第22話 変化する気持ち
オロル伯爵令嬢が私を狙った動機は急に現れた私が皇帝の妃となるのが許せなかったからという想像に容易いもの。
捕縛後、伯爵一家の処罰は速やかに行われた。
貴族の一部から刑が重すぎるのではないかという声も上がったがレオンスが決定を覆すこともなく令嬢は処刑、伯爵夫妻は財産没収後に鉱山送りとなった。
次期皇妃が狙われる事件は世間を大きく騒がせたが二週間が過ぎた今落ち着きを見せ始めている。当事者である私はまだあの事件が気になっていた。
オロル伯爵令嬢のあの発言は…。
彼女がレオンスの執務室から連れ出される際に呟いていた一言を思い出す。
『聞いていた計画と違う…』
あの言葉が真実だとすると彼女は誰かに暗殺計画を唆されて身の破滅を招いたことになる。今もその背後に居た人物の尻尾を掴めていないのはここ最近暗殺者が姿を見せないから。これまで狙って来た全員がオロル伯爵令嬢の差金だったという可能性も捨てきれないがおそらく別人の仕業。彼女の公開処刑があったから今は大人しくしているだけと考えるのが無難だ。命を狙われないことに越したことはないけど早く捕まえてしまいたい。
「アリア?」
姿の見えない敵について考えていると執務机から顔を上げたレオンスに声をかけられる。
「こちらから呼び出しておいて退屈させてすまない」
「いえ、大丈夫ですよ」
今日はレオンスにお茶をしようと誘われて皇城に来ている。私が到着してすぐに急ぎの案件が入ってしまい終わるのを待っているのだ。執務室で待つのはどうかと思ったのだけど彼から「側に居て欲しい」とお願いされて今に至る。
「そろそろ終わりそうだからもう少し待っていてくれ」
「ゆっくりで大丈夫ですよ」
「さっさと終わらせてアリアとのんびりしたいだけだ」
相変わらず好意を隠さない姿に頰を緩めた。
単純と思われるかもしれないがここ最近レオンスを意識し始めている自分がいる。これが恋かと聞かれたら正直なところ分からない。私にはその経験がないから判別出来ないのだ。
ただ彼の側に居ると幸せを感じることが出来る。最初は仕方なくで受け入れた結婚話ではあったが今は私も彼との結婚を望んでいる。だからこそ誰かに殺されるのは避けたい。
今は平気でも警戒はしておくべきね。
ふと頭に過ったのは婚約披露式の時にレオンスに声をかけていた公爵令嬢とその友人たち。犯人だと疑う証拠は今のところないが改めて彼女たちのことを調べてみた方が良さそうだ。
「アリア、また考え事か?」
後ろから抱き締められて吃驚する。振り返ると悪戯に成功した子供のような笑みを見せるレオンスがいた。どうやらやるべきことは終わったらしい。
「アリアがぼんやりしているのはいつもの事だが今日は様子が違うな」
「よく見ているんですね」
「勿論だ、好きな人の事だからな」
首に顔を埋められて擽ったさに身を捩った。逃げようとしたと勘違いしたのかさらに強く抱きしめられてしまう。
「レオ、擽ったいです」
「疲れたんだ。癒してくれ」
耳元で囁いたレオンスは器用にも後ろから私を抱き上げてくる。熱の籠った視線を送られて、なにも聞かれていないのに「良いですよ」と許可を出すと笑顔を返された。顎を持ち上げられてちゅっと短い音を立てながら口付けを落とされる。
「んっ…」
段々と深くなっていくそれにレオンスの首に腕を回して応える。相変わらず彼のキスは気持ちが良い。息が苦しくなって解放を強請るとゆっくりと離れていく。銀色に光る糸がぷつりと切れるのが見えて行為の激しさを物語った。
こればかりは何度見ても慣れない光景だ。
「………まだしますか?」
「いや、お茶にしよう。ウラリーに怒られたくないからな」
前にレオンスからお茶の誘いを受けた際、淹れてもらった紅茶も飲まずキスに耽っていたことがある。結局ウラリーに見つかってしまい。
「毎回毎回アリア様を乱さないでください。エクレール公爵に言いつけますよ」
悪魔のような形相で怒られた時のことを思い出しているのだろう。苦笑いを見せるレオンスに頷いた。
「そうですね」
こつんと額を合わせて笑い合う。
敵が誰であろうとレオンスとの幸せな時間を奪わせない。その為には私のやるべきことをやらないとね。
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