第21話 処罰②
狙われた当事者である私はオロル伯爵一家と会うことを許してもらえなかった。代わりレオンスと伯爵家の会話を聞くことだけは許可してもらえたのだ。
レオンスの指示を受けて彼の執務室の隣にある寝室に入るとウラリーが待っていた。
「アリア様。こちらにお掛けください」
「ありがとう」
ウラリーが持ってきてくれた椅子を執務室に続く扉の側に置いた。隣の部屋の声が聞こえるように聴覚に強化魔法をかける。程なくしてオロル伯爵一家はレオンスの執務室を訪れた。
「座れ」
軽い挨拶を終えた後、伯爵達に座るよう指示を出すレオンスの声は低いもの。表情は見えないがおそらく無表情なのだろう。
「早速だが何故呼び出されたか分かるか?」
「いえ…」
レオンスの問いかけに戸惑った声を出したのは男性だった。オロル伯爵だ。彼に続いて「わたくしも分かりません」と答えたのは落ち着いた声を持つ女性。おそらく伯爵夫人だろう。
二人の証言が嘘じゃないとするとオロル伯爵令嬢の独断で暗殺者を用意したことになる。
「では、オロル伯爵令嬢は?」
「わ、私も分かりません」
顔を見なくてもオロル伯爵令嬢の動揺が伝わってくる。
私に暗殺者を嗾けた張本人だ。呼ばれた理由を察しているのだろう。
「そうか」
冷め切ったレオンスの声が聞こえてくる。
ソファの背にもたれ掛かったのか軋むような音が響いた。
「本日、私の婚約者の命が狙われた」
単刀直入に言うレオンスにオロル伯爵と夫人は揃って動揺の声を上げた。令嬢だけは言葉を発していないがどんな顔をしているかは想像が出来る。
歪み切った表情だろう。
「暗殺者を取り調べたところとある令嬢に雇われたそうだ」
「なっ…!」
呼び出されて、本来なら秘密裏にするべき話をされたのだ。鈍感な人間ではない限り、その令嬢が誰か分かるだろう。
令嬢を責めるような伯爵の声が聞こえてくる。
「お前、エクレール公爵令嬢を殺そうとしたのか!」
「し、知りません…!その暗殺者は嘘をついているのです!」
狼狽えている時点で自分が犯人だと言っているようなものだ。
伯爵家の言い争う声が聞こえてくる。
彼らの目の前に座っているレオンスは言葉を発さない。何を考えているのだろうかと首を傾げる。
「え、エクレール公爵令嬢の自作自演かもしれないじゃないですか!」
は?と声が漏れた。
不安そうな表情を見せたウラリーから「どうかされましか?」と尋ねられる。
「いえ、なんでもありません」
心配をかけないように笑顔で返した。
娘の言葉を鵜呑みにした伯爵と夫人が「きっとそうだな」「陛下の気を引きたかっただけですわ」と阿呆発言を連発している。
これは庇いようがないと溜め息を吐いた。
「ふざけるな」
レオンスの怒気を含む低い声が響いた。
隣の部屋から強い魔力を感じる。おそらくレオンスが魔力を使って彼らに威圧をかけているのだろう。
伯爵一家は言葉を発さなくなった。いや、彼の威圧を受けて口を動かせないだろう。
「私のアリアがそのような愚かな振る舞いをするわけがないだろう。貴様が犯人である事は明白だ」
オロル伯爵令嬢を睨みながら言っているのだろう。
それにしても『私のアリア』と言うのはどうなのだろうか。
ふと隣を見るとウラリーが顔色を悪くしていた。おそらくレオンスの威圧が彼女にも効いているのだろう。
私は魔法障壁を彼女の周りに作り上げた。
「大丈夫?あまり無理をしないでね」
微笑みかけると驚いた顔を向けられる。
「あ、ありがとうございます」
「今の私に出来ることはこれくらいしかありませんから」
隣の部屋に行ってレオンスを止められたら良いのだけど私にその権利はない。
大人しく彼らの会話が終わるのを待つしかないのだ。
「陛下の魔力を防げるとは…。アリア様は凄い人なのですね」
「そうですか?」
「はい、凄いです」
今レオンスから放たれている魔力量は多めだけど、それなりの魔法師であれば防げるはず。
そこまで凄いことをしているようには思えないのだけど。って今はそこを気にしている場合じゃない。
意識をレオンス達のいる部屋に向けた。
「貴様は罪を告白するどころかアリアに罪を着せようとしたな?」
「そ、それは…」
「誰が話して良いと言った」
レオンスの怒りが感じられる。
彼は私の為に怒ってくれているのだ。
そう思うと胸の奥の方がぎゅっと締め付けられた。
「我が妃の命を狙う事は私の命を狙う事と同義だ。よってオロル伯爵令嬢を死刑とする。また娘の暴挙を止められなかったオロル伯爵、夫人も死刑と処す」
伯爵達の阿鼻叫喚が聞こえてくる。
愚かにも皇帝陛下の前で「私達は関係ありません」「娘が勝手にやった事です」と保身に走るオロル伯爵夫妻。
当然ではあるがそれをレオンスが聞き入れる事はなかった。
警備隊に連れ出されるオロル伯爵一家。
「聞いていた計画と違う…」
聴力に強化魔法をかけていた私だけがオロル伯爵令嬢の呟きを聞いていた。
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