第6話 一緒に寝るって正気ですか?
怒涛の展開のせいで忘れかけていたけど今は真夜中だ。
意識した途端に眠気が襲ってきた。
欠伸を噛み殺しているとレオンスに「眠いのか?」と尋ねられるので素直に頷かせてもらう。
「そろそろ寝るか」
「そうですね」
ところで私はどこで寝たら良いのでしょうか。
今座っているソファを貸してもらいたいところだけど皇帝であるレオンスの執務室に居座るわけにもいかない。
どうする気なのだろうかと彼を見ると本日三回目のお姫様抱っこをされた。
「では寝室に行くとするか」
「え?誰の寝室ですか?」
「私の寝室に決まっているだろう?」
レオンスの寝室?
それってつまり…そういうことをするってことよね?
流石にそれは不味い。
なに食わぬ顔をして歩き出す彼から逃れようと暴れると歩みを止めてくれた。
「急に暴れるな。落としたら大変だ」
「そ、そんなことよりも一緒に寝るおつもりですか?」
「ああ、すぐに夫婦となるのだ。今から一緒に寝る練習をしよう」
「む、無理です!」
いずれ王太子に嫁ぐ身であった為、ちゃんと閨教育も受けていた。
無駄に知識だけはある為、男性と寝床を共にするということはそういう営みをすることであると知っている。
結婚してから子作りをするならともかく婚前に行為に励むのは堅苦しい環境で育った私には無理な話だ。
「何故だ?」
「こ、子作りは結婚してからするものでしょう?」
真っ赤になって拒否する私の発言にレオンスも頬を赤く染めた。
どうして言い出した彼が照れるのか分からない。
「違う!ただ一緒に寝るだけだ!」
「え?そういうことをするおつもりだったのでは?」
「同じ布団に入って寝るだけだ。何もしない」
首を横に振って否定する姿は天下の皇帝陛下とは思えない必死さだ。
どうやら本当になにもするつもりらしい。
というなると私の勘違いだったわけで、はしたないことを言ってしまったと恥ずかしくなる。
「で、ですが、未婚の二人が一緒に寝るのもどうかと思うのですが…」
「もう夜中だ。他の部屋の用意が出来ない」
絶対に嘘だ。
一回しか観たことないがフォルス帝国の皇城はかなり広い。それこそアルディ王国の王城の二倍近くの敷地面積を誇っている。
部屋の数だって相当だ。私が寝る部屋を用意するくらいどうってことないはずなのに。
そう思っていると抱き上げる腕の力が強まった。
「お願いだ。今夜はそばにいてくれ」
熱っぽい掠れた声が耳に触れた。
おそらく初めから私に拒否権を与えてくれる気はないのだろう。
仕方ないと諦めて彼の首に腕を回した。
「なにもしないと約束してください」
「約束しよう」
「それなら良いです」
見上げたレオンスは子供のような無邪気な笑顔を見せてくる。
彼に抱きかかえられて向かったのは執務室内から繋がった隣の部屋。中にあったのは大人五人が寝ても余裕がありそうなくらいの大きなベッドが一つだけ置かれていた。
寝室と言っていたし、ただ寝る為だけに用意された部屋なのだろう。
「湯浴みはどうする?寝室の隣にあるぞ」
「お借りしても良いですか?」
森の中に放置されてしまった為、色々と汚れているのだ。湯浴みをさせてもらえるのはとてもありがたい。
「ああ、構わない。着替えは侍女に用意するように言っておく」
「ありがとうございます」
寝室から繋がる扉を開けると脱衣所の先に大きめの湯船を見つける。
「一緒に入るか?」
「なっ…」
「冗談だ。今日は何もしないと約束したからな。いずれ一緒に入ろう」
こめかみ部分に口付けを落としてから床に下ろされた。
文句を言う前に部屋から出て行くレオンスの背中に向かって「絶対一緒には入りませんからね」と叫んだ。
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