第13話 婚約披露式の日です①
これまで浮いた話が一つもなかった皇帝の婚約は帝国全土を賑わせた。
平民は祝福し、娘を嫁がせようと考えていた貴族は落胆し、重鎮達は時折皇城に訪れる私に気に入られようと必死だ。
私は新しい両親とのんびりした日々を送っている。
本来なら皇妃になる人間として皇妃教育を受けるべきところなのだけど、幸か不幸かアディス王国で妃教育を受けていた私には不必要だったらしい。
レオンスが用意してくれた教師全員に「教えることがありません。素晴らしいです」とお墨付きをもらってしまっている。
皇妃となるならば今からでも公務をやるべきだと思うがレオンスに「今はのんびりしていろ」と言われてしまっている手前、何も出来ない。
アディス王国に捨てられ、フォルス帝国の皇帝レオンスにお持ち帰りされてから一ヶ月が経過した今日催されるのは私とレオンスの婚約披露式だ。
「可愛いわ〜!」
エクレール公爵家の屋敷に響いたのは母の声だった。
現在、私が身に纏っているのは婚約者であるレオンスから贈られてきた白銀のマーメイドドレスだ。上質な生地で職人が丹精込めて縫い上げた極上と呼べる逸品。
所々に散りばめられた黒曜石はレオンスの髪色を表しているらしい。
「私が用意したドレスを着てもらえなかったのは残念だけど、これはこれで最高ね!」
母とレオンス、どちらが私にドレスを着てもらえるかで色々と揉めたらしいが最終的にレオンスに軍配が上がった為、この衣装だ。
母が用意してくれていたのは藍色のドレスだった。
どちらも私の好みなので母から貰った物も別の機会で着れたら良いなと思っている。
「アリア、よく似合っているね」
「ありがとうございます、お父様」
引き取って貰ってから一ヶ月間、元伯父である父は私を甘やかしてくれている。
それは元伯母である母も同じだ。
今ではすっかり仲良し家族として帝国の社交界で有名である。
「行こうか」
「はい」
エクレール公爵家の屋敷から皇城までは馬車で三十分程度の距離にある。
到着すると本日招かれている貴族達が列を成していた。
「アリアーヌ様、お待ちしておりました」
他の貴族達の邪魔にならないよう裏門に回り込むと私が来るのを待っていた人物がいた。
レオンスの右腕として活躍しているレナールだ。
彼は貴族出身ではない。孤児として路上生活していたところ魔力の高さを理由にレオンスに拾われたのだ。
助けてもらった恩もありレオンスには絶対服従の精神を見せている模様。
ちなみに彼が私を婚約者にする件で裏で色々と活躍した苦労人でもある。
軽く挨拶を済ませ、両親と別れた後に向かったのはレオンスの待つ控室だった。
「アリア、待っていたぞ」
部屋に入るなり抱き締めてくるレオンス。
非公式の場で彼と会う時は必ず最初に抱き締められる。嫌じゃないのだけど人前でされると恥ずかしいからやめて欲しい。
「いつも美しいが、今日のアリアはより一層綺麗だな」
「お世辞でも嬉しいです」
「世辞じゃない。誰にも見せたくないくらい今宵のお前は美しい」
「それでは披露式辞めますか?」
「駄目だ。見せたくないが私の妃であると自慢したい気持ちもある」
冗談に真顔で返されると思わなかった。
固まっている私を抱き締め直したレオンスは周りで顔を赤くしていた人達に声をかける。
「式が始まるまで二人きりにしろ」
レオンスが指示を出すと案内してくれたレナールや後ろに控えていた侍女達が一斉に部屋を出て行く。
普通なら婚約者でも男女が二人きりになるのは避けるべきなのだけど、皇帝の権限なのかあっさりと二人きりにされてしまう。
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