第24話 休憩①

「誰かにつけられるな」


人混みを歩ている最中ぴたりと足を止めたレオンスが呟く。

確かに先ほどから不躾な視線を向けられている。ただこの人混みの中にいる私達をどうこうしようという雰囲気は向こうからは感じられない。だから敢えて言わなかったのだけどレオンスは気になるようだ。


「暗殺者の類いでしょうか」

「おそらくな」


一応変装をしているつもりだったがどうやら見抜かれていたらしい。

私達が足を止めている間、向こうも足を止めてじっとこちらを見据えている。


「どうしますか?」

「レナール達には既に伝えた。すぐに捕まるだろう」


その言葉を聞いてホッとする。

皇城の警備隊は優秀な人物ばかりだ。花祭りの楽しい空気を壊すことなく捕まえてくれるだろう。


「アレが捕まるまでの間、私達は休憩しよう」

「そうですね」


私の手を引いてレオンスは路地裏に向かった。人混みを外れたところに行ったら暗殺者がついて来るだけだと思うのだけど、わざと誘い出しているのだろうか。


「わざと誘い出してるんだ」

「そうですよね」

「皆が楽しんでいる中で興醒めな逮捕劇を繰り広げたくないからな」


民への配慮を欠かなさないレオンスに感心していると連れて来られたのは宿屋だった。

何故、宿屋?

疑問に思っている私を他所にレオンスは部屋を取り始める。連れられて入ったのは二階の一番奥にあるやたらと豪華な部屋だった。


「あ、あの…どうして宿屋に…?」

「不特定多数が集まるレストランよりこっちの方がゆっくり出来るだろう」


そう笑ったレオンスは侵入防止の結界を作り上げていた。先ほど私達を付けていた暗殺者に配慮しての事だろうけど防音結界は要らないのでは?と思う。

それに室内の豪華さからして休憩の為に取るような部屋じゃないのは明白だ。

レオンスはなにを考えているのかしら。


「アリア、こっちに座ろう」


レオンスが腰掛けたのは窓際にあるソファではなくベッドだった。


「レオ、なにをする気ですか…」

「休憩だ」


レオンスはベッド脇に立っていた私の手を引っ張り、膝の上に乗せた。もうここまでくれば彼がなにをする気なのか分かる。

分かってしまうけど…。


「い、今はそんなことをしている場合じゃないでしょう」

「どうせ暗殺者が捕まるまでここからは出られない。向こうも入ってくることは出来ない。なら、良いだろう?」


良いだろう?じゃないと思う。

レオンスとのキスは嫌じゃないけど時と場所を考えてほしい。そうは思っても彼の昂った瞳を見ると拒むことが出来ないのが私だ。

腰に回った腕の力が強まり身体が密着する。

閉じた唇に指を押し付けられ、何度も撫でられた。早く触れたいっていうのがよく伝わってきて恥ずかしくなる。


「アリア、許可をくれ」

「…っ、もう狡いです」

「狡くて悪いな」


笑顔を見せた彼の首に腕を回して小さな声で許可を出した。

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