第25話 休憩②
まだお昼時で、外は明るくお祭りを楽しむ人々で溢れ返っている。たった数分前まで私達もその一員であったはずなのに。
カーテンが閉じられた部屋は薄暗く、それでいて私達の行為によって熱気に満ちていた。
「んっ、はっ…」
レオンスの膝の上に向き合うように座っている私は彼から与えられる口付けをただ受け入れていた。
彼の首後ろを軽く引っ掻く。いつの間にかこれが解放の合図になっていたからだ。
「んぅっ…!」
行ったり来たりを繰り返して、どちらのものか分からなくなった唾液を舌ごと吸われて体がびくりと震えた。ゆっくりと時間をかけて離れていった彼は物足りないと劣情に満ちた瞳で訴えかけてくる。そして再び唇がくっ付こうとした瞬間、私は顔を逸らした。
「ちょ、ちょっと待ってください…」
「何故だ」
「息が続かないんです!」
鍛えているからか肺活量があり、キスの主導権を握っているレオンスと違って私はすぐに息が乱れて苦しくなってしまう。
適度に休みを貰わないと苦しくて仕方ないのだ。
それを伝えるとレオンスは渋々ながらも納得してくれたらしい。
「分かった。じゃあ、今度はアリアが主導権を握って良いぞ。丁度アリアからもキスをしてほしいと思っていたからな」
なにも分かってないでしょ、この人。
こちらが困っているというのに期待に満ちた顔をしてくるレオンス。よく考えてみたら自分から彼に口付けをしたことはない。しようと考えたこともなかった。
「ほら、早く」
「えっと、その…」
「アリアがしないなら私からするぞ」
ずいっと距離を詰めて唇がくっ付く直前で止まるレオンスにこのまましてくれても良かったのにと思ってしまうあたり私も彼との口付けが好きなのだろう。
「……下手でも笑いませんか?」
「構わない」
自分からするのは初めてだ。
上手く出来る自信はないがレオンスが望むならと唇をくっ付けた。
自分からするのってされるより恥ずかしい…。
薄っすらと開いたレオンスの口の中に舌をおそるおそる忍び込ませ、控えていた彼の舌に触れる。
「んっ…んっ…」
頑張ってはいるが上手く動かせない。
ぎゅっと瞑っていた瞼を開くとレオンスは目を細めて笑っていた。
慌てて口を離して文句を言う。
「わ、笑わないって約束しましたよね!」
「いや、すまない。頑張って私にキスをしてくれるアリアが可愛すぎて、つい…」
「もう二度としません!」
顔を真っ赤にして怒るとレオンスは焦った表情を見せた。
「わ、悪かった。許してくれ」
必死になって何度も謝ってくるレオンスはまるで悪いことをして謝る子供のようだ。必死すぎて天下の皇帝陛下様とは思えない姿に思わず笑ってしまう。
下げられた頭をそっと撫でればレオンスは申し訳なさそうに私を見上げる。
「もう怒っていませんから」
「本当か?」
「はい」
さっきまで恥ずかしがっていた自分からの口付けを今度はあっさりとすることが出来た。驚きに揺れる黄金は次第に緩められていく。
「今度はレオからしてください」
「ああ」
唇が触れ合い、舌が絡み合った瞬間、体が浮かび上がりぐるりと回転した。
ぎしりとベッドが軋む音が響いたのと同時に後頭部や背中が柔らかいものに包まれた。
突然のことに驚き、閉じていた目を開くと視界には天井とレオが映っていた。
「アリア」
うっとりと私を見つめるレオンス。
自分が押し倒されていることに気がついたのはその時だった。
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