第18話 暗殺者②
急に現れた皇帝の存在に暗殺者は恐れ慄く。顔を青褪めさせ口をぱくぱくさせる姿は見ていて可哀想だと思うほどに哀れな姿だった。
「アリア、護衛を置いて何をしているんだ」
後ろから抱きしめてくるレオンスに尋ねられる。囁くように聞いてくるせいで耳に息がかかって少しだけ擽ったい。
「レオ様こそどうしてこちらに?」
「アリアが居なくなったと知らせが届いたから迎えに来たに決まってるだろう。影まで置いて行くとは良い度胸だ」
密かに護衛している影をレオンスが用意している事は知っていたし、彼なりの配慮だと見て見ぬ振りをしていた。護衛だけじゃなくその影まで置いてここまで来てしまったからすぐにレオンスに連絡が行ったのだろう。
「半泣きで私に連絡して来たぞ」
「それは申し訳ないことをしましたね」
「あいつらが不甲斐ないから置いて行かれるのだ」
転移魔法を使った私を追いかけるのも簡単なことじゃないと思うけど。
「あまり彼らを責めないであげてくださいね」
「………考えておく」
考えなさそうだなと改めて護衛たちに申し訳ない気持ちになった。
「よくここが分かりましたね」
「転移魔法の痕跡が残っていたからな。特定するのは簡単だ」
「そんなことを言うのはレオ様くらいですよ」
普通なら簡単には出来ませんからね。
大魔法師のレオンスだから出来ることだ。
改めて婚約者の凄さを認識していると抱きしめられる力が強まる。
「この私に心配かけるとは困った婚約者だな」
「申し訳ありません。すぐに帰るつもりだったのですけど」
「せめて影は連れて行け。じゃないと行動に制限をかけないといけなくなるぞ」
「それは嫌ですね」
皇妃になった時点で今持っている自由は奪われてしまうだろう。別にそれが嫌なわけじゃない。それでもせめて今くらいは自由に過ごしていたいのだ。苦笑いを見せると「嫌なら私の言う事を聞け」と頭を撫でられる。
この人、暗殺者のこと忘れてませんか?
「レオ様、あの人のことはどうなさるおつもりですか?」
レオンスから暗殺者に視線を移す。いつの間にか失神していた彼に指を差して尋ねた。
「勿論殺す」
「私はなにもされていませんよ」
むしろ私が色々としてしまったような。
正当防衛にしてはやり過ぎた感が否めない行動を思い出していると「馬鹿者」と叱る声が飛んでくる。
「そういう問題じゃない事くらい分かっているだろ」
分かっている。皇帝の婚約者が狙われたという事実がある時点で駄目なのだろう。しかしなにもしていないのに殺されるというのは微妙なところだ。しかし皇帝である彼に逆らうことは出来ない。大人しく従うしかないのだろう。
「奴の処罰はこちらに任せてもらう。それよりアリアはもっと危機感を持て」
「魔力を大して持っていない人に負けるほど私は弱くありませんよ」
これまで勝てそうにないと思った相手はエクレール家の両親とレオンスくらいだ。
彼ら並みの人間が私を狙うとは思えない。
「負ける心配をしているんじゃない」
「ならそんなに心配なさらなくても」
「するに決まってるだろ、君は私の唯一なのだ。知らないところで傷の一つでも付けられてみろ、私は大暴れするぞ」
「この国に住まう民達に迷惑がかかってしまうのでやめてください」
彼が大暴れすれば帝国だけじゃなく周辺諸国にも被害が及ぶだろう。それだけは避けなければいけない。
「勝手に居なくならないでくれ。危機感を持って欲しい」
「分かりましたから離れてください」
「嫌だ」
「とりあえず一旦帰りませんか?皇帝不在は不味いでしょう」
説得するように言えばレオンスは私の首元に擦り付けるように顔を縦に振る。レオンスの転移魔法によって私と気絶している暗殺者が連れて来られたのは元々居た図書館ではなく皇城だった。
「私に付いてくれていた護衛の方々は?」
「既に帰らせている」
謝罪をしたかったのですけど。後日正式に謝罪させてもらいましょう。
決めている間に暗殺者はレナールと共にやってきた警備隊に連れて行かれた。これから彼がどのような尋問を受けるか分からないがレオンスの口ぶりからして二度と日の目を見ることはないのだろう。
「それでは私も帰らせて…」
「駄目に決まっているだろう」
振り返り帰ろうとするとレオンスに肩を掴まれた。
「でも…」
「アリアは身勝手な行動を取って私に心配をかけたからな」
楽しそうに笑うレオンスに嫌な予感がした。
「お仕置きだ」
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