第20話 処罰①

「陛下、よろしいですか?」


部屋の扉を叩いたのはレナールだった。

レオンスは絡み合っていた舌を抜き、ぴったりとくっ付いていた唇を離して「入れ」と入室を許可する。


「大丈夫か?」

「すみません…」


力抜けて落ちそうになった私を抱え直してくれたレオンスにお礼を言うが、よく考えたら彼のせいでこうなったのだから感謝する必要はなかった。

すっかり蕩けきった顔をレオンス以外の誰かに見られたくなくて彼の胸に顔を埋めていると扉が開く音が聞こえてくる。


「失礼します」


視線を感じる。

こんなにくっ付いてふしだらだと思われているのだろうか。いや、ふしだらとも言える行為をしていたので指摘されたところで否定は出来ないのだけど。

さっきまでの行為が脳裏に浮かび羞恥心に身が震えた。優しく包み込むように抱き締めてくれたのはレオンスだ。


「あまり見るな」

「…も、申し訳ありません」


レナールはいつも淡々と無表情で仕事をする人間である為、焦ったような声を聞いたのは初めてだ。

どんな顔をしているのだろうとこっそり覗き込むと彼は頬を赤くしていた。

一体なにが彼をそうさせたというのだろうか?


「レナール、顔が赤いみたいですけど風邪ですか?」

「違う。アリアの色香に当てられただけだ」


レナールに問いかけたのに答えを返して来たのはレオンスだった。そのすぐ後に私の顔を隠すように抱き締めてくる。

色香に当てられたって…私に色気はないのに。

戸惑う私の隣でレオンス達の会話は続けられた。


「レナール、報告を済ませてさっさと出ろ」

「は。アリアーヌ様を狙った犯人を雇った人物ですが…」


レナールから告げられたのは襲撃者を雇ったオロル令嬢の名前だった。

元々知っていたことなので大した驚きはないがレオンスを見上げると恐ろしいほど無表情だ。


「レナール、今すぐオロル伯爵と夫人、それから娘を呼び出せ」

「畏まりました」


感情が乗っていない低い声に驚く。

レナールが部屋を出て行くとレオンスは抱き締めていた腕の力を弱めた。


「レオ、彼らをどうするおつもりですか?」

「伯爵家は取り潰し。呼び出した三人は死刑とする」


抑揚のない声で答えるレオンスに表情を歪めた。

アルディ王国と違ってフォルス帝国には死刑制度が存在している。

死刑方法は様々であるが多くが公開処刑だ。

見せしめとして用いられているが刺激を求める市民達の為の見世物としての意味も持っていると習っている。


「私の婚約者に手を出そうとしたのだから当然だ」


皇帝の婚約者の命を狙おうとすることは重罪だ。仮に婚約者でなくとも伯爵家が公爵家を狙う時点でそれなりの罰が与えられる。

それを踏まえるとレオンスの決定は間違っていないのだろう。

ただ十八年間も死刑制度のない国で暮らしてみれば罪悪感が芽生える決定だ。

それを察してくれたのかレオンスは気遣うように抱き締めてくれた。


「彼らは自分達で身を滅ぼしたのだ。アリアが気に病む事はない」

「分かっております…」


死刑制度の存在するフォルス帝国の皇妃となるのだ。こういう事態も受け入れられる冷酷な心も必要不可欠なのだろう。

無理やり自分に言い聞かせた。

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