちゃったら誤魔化せないと思うけど」


ウラリーがレオンスを叱る事が出来るのは乳母だったからだろう。

ぼんやりと考えているとレナールが申し訳なさそうな顔をする。


「そうですよね。申し訳ありません」


ぐったりしたまま力なく頭を下げるレナールに椅子に座るよう勧める。


「ねぇ、レナール。一つ聞きたいことがあるの」


ベッドに腰掛ける私から離れるように扉の側に椅子を置き、座った彼に声をかけた。

彼ならレオンスの一人称について知っていると思ったからだ。


「私に答えられる事であれば何でもお答えしましょう」

「レオ様の一人称って私よね?」

「そうですね?」


それがどうかしましたか?と聞いてきそうな表情を見せられる。


「時々俺って言うのだけど…あっちが素なのかしら?」


尋ねるとレナールは目を大きく開いた。そして柔らかく緩めていく。

生温かい視線に若干の居心地の悪さを感じた。


「陛下はアリアーヌ様を本当に愛されているのですね」

「え?」

「一人称の件に関しては本人から聞くのが一番かと」

「どういう事?」

「秘密です」


自身の唇の前に人差し指を立てて笑うレナールはどこか楽しそうだった。

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