第11話 新しい父と未来の旦那の言い合い

レオンスと伯父の睨み合いがあった後、私とエクレール公爵家の養子縁組が成立した。

晴れて私の名前はアリアーヌ・エクレールとなったのだ。


「ふふ、嬉しいわ」

「私も嬉しいです」


隣に座る母に頭を撫でられて頬を緩める。

それを微笑ましく見守ってくれる父。

昨日、祖国を追い出されたというのに幸せ過ぎる空間に居られるのはレオンスのお陰だ。

感謝しなければいけない。


「陛下、アリアとの婚姻はいつ頃を予定されているのでしょうか?」

「出来れば早い方が良い。明日はどうだ?」


徐に尋ねる父にレオンスは笑顔で返した。

明日って冗談ですよね。

王族や皇族の結婚は通常なら一年、早くて半年の準備期間を経て行われるものだ。それなのに目の前の皇帝はそれを無視しようとしている。

驚き戸惑う私の隣で父がレオンスを睨み付けた。


「陛下、くだらない事を言わないでください。出来るわけがないでしょう」

「何を言っている。私は本気だぞ」

「いけません。最低でも半年は我慢してください」

「嫌だ。一日でも早く結婚する」


一歩も譲る気がない父とレオンスにどうしたら良いのか分からず助けを求めるように母を見ると楽しそうに笑っていた。

これ、観劇じゃないのですけど。


「私は早くアリアを可愛がりたいのだ!文句を言うな!」

「私だって娘を可愛がる時間が欲しいに決まってるでしょう!」

「お前達は昔から可愛がってきたんだろ。私に譲れ!」

「嫌です。アリアはずっと大変な思いをしてきたのです。甘やかしてあげるのは私とセレストの役目ですよ」


えっと、このやりとりはなに?

婚姻の話をしていたはずなのに今はどちらが私を可愛がるかで揉め始める二人に戸惑う。

成人してから既に三年も経っているのだ。今更誰かに甘えたいというわけじゃないのだけど。


「ふふ、面白いわね〜」


母だけは楽しそうに二人を眺めていた。



三時間以上に及ぶ話し合いの結果三ヶ月の婚約期間を経て、婚姻を結ぶことになった。

普通の皇族ならあり得ない早さの婚姻の決定に頭がくらりとする。

本当に良いのだろうか。と思うが皇帝と公爵家が認めてしまっているからには周囲も文句は言えないのだろう。

そんなことを考えていると母に声をかけられる。


「ところでアリアは昨日ここに泊まったのよね?」

「そうですね?」


逃げられなかったので、という言葉は飲み込んだ。優しく微笑む母はゆっくりとレオンスの方を向いた。

びくりと体を揺らす彼に何かあったのだろうかと首を傾げる。


「陛下、私の可愛い娘に変な事してませんよね?」

「していない…」


ぎこちない返答をするレオンスを見た母がこちらに向いた。

素敵な笑顔なのに怖い。目が据わってる。


「アリア、本当に何もなかったの?」

「……い、一緒のベッドで寝ました」


本能的に嘘をついた方が不味いと思ってしまった私は馬鹿正直に事実を言ってしまった。

ただキスされた件を言わなかったのは不幸中の幸いだろう。

突如起こった突風により窓側の壁が全て消し飛んでしまった。


「陛下、どういう事ですか?」


苦渋の表情を見せるレオンスを睨み付けたのは風魔法を使用した父だった。

皇城の壁を壊しちゃったけど大丈夫なのかしら。


「まさか結婚前に娘の純潔を奪うとは」


奪われていません。

私はまだ紛うことなき乙女です。


「誤解するな、ただ同じベッドで寝ただけだ」

「それだけでも大問題ですよ」

「他に部屋を用意出来なかったんだ」

「皇帝陛下ともあろうお方が見え透いた嘘をつかないでください」


言い合いになる父とレオンスをどう止めようかと見ていると隣に座った母に軽く耳を引っ張られる。

そちらに振り向くと悪魔のような笑みを見せる母とご対面。恐怖に身が震えた。


「アリア、何を考えて陛下と一緒に寝たのかしら」

「いや、あの…。お願いされて」

「お願いされたら一緒に寝ちゃうの?優しいのね?」

「で、ですが、皇帝からのお願いを断るわけには」

「黙りなさい。帰ったら説教です」


母の説教の長さを知っている身からすると逃げたくなるけど、レオンスの誘いを受け入れたのは自分である。つまり自業自得というわけだ。

大人しく受けるしかないのだろう。

遠い目をしながら「はい…」と返事をした。

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