第2話「Two with her」
「わ、私・・・死ぬの」
彼女がそう言った日、僕は彼女の家に行くことにした。
彼女は何も言わなかったが、店を出て歩き出したので、とりあえずついていく。
道中も会話などはなく、ただ劣悪な空気だけが辺りを漂っていた。
やがて、閑静な住宅街の一軒家に着いた。
ここが彼女の家らしい。僕自身、初めて来た。
「お邪魔します」
玄関から中に入ると、奥から中年の女性がやってきた。
「あら、お客さん?」
「あ、どうも。お邪魔します」
どうやら、彼女のお母さんらしい。
とりあえず挨拶を済ませて、彼女の部屋に行く。
部屋は、一軒家の部屋としては至って標準的なサイズだった。
ベッドがあり、机があり、本棚があり、収納スペースがあり・・・。
ほんと、どこにでもありそうな、女の子の部屋って感じだ。
「な、なぁ」
僕が話しかけるも、ベッドに座った彼女は、下を向いたまま何も話さない。
沈黙が流れる。
いま、彼女が何を思って、僕にどんな風にしてほしいのか、彼女自身がどうしたいのか、全く分からなくなっている。
「何か、何か言ってくれよ」
それでも、応答はない。
「もう、どうなっても知らないぞ」
痺れを切らした僕は、そう言って、彼女の頬を引っ叩いた。
こんなことはしたくなかったし、これで嫌われてしまうかもしれない。
だけど、彼女には分かってもらいたかった。
叩いたあと、どんなに言葉を投げかけても、今の彼女には聞こえない。
そう確信したから、僕は彼女を強く抱きしめた。
「一人じゃない。僕がそばにいるから」
分かってほしかったから。
「う、うぅ・・・」
どうやら僕の意思は、彼女に届いたようだ。
涙を流しながら、彼女も僕のことを抱きしめて、お互いがお互いの温もりを感じあった。
未来も大事だ。だけど、今の方がもっと大事だ。
どうなるかも分からない未来に翻弄されるより、今のこの幸せを感じる方が、よっぽど良い。
「そうは、思わないか?」
彼女には、余命が宣告されていた。
それでも、僕は彼女のことを好きでいるし、別れようなんて思わない。
むしろ、これからたくさんの思い出を作って、彼女には、『生きてて良かった』と思ってほしい。
「もし、辛かったり苦しかったりすれば、それは無理することではない。だけど、一人で抱え込まずに、僕で良いなら、何でも相談に乗る。だから、約束してほしい」
「うん・・・ありがと」
彼女の涙と感謝の言葉に、僕ももらい泣きしそうだ。
「じゃ、約束の証」
そう言い、お互いの小指を絡ませた。
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