第10話 エクレール公爵夫婦

朝食を済ませた後、向かったのは執務室の向かい側にあった談話室だった。


「アリア!」


中に入ると母によく似た貴婦人が駆け寄り抱き締めてくる。


「お久しぶりでございます、セレスト伯母様」


伯母の背中に腕を回して挨拶をする。

体を離すと泣きそうな顔を向けられた。そっと頬を撫でてくる手は相変わらず優しくて無性に泣きたい気分にさせてくる。

それをぐっと堪えていると再び抱き締められた。


「大変な思いをさせちゃったわね。ごめんなさい」

「伯母様が悪いわけではありませんから気にしないでください」


悪いのはアルディ王国の人達だ。

私から離れた伯母はレオンスに視線を移すと深く礼をする。

洗練された見事なカーテシーだ。


「陛下、この度は姪アリアーヌを助けていただき誠にありがとうございます」

「アリアは私の大切な人だ。助けるのは当然だろう」


な、と笑顔で確認される。

助けられたような助けられていないような感じなのでどう答えるのが正解なのか分からない。苦笑いで誤魔化していると今度は伯父が立ち上がり私の頭を撫でた。


「久しぶりだな、アリア」

「お久しぶりでございます、レイモン伯父様」

「そう畏まるな。今日からは親子になるのだから」


あっさりと親子になると言ってくれた伯父。

とても嬉しいけど本当に良いのだろうか?

迷惑をかけたりしないだろうか。


「あの、本当に私を引き取ってもらって良いのですか?」

「勿論だ」

「そうよ。私達は昔からアリアが自分達の子供だったら良いのにと思っていたのだから」


伯父と伯母の間には一人だけ子供がいる。

私から見ると六歳上の従兄にあたる人物だ。

現在はエクレール公爵領にて次期領主として仕事をしているので帝都にはいないらしい。

娘も欲しかったという伯父夫婦には昔から大切にされていた。それこそ実の両親よりも親らしく接してもらったこともある。

私自身も二人がとても大好きなのだ。


「アリア、安心してね。あの馬鹿達にはそれ相応の報いを受けてもらうつもりだから」

「馬鹿達って…」

「もちろんアルディにいる大馬鹿達の事よ」


穏やかな微笑みを浮かべる伯母ではあるが相当怒っている様子だ。

魔法が得意ではない母とは違って伯母はかなりの魔法の使い手である。怒らせたら怖いの人なのだ。

ちなみに私に魔法の基礎を教えてくれたのは伯母だった。


「あの、伯母様…」

「もう、お母様で良いわよ。親子になるのだからお母様って呼んで頂戴!」

「で、では、お母様。私は…」

「それなら私の事もお父様と呼びなさい」


私達の間に入ってきたのは笑顔の伯父様だった。

復讐は望みません。

それだけの言葉が全然言えない。

二人の様子から察するにわざと言わせないようにしているのだろう。


「さぁ、アリア。お父様と呼んでくれ」

「お、お父様」


ずっと伯父様と呼んできたので慣れなくてむず痒い。


「もう照れちゃって可愛いわ〜」

「アリア、娘にお父様と呼ばれるという長年の夢を叶えてくれてありがとう」


新しい両親に抱き着かれてしまう。

身動きが取れず困っていると後ろから引き寄せて助けてくれたのはレオンスだった。

お礼を言おうと思ったら今度はレオンスに抱き締められる。

なに、この状況…。


「レイモン、アリアを抱き締めて良い男は夫である私だけだ」

「陛下、お言葉ですがまだ夫ではないでしょう?」

「それを言うならレイモンもまだ父親ではないだろう?」


バチバチと火花を散らして睨み合う二人に溜め息が漏れた。

 

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