第2話 お持ち帰りされました

レオンス・ルロワ・フォルス。

アルディ王国の隣に位置する戦大国として有名なフォルス帝国の若き皇帝。

二年前に先代皇帝が崩御した際、当時二十六歳という若さで即位した人物である。

桁外れの膨大な魔力と抜群の魔法操作力を持つお方で赫赫たる戦果を何度も上げている優秀な大魔法師。

私の予想ではあるが大陸内で彼の名を知らぬ者はいないだろう。

オディロンの婚約者として彼に挨拶をさせてもらったことがある為、初めて会う相手ではない。

しかし森の中で会うとは思わなかった。


それにしてもどうして帝国の皇帝である彼が真夜中の森の中にいるのでしょうか?

それに花嫁ってなに?

目をパチクリさせて驚いていると浮遊感に襲われる。

レオンスに抱き上げられたからだ。しかもお姫様抱っこ。人生で初めての経験に戸惑う。


「フォルス皇帝陛下、何故ここに?」


他にもたくさん聞きたいことがあるけど今一番聞きたい疑問をぶつける。

友好国の皇帝として彼もアルディ王国の舞踏会に招かれていた。

私が罪人として国外追放の刑に処された際、心配そうな視線を送ってきていたのは彼だった。

まさか心配になって追ってきた?

大帝国の主である皇帝が?

流石にそれはないだろうと思っていると。


「お前を連れて帰る為に追ってきた」


本当に追ってきていたことに驚く。

目を瞠りながら彼を見上げると優しく微笑まれた。

どうして皇帝であるレオンスが私を連れて帰る気でいるのだろうか。

新たに湧き出た疑問は表情に出ていたようで彼から答えが降ってくる。


「お前を私の妃にする」


にやりと笑うレオンスに首を傾げた。

私の妃ってことは皇帝の妃ってことよね?

頭どうかしちゃったのかしら?

突拍子もないことを言い出す彼に怪訝な顔をする。


「正気ですか?」

「冗談を言う為にここまで追ってきたりしない」

「それはそうかもしれませんが…。何故、私なのですか?フォルス皇帝もご存知かと思いますが今の私は罪人ですよ?」

「理由は城に帰ってから話す。ここでは落ち着かないからな」


城というのはアルディ王国の城ではなくフォルス帝国の皇城を言っているのだろう。

周りに馬車はなさそうだし、転移魔法でも使う気なのかしら。

そんなことを考えていると額同士がぶつかり、彼の顔が視界いっぱいとなる。


「そろそろ返事を聞かせてくれないか?」


レオンスは私を連れて帰る気満々だ。

さて、どう答えるのが正しいのだろうか。


逃げる。

身を縛られ、抱き上げられている状態では逃げることは不可能に近いだろう。どちらの要素がなくても大魔法師であるレオンスから逃げきるのは不可能に近いと思うので却下だ。


断る。

選べば皇帝の不興を買うことになるだろう。どんな仕打ちを受けるか分かったものじゃない。もしかしたらこの場で殺されるかもしれない。まだ生きていたいのでこれも却下だ。


受け入れる。

どんな妃として扱われるのか分からないが生き続けられる可能性が高い。飽きたらごみのように捨てられるかもしれないがその前に城から逃げ出すって手もある。


そう考えると私の答えは一つだけだ。


「アルディ王国に捨てられた身で良ければあげますよ」


罪人ですけど本気で連れて帰る気ですか?

その気持ちを込めて尋ねるとレオンスは満足気に笑った。


「喜んでもらおう」


それだけ言うとレオンスは転移魔法を使って私を帝国に連れて帰った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る