第23話 デート

「凄い賑わいですね」

「花祭りの時期はいつも人が集まるからな」


婚儀を一ヶ月後に控えた今日はレオンスと一緒に城下町で行われる『花祭り』と呼ばれるお祭りに来ている。

年に一度の大規模な催し。各地から観光客が訪れている為、賑わいを見せているのだ。


「露店の数も多いですね」

「ああ、今回は五百を超えているはずだ」


出店している露店の数を聞いて、がっくりと肩を落とす。どうせだったら全て回りたいのだけど無理そうだ。


「全部見て回るのは難しそうですね」

「花祭りは三日間ある。毎日来れば回れると思うぞ」

「うーん、考えておきます」


お祭りは嫌いじゃないけど人混みはあまり得意な方ではない。

毎日というのは疲れてしまうだろう。


「アリアが良ければ毎日連れて来てやる」

「申し訳ないので駄目です」

「遠慮しなくても良いぞ」


遠慮ではない。

三日間も皇帝を外に連れ出すわけにはいかないのだ。

ただ露店は見て回りたいので明日は母と一緒に来ようかと思ったところでレオンスに手を引かれた。


「さぁ、回ろう」

「はい」


ぴったりと寄り添って歩くレオンス。手を繋ぐのは良いけど指を絡める必要はあるのだろうか。

繋がった自分達の手を眺めながらそう思っていると彼の足がぴたりと止まる。じっと眺めている方を見るとそこにはアクセサリーを扱っている露店があった。


「アリア、この中で欲しい物はあるか?」


置いてあるアクセサリーを眺めると貴族が持っていても遜色ないほど精巧に作り上げられた綺麗な物ばかりだ。それぞれに嵌められている石は魔法石を使用している為、興味が惹かれる。

一つくらい買っても良さそうだと手に取ったのはハート型をした魔法石が嵌ったネックレスだった。


「それが欲しいのか?」

「可愛いなと思いまして」


付与されているのは触れた物の毒を消す魔法らしい。

なかなかに便利な魔法だ。

ネックレスを眺めて頰を緩ませていると隣から深い溜め息が聞こえてくる。


「……アリア、それは天然でやってるのか?」

「え?」

「私の髪色と瞳の色をした物を身に付けたいと思ってくれてるのか?」


ネックレスの鎖とフレームはレオンスの瞳と同じ黄金で彩られている。魔法石の色は彼の髪色である黒だった。

確かにレオンスの分身のような存在だ。

そういうわけじゃなかったのだけど…。

嬉しそうに目を細めるレオンスに恥ずかしくなる。


「あの、ちが…」


違うと言おうと思った時にはレオンスは上機嫌に支払いを済ませていた。


「付けてやる」


手に持ったままだったネックレスを持ち上げられて首に付けられる。首筋に彼の指が触れて「ん…」と艶やかな声を漏らしてしまった。


「あまり可愛い声を出すな。襲いたくなる」


耳元で囁かれた言葉に全身の熱が上がる。

こっちが恥ずかしくなっているというのに離れたレオンスは満面の笑みだ。


「よく似合っている」

「あ、ありがとうございます…」


揶揄われたような気がするがネックレスを買ってもらったのは事実だ。お礼を言うと彼は満足気に頷いた。




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