第5話 私は罪人ですよ?
「今更の質問ですけど私達の婚姻を周りが許してくれるのでしょうか?」
すっかり頭から抜け落ちていたことを尋ねる。
もっと前に聞くべきだったわ。
「何故だ?」
まるで逃げようとする私を捕まえるみたいに手を握られる力が強まった気がする。
「今の私はアルディ王国を追放された罪人です。罪人と皇帝と結婚を周囲が認めてくれるのでしょうか?」
認めてくれるはずがない。
レオンスを見上げるとふっと柔らかく笑われる。
「なんだそんな事か。何も問題ないから気にするな」
キッパリと言いきるレオンスに驚く。
問題ないって問題大ありですよね?
罪人を娶ったという悪評が他国に広まれば大帝国の名に傷がついてしまう。
それをレオンスが、帝国の民達が許すとは思わない。
もしかして彼が私を妃にすると言ったのは。
「私を愛妾にする気ですか?」
表に出ない、子を産むだけの存在であれば文句も批判も減るだろう。
そう思っていたのだけどレオンスの考えは違ったようだ。
怒ったような表情を見せた彼は私に詰め寄ってくる。その拍子でソファに押し倒される形になってしまった。
「違う。お前がなるのは皇妃だ」
皇妃?
帝国における国母を示す言葉だ。罪人が国母とは正気の沙汰じゃない。
「私、罪人ですよ!帝国の名前に傷がついて…」
手を繋いでいない方の手で頬をぎゅっと挟まれてしまう。おかげで上手く言葉が発せない。
「それ以上くだらない事を言うとまたキスするぞ」
分かったな?と言われる。
それが脅し文句なのはどうかと思うが怖いので首を縦に振った。解放してくれた頬を撫でてくるレオンスは「痛くて悪かった」と申し訳なさそうに呟く。
強引なくせに優しい人だ。
「身分の事は気にするな」
「ですが」
「既にお前を引き取ってくれる家を用意している。一度そこに籍を移してから嫁いでくれたら良い」
「そうなのです……ん?」
既に私を引き取ってくれる家を用意している?
今日婚約破棄をされて国を追い出されたのですけど、準備が良過ぎませんか?
レオンスは私の戸惑う様子を見て楽しそうに笑った。
「前々からお前を奪うつもりだったと言ってるだろう。アリアーヌが私に嫁ぐ準備は万端だ」
この人、ちょっと怖い。
どれだけ私のこと好きなのですか?って聞きたくなるけど聞いたら最後面倒なことになりそうだ。
それに他に聞きたいこともある。
「あの、私を引き取ってくれる家とは…」
「ああ、エクレール公爵家だ」
私がよく知る家名が出てきて目を瞠った。
「エクレール公爵夫人はお前の伯母に当たる人物だからな。協力者になってもらった」
エクレール公爵夫人は母の姉だ。つまり私にとって伯母に当たる人物である。
ただエクレール公爵家とはフォルス帝国内に存在している歴史ある名門貴族の家。
いくら縁者であっても断罪の件を知ったら断られるのでは?と思う。
「伯母様達はお優しい方々です。しかし罪人になった私を引き取ってくれるでしょうか…」
「アルディでの一件は既に伝えてある。エクレール公爵夫人はお前の両親に対して怒り狂っているそうだ」
「もう伝えたのですか?」
「ああ、アリアーヌが森に運ばれている間に伝えた」
おそらく伝達系の魔法を使って報告したのだろう。
それにしても既に私を引き取ってもらうように言っているとは用意周到にも程がある。
「公爵夫人は喜んでお前を引き取りたいと言っているそうだ。勿論公爵も同じ意見だ。だから安心して良い」
伯母様と伯父様が引き取ると言ってくれるのは嬉しいけど、私が罪人になった事に変わりはない。
迷惑にならないのだろうか。
「それとアリアーヌは無実の罪で追い出されただけだ。罪人ではない」
「ですが…」
「断罪の件は私が解決する。安心してくれ」
「え?」
ぎらりと光る金色の瞳の奥には強い怒りが浮かび上がったように感じた。
「公爵には明日皇城で会う事になっているからそのつもりで居てくれ」
「分かりました」
良い子だと頭を撫でられて、額にキスを落とされた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。