第22話 変化する気持ち

オロル伯爵一家の処刑が行われてから二週間が立った。

次期皇妃が狙われる時間は世間を騒がせたが今はもう落ち着きを見せている。

オロル伯爵令嬢が私を狙った動機は急に現れた私が皇帝の妃となるのが許せなかったからという想像に容易いものである。


「でも、あの発言は…」


オロル伯爵令嬢がレオンスの執務室から連れ出される際に呟いていた一言を思い出す。

『聞いていた計画と違う…』

あの言葉が真実だとするとオロル伯爵令嬢は誰かに暗殺計画を唆されて身の破滅を招いたことになる。

皇帝の婚約者。

その立場から命を狙われる事は覚悟していたけど、見えない敵を探すのは厄介だ。


「アリア?」


ぼんやりと見えない敵について考えていると執務机から顔を上げたレオンスに声をかけられる。


「こちらから呼び出しておいて退屈させてすまない」

「いえ、大丈夫です」


今日はレオンスにのんびりお茶をしようと誘われて皇城に来ている。しかし彼に急な公務が入ってしまい終わるのを待っているのだ。執務室で待つのはどうかと思ったのだけど彼から「側にいてくれ」とお願いされたのでここにいる。


「そうか。そろそろ終わりそうだからもう少し待っていてくれ」

「ゆっくりで大丈夫ですよ」

「嫌だ。さっさと終わらせてアリアとのんびりしたいからな」


嬉しそうに笑うレオンス。

相変わらず彼からの好意は直球だ。単純だと思われるが彼を意識し始めている自分がいる。これが恋かと聞かれたら分からない。ただ彼の側にいると幸せを感じるのだ。最初は断れず受け入れた結婚話ではあったが今は私も彼との結婚を望んでいる。だからこそ誰かに殺されるのは避けたい。


「警戒はしておくべきね」


ふと頭に過ったのは婚約披露式の時にレオンスに声をかけていた公爵令嬢とその友人達。彼女達の事は改めて調べてみた方が良さそうだ。


「アリア、また考え事か?」


後ろから抱き締められて吃驚する。

振り返ると悪戯に成功した子供のような笑みを見せるレオンスがいた。

どうやら公務は終わったらしい。


「アリアがぼんやりしているのはいつもの事だが今日は様子が違うな」

「よく見ているんですね」

「ああ、好きな人の事だからな」


首に顔を埋められる。擽ったさに身を捩っま。逃げようとしたと勘違いしたのかさらに強く抱き締められてしまう。


「レオ、擽ったいです」

「疲れたんだ。癒してくれ」


そう言ったレオンスは器用にも後ろから私を抱き上げてくる。熱の籠った視線を送られて、何も聞かれていないのに「良いですよ」と言うと笑われた。

ちゅっと短い音を立てて口付けを落とされる。


「んっ…」


段々と深くなっていくそれにレオンスの首に腕を回して応える。

相変わらず彼のキスは気持ちがいい。

息が苦しくなって、解放を強請るとゆっくりと離れていく。銀色に光る糸がぷつりと切れるのが見えて行為の激しさを物語った。


「まだしますか?」

「いや、お茶にしよう。ウラリーに怒られたくないからな」


前にお茶の誘いを受けた際、紅茶も飲まずキスに耽っていたことがある。結局ウラリーに見つかって「毎回毎回アリア様を乱さないでください。エクレール公爵に言い付けますよ」と怒られた時のことを思い出しているのだろう。

苦笑いを見せるレオンスに頷いた。


「そうですね」


こつんと額を合わせて笑い合う。

敵が誰であろうとレオンスとの幸せな時間を奪わせない。

心に決めた瞬間だった。

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