第2話 お持ち帰りされました
レオンス・ルロワ・フォルス。
アルディ王国の隣に位置する戦大国として有名なフォルス帝国の若き皇帝。二年前に先代皇帝が崩御した際、当時二十六歳という若さで即位した人物である。
桁外れの膨大な魔力と卓越した魔法操作力を持つお方で赫赫たる戦果を何度も上げている優秀な大魔法師。
おそらくこの大陸内で彼の名を知らぬ者は居ない。それくらいの有名人だ。
オディロンの婚約者として彼に挨拶をさせてもらったことがある為、初めて会う相手ではない。しかし森の中で会うとは思わなかった。
どうして彼がこんな鬱蒼とした森の中に居るの?それに花嫁って何を言ってるのよ。
目をパチクリさせて驚いていると浮遊感に襲われる。レオンスに抱き上げられたからだ。しかもお姫様抱っこ。身内男性からこんな風にされたのは人生で初めてだった。
「フォルス皇帝陛下。何故ここに?」
たくさん聞きたいことはあるけど今一番聞きたい疑問をぶつける。友好国の皇帝としてレオンスも今日の舞踏会に招かれていた。
そういえば…。
私が断罪された際、唯一心配そうな視線を送ってきていたのはこのレオンスだ。
もしかして心配になって私を追って来たの?
大帝国の主である皇帝が?
流石にそれはないだろうと思っていると。
「君を連れて帰る為に追って来たんだ」
「じ、冗談ですよね?」
「冗談を言う為にこんなところに来るわけがないだろう」
確かにわざわざこんな森の中まで来るとは思えない。
本当に追って来たのね。
目を瞠りながら彼を見上げると優しく微笑む姿があった。
この人ちゃんと笑えたのね。
初めて会ってから五年も経っているのに彼が笑うところを見たのは初めてのこと。いつも威厳に満ちた顔つきをしていたから。
それよりもどうしてレオンスが私を連れて帰る気でいるのだろうか。
「連れて帰ってどうするのですか?」
雑務でも押しつけるのかしら。
首を傾げると「さっき言っただろう」とおかしそうに笑われる。
「君を私の妃にするんだ」
にやりと笑うレオンスに一瞬息が止まった。
私の妃ってことは皇帝の妃ってことよね?
頭どうかしちゃったのかしら?
突拍子もないことを言い出す彼に怪訝な顔をする。
「正気ですか?」
「さっきも言ったが冗談を言う為にここまで来たわけじゃない」
今度はむっとした表情に変わるレオンス。意外と表情が豊かな人だ。
ってそんなこと今はどうでも良いのよ。
「何故私なのですか?陛下もご存知かと思いますが今の私は罪人ですよ?」
「理由は皇城に帰ってから話す。ここでは落ち着いて話せないからな」
帰るって…。
周りに馬車は見当たらない。おそらく転移魔法を使おうとしているのだ。
ここからだと皇城まで距離があると思うけど。
そんなことを考えていると軽く額同士がぶつかりレオンスの顔が視界いっぱいに広がった。
「そろそろ返事を聞かせてくれないか?」
「えっと…」
「君が嫌なら無理やり連れて行かない」
無理やり連れて行かないと言いつつレオンスの表情は私を連れて帰る気満々だ。
さてこの場合どう答えるのが正しいのかしら。
逃げる。
手足を拘束されて抱き上げられている状態では逃げることは不可能に近いだろう。どちらの要素がなくても大魔法師であるレオンスから逃げきるのは不可能に近いと思うので却下だ。
断る。
無理やり連れて行かないと言っているけどここで断ってしまえば気分を損ねるかもしれない。ただの物取り相手だったら応戦出来るが今回は相手が悪過ぎる。いくら私でも勝てないからこれも却下。
受け入れる。
妃としてどんな風に扱われるのか分からないが生き続けられる可能性が高い。飽きたらごみのように捨てられるかもしれないがその前に城から逃げ出すって手もある。
そう考えると私の答えは一つだけだ。
「祖国に捨てられた身でよろしければ差し上げますよ」
罪人ですけど本気で連れて帰る気ですか?
その気持ちを込めて尋ねるとレオンスは満足気に笑った。
「喜んで貰おう」
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