第14話 婚約披露式の日です②
「アリア」
愛おしそうに名前を呼ばれて更に強く抱き締められる。
この一ヶ月でレオンスの気持ちは全身に教え込まれた。
会えば必ず愛の言葉を囁かれ、会えない時でも愛の手紙や贈り物は欠かさず届いた。
彼の気持ちは疑いようもないほど重く熱いものだ。
「レオ、少し離れてください…」
「嫌だ」
顎を掴まれ顔を上に向かされる。
至近距離で見つめてくる金色の瞳が言いたいことが分かってしまう。
「キスしても良いか?」
お持ち帰りされた日のお泊まりの件で両親にこっ酷く叱られた後は指一本触れてこなかったレオンスだったが一週間経てば抱き締めてくるようになり、二週間も過ぎると反省はどこに行ったのやらキスを強請ってくるようになったのだ。
律儀な性格なのか最初の一回以来レオンスはキスの許可を取ることを怠らない。きっと断れば彼は抱き締めるだけで済ませてくれる。
それなのに真っ直ぐ向けられた瞳と向けられている熱情に負けて毎回受け入れてしまう。でも、それは建前だ。
「はい…」
ゆっくりと近づいて重なる唇。
角度を変えて何度も何度も啄まれる。ちゅ、ちゅっと短い音を立てながら繰り返されるそれは気持ちが良い。
唇の感触、熱くなった吐息、頭や背中に回された大きな手、密着した体全てから私を好きだって気持ちが伝わってくる。それが心地良い。
レオンスからのキスを受け入れている本当の理由は彼とのキスが心地良くて気持ち良すぎるせいだ。
離れないように大きな背中に腕を回して、少しだけ爪先立ちになってキスをする。
「ん、んっ…」
何十回目かの啄みが終わったところで離れていくレオンス。すっかり息も絶え絶えになり力が抜けてしまった私は彼の鍛え上げられた身体にもたれかかった。
「座るか?」
「お願いします…」
当然の事のように私を抱き上げて運ぶレオンス。私を膝に乗せるようにしてソファに腰掛けた彼はやめていたキスを再開させた。
最初は軽く。段々と深くなっていくそれを受け止める。
「んんっ、ふっ…」
やっぱり気持ち良い。
ただそれは伝えられない。
レオンスにキス一つで喜ぶ軽薄な女だと思われたくないからだ。本心を伝えられない代わりに彼の首に腕を回してキスに応える。
「んっ…んぅ…」
空気を吸いたくて開いた唇の隙間からぬるりとしたものが入り込んでくる。熱くて柔らかいそれは奥に逃げ込んでいた私の舌を見つけ出して絡み付いてきた。
なに、これっ…。
驚き戸惑う私を他所に入り込んでいたそれは好き勝手に口内を荒らしてくる。呼吸も意識も奪う熱いそれに耐えきれなくなった私はレオンスを無理やり引き剥がした。
「はぁっ…はぁ…な、なに、してるんですか…」
息を整えながら見上げたレオンスの瞳は完全に飢えた獣のそれだった。ぺろりと自身の唇を舐めてじっと見据えてくる姿に食べられるんじゃないかと背筋がぞわりと粟立つ。
「アリア…」
艶やか声で名前を呼ばれ、熱を帯びた手のひらで頬を撫でられて顔を近づけられる。彼を拒否する考えは浮かんでこなかった。再び重なった唇はしっとりと濡れており、変な感触がするが嫌じゃない。ぬるりと入り込んできた彼の舌が上顎を掠り「んぁっ…」といやらしくはしたない声が漏れた。薄く目を開くと黄金がゆるりと細められ、口の中が激しく蹂躙される。
「…っ、んっ…はぁっ…ぁ…」
息が苦しいのに、舌が絡むたび気持ち良くて理性が溶かされる。気がつけば自分からも動きを合わせて彼を求めていた。腕を回し合って密着していた体を更にくっ付けて獣が如く貪り合う。
あ、化粧…。
ぼんやりとした頭で考えたのは綺麗に施してもらっている化粧の事だった。薄っすらと汗を掻き、自然と出てきた涙やキスの合間から溢れ出た唾液のせいでぐちゃぐちゃになっているだろう。
どうしようかと思っているとより一層激しくなるキス。
「はっ…今は俺に集中していろ」
「え、んんっ……んぅっ…!」
俺?
レオンスの一人称は『私』じゃなかったっけ。
考えようとするが目の前の捕食者のせいでぐちゃぐちゃになった思考ではまともに考えられない。
結局人が呼びにくるまで私達の唇が離れることはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。