婚約者編
第1話 森の中に放置されました
「迎えに来たぞ、我が花嫁」
森の中でぼんやりしていた私の目の前に現れたのは真っ黒な短髪と黄金の瞳を持つ美丈夫でした。
遡ること数時間前。
私はアルディ王国の王城にて催されていた舞踏会に参加していた。
「アリアーヌ・サジェス!君との婚約を破棄させてもらう!」
私を指差し、声を上げたのは婚約者であったアルディ王国の王太子オディロンだ。側には彼が懇意にしていた男爵令嬢の姿があった。
名前はジュリー・マントゥール
ジュリーはふわふわのピンク髪とくっきりとした青い瞳を持っており、守ってあげたくなるような愛らしい顔立ちをしていた。
それに引き替え私は銀色の長髪に、鋭い翠眼を持つ顔立ち自体はそこまで悪くないが冷たい印象を受ける容姿をしている。
貴族男性百人に「どちらを守りたいですか?」と聞いたら全員がジュリーと即答するだろう。
別に守ってもらいたいわけじゃないけど、愛らしい容姿を持つ彼女が羨ましいと思ったことは何度もある。
それにしたって婚約者を一人で入場させた挙句に婚約破棄とはオディロンは一体何を考えているのだろうか。
「理由をお聞かせください」
「ふんっ!しらばっくれる気か!」
「婚約破棄を受ける心当たりがないので聞いているだけです」
やや呆れ気味に尋ねるとオディロンは顔を真っ赤にして怒った表情を作ってみせた。
そして私を指差して言ったのだ。
「君は公爵家を笠に私の愛するジュリーを虐めただろう!」
は?と声を漏らさなかったのは淑女教育の賜物だろう。
どこから突っ込めば良いのか分からないのだけど、どうしたら良いのかしら。
まず第一にジュリーを虐めた事実はない。彼女と話した回数は一、二回程度だ。公爵家の名を使ってまで虐める理由がない。
次に愛するってなに?婚約者が居ながら他の人に懸想していたの?という感じだ。
「虐めておりません」
「嘘をつくな!お前はジュリーを社交界から孤立させようとした挙句に暗殺まで考えていたではないか!」
全く身に覚えがない。それなのに周囲からは私が虐めを行っていたという虚偽の証言が飛び出してくる。
それも一人じゃない。十人を超えている。証言者の顔を見れば全員がジュリーを囲っていた男性貴族達だった。
なるほど、私を嵌めたいのね。
ジュリーが企てたのか、それとも彼女と結婚がしたいオディロンが計画したのか。
どちらにせよ、嵌められたことに違いはない。
「君はジュリーに私を奪われた腹いせに虐めを行い、殺害までしようとした!許される事ではない!」
婚約者を奪われたくらいで人を殺すわけないのに。
馬鹿にしたような顔を彼に向けた。
国王陛下達はなにを考えているのだろうか。
ちらりと彼らの顔を見ると目を逸らされた。
無実である私の味方になってくれる気はないの?
ああ、愛する我が子の意見の方が大事ってことなのね。
陛下達はオディロンを溺愛していた。だからこそ彼のやりたいようにやらせているのだろう。
本当に馬鹿げている。
次に顔を見たのは私の両親だった。
彼らは私を睨みつけるだけで助けてくれる気配はなかった。
昔から何故か知らないが両親には嫌われていたのだ。
助けてくれる気がないことはすぐに分かった。
敵ばかりの会場の中、たった一人だけ私を心配そうに見つめる人物がいた。しかし助けを求めて良いような相手じゃないことは確かだ。
「今日からはジュリーが私の婚約者だ。未来の王妃であるジュリーの命を狙った罪は重い!よってアリアーヌを国外追放の刑と処す!」
まさかの国外追放。
冤罪で言い渡される刑じゃないと思うのだけど…。
でも、王太子の婚約者という無駄に重い立場からも、蔑みの視線ばかりを送ってくる両親からも解放されるのなら良いかもしれない。
残りの人生をのんびりと過ごすのも一つの手だ。
ぼんやりと考えている間に衛兵達が私を縄でぐるぐる巻きにして、引っ張り始める。
抵抗しようと思えば出来たけど面倒なので大人しく彼らについて行くと犯罪者を護送するようの鉄格子付きの馬車に乗せられて、国境付近の森に投げ捨てられた。
「せめて縄を解くとかして欲しかったのだけど…」
足も手もぐるぐる巻きにされている為、どんなに頑張っても近くの木に寄りかかるくらいしか出来なかった。
「国外追放って実質死刑と同じなのよね」
名前からして罪を犯した者を国から追い出すだけと思う人間もいるが実際は違う。
追い出した後、物取りに襲わせて嬲り殺させるか娼館に売り飛ばすように仕向けているのがアルディ王国の国外追放だ。
「私はどちらの末路を辿るのかしらね」
そんなことを呟いた時には十人の物取りらしき人物だった。おそらくアルディ王国から派遣された人間達なのだろう。
全員が楽しそうに顔を歪め、そのうちの数名は私を視姦してきている。
この様子だと嬲り殺される方かしらね。
無理やり犯されて死ぬくらいだったら自決を選びたいところだけど、まだ十八歳なのだ。生きていたいと思うのが普通だろう。
そうなると彼らを倒さなければいけない。
幸いにも私は魔法が得意な方だ。
ただの物取り程度であれば何人かかってこようが余裕で倒せる。
ぼんやりと考えている間に目の前にいたはずの物取り達は遠くの方で倒れていた。代わりに私の目の前に立っていたのは真っ黒な短髪と黄金の瞳を持つ美丈夫。
「迎えに来たぞ、我が花嫁」
私にそう告げたのは隣国の皇帝レオンス・ルロワ・フォルスだった。
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